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第2話 Aランク魔獣? いいえ、ただの「動く高級建材」です

「……んあ? 朝か……」


硬い岩盤の上ではなく、昨日【超速クラフト】で組み上げたウッドデッキの上で、俺は目を覚ました。

周囲は相変わらず薄暗く、禍々しい紫色の発光苔が周囲を照らしている。時計の針は午前七時を指していた。


「信じられない……アラームなしで起きるなんて、入社以来じゃないか?」


大きく伸びをすると、全身の関節がバキバキと心地よい音を立てる。

デス・スコーピオンの甲殻を組み合わせただけの仮設拠点は、風を凌ぐには十分だったが、居住性という点ではまだ「現場のプレハブ小屋」レベルだ。


「よし。今日はこのログハウスを、長期滞在用の『完璧な拠点』に改築するぞ。そのためには……」


俺が一級建築士としての視点で周囲の地形(立地)を再確認していた、その時だった。


『グルルルルゥゥ……ッ!!』


突如、地下空間を揺るがすような低い咆哮が響き渡った。

見れば、数十メートル先の岩陰から、巨大な獣が姿を現したところだった。

全長は優に4メートルを超える、白銀の毛皮を持った巨大な虎。しかも、その周囲には常にカマいたちのような荒れ狂う突風が巻き起こっている。


ネットの知識が正しければ、あれはAランク相当の凶悪な魔物『暴風タイガー』。

出会えば熟練の探索者パーティでさえ全滅を覚悟するという、最下層の暴君だ。


「……マズいな」


俺は額に冷や汗を浮かべた。

命の危機を感じたからではない。


「あの突風……せっかく組んだログハウスの『基礎』がズレるじゃないか。木造建築にとって、想定外の風圧は致命的なんだぞ」


俺の脳内は完全に「現場監督」のそれになっていた。

直接戦って勝てる相手ではないことは百も承知だ。俺には剣を振るう筋力も、魔法を撃つ魔力もない。

あるのは、ただの【建築】スキルと、長年ブラック企業で培った土木工学の知識だけだ。


俺の目に、再び青いワイヤーフレームの『設計図』が浮かび上がる。

暴風タイガーの進行ルート、体重、そして足元の地盤の強度。すべてが瞬時に計算され、ひとつの「図面」として脳内に展開された。


「……導線は読めた。工期は……10秒で十分だ」


俺は愛用の金槌を握り締め、ウッドデッキから飛び降りた。

そして、暴風タイガーと拠点の間に広がる岩盤に向かって、無造作に金槌を振り下ろした。


ガンッ! ガンッ! ガンッ!


【超速クラフト】が発動する。

俺が叩いた部分の岩盤が、まるで豆腐のようにスッポリと四角く切り取られ、アイテムボックス代わりの空間へと収納されていく。


『ガアアアアッ!!』


俺に気づいた暴風タイガーが、獲物を仕留めるべく、猛烈な突風を纏いながら一直線に飛びかかってきた。

そのスピードはまさに弾丸。まともにぶつかれば、ダンプカーに轢かれる以上の衝撃だろう。


「ヨシ、安全確認!」


俺は現場での指差し確認を済ませると、ひらりと身をかわした。


直後。

暴風タイガーの足元の地面が、パカリと「不自然なほど綺麗な四角形」に消失した。


『……ギャウン!?』


轟音と共に、巨大な虎の姿が完全に地中へと消え去った。


ズドォォォォンッ!!


「ふぅ……ピッタリだったな」


俺が見下ろす先には、深さ10メートル、壁面がツルツルに舗装された『超精密な落とし穴』の底で、目を回している暴風タイガーの姿があった。


ただの穴ではない。

俺が前職で嫌というほど設計した「擁壁ようへき」の技術を応用し、底に向かってすり鉢状に狭くなるよう計算し尽くされた構造だ。

暴風タイガーの巨体では、もがけばもがくほど自重で壁面に体が密着し、身動きが取れなくなる「くさび効果」が発生している。

どれだけ風の魔法を暴発させようと、強固な岩盤を【超速クラフト】で圧縮コーティングした壁は、傷ひとつ付かない。


『ガッ……グルル……ッ』


「悪いな。あんたの突風は、うちの施工現場ログハウスの基準を満たしてないんだ。それに……」


俺は穴の底で身動きが取れなくなっている暴風タイガーを、うっとりとした目で見つめた。


「その白銀の毛皮……めちゃくちゃ手触りが良さそうじゃないか」


底冷えするダンジョン生活において、最大の敵は「寒さ」と「湿気」だ。

あの毛皮の密度、そして風の魔力を宿しているということは、通気性と保温性に異常なほどのバフがかかっているに違いない。


「おまけに、あの骨格。あれだけの突風と巨体を支える骨なら、下手なチタン合金よりも軽くて頑丈なはずだ……建材としては最高ランクだな!」


Aランク魔獣を前にして、俺の口から出たのは恐怖の悲鳴ではなく、一級建築士としての歓喜の声だった。

俺は落とし穴の縁に立ち、手にした金槌を軽く放り投げてキャッチした。


「さて、解体バラすか」


俺は【構造把握】で、身動きの取れない暴風タイガーの『強度の最も弱い部分』——つまり、後頭部の延髄の隙間を正確にロックオンした。

そして、インベントリから「先ほどくり抜いた高質量の岩のブロック」を取り出し、寸分の狂いもなくその急所へと落下させた。


ドスッ、という鈍い音と共に、暴風タイガーの命の灯火が消える。

苦しむ暇も与えない、完璧な「安全施工」である。


《Aランク魔獣『暴風タイガー』の討伐を確認しました》

《経験値を獲得。レベルが上昇しました》


無機質な声と共に、穴の底にいた巨大な虎の亡骸が光に包まれた。

【超速クラフト】の自動解体機能が働き、次々と「素材」へと変換されていく。


・『暴風タイガーの白銀毛皮』(S級断熱・防音素材)

・『暴風タイガーの剛骨』(S級軽量・高強度建材)

・『風の特大魔石』(永続的な空気清浄・空調の動力源)


穴から回収したそれらの素材を並べ、俺は思わずゴクリと喉を鳴らした。


「完璧だ……。これなら、俺が理想とする『最高の癒やし空間』が作れる……!」


俺は袖をまくり直し、ニヤリと笑った。

徹夜明けの変なテンションではない。純粋な、モノづくりへのワクワク感だった。

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