第1話:限界社畜、最下層で圧倒的「チル」を手に入れる
新連載スタートです!
終わらない納期、度重なるパワハラ……。
ブラック企業で心身をすり減らしていた限界社畜のおっさんが、ダンジョン最下層で圧倒的な「チル(極楽)」を手に入れるスローライフ・コメディの開幕です。
工具(金槌)と設計知識を武器に、最恐の魔獣たちを「高級建材」としてDIYしていく無自覚無双。
まずは第1話、どうぞお楽しみください!
「おい健人、あの図面の修正どうなってんだよ? 明日の朝イチでクライアントに提出だぞ。終わるまで絶対に帰るなよ」
深夜二時。誰もいないオフィスに、上司からのメッセージ通知音が無機質に響く。
パソコンのブルーライトだけが、38歳、一級建築士である俺——健人の土気色の顔を照らしていた。
胃はキリキリと痛み、エナジードリンクの過剰摂取で動悸が止まらない。
残業代ゼロ。月200時間を超える時間外労働。度重なるパワハラ。
俺の心身は、とうの昔に限界を突破していた。
「あぁ……もう、どうにでもなれ……」
キーボードに突っ伏そうとしたその時。
突然、オフィスの空間がぐにゃりと歪んだ。
「え……?」
床が消失し、底なしの暗闇へと真っ逆さまに落ちていく。
近年、世界各地で発生している『ダンジョン・アウトブレイク』。まさか、うちのブラック企業が入っている雑居ビルの直下に、ダンジョンの穴が開くなんて。
無重力感が全身を支配し、意識が遠のく中、俺は最後にこう思った。
(あぁ、これで……明日の納期、間に合わねぇな……)
***
「痛っ……」
目を覚ますと、そこは赤黒い溶岩が遠くに流れ、紫色の結晶が不気味に発光する巨大な地下空間だった。
熱気と硫黄の匂い。むき出しの岩肌。
間違いない、ダンジョンだ。しかも、この規格外に禍々しい空気は、ネットのまとめサイトで見た『最下層』の景色にそっくりだ。
俺は慌てて、スーツのポケットからスマートフォンを取り出した。
画面の左上には、残酷な二文字が表示されていた。
【圏外】
その文字を見た瞬間。
俺の目から、ポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
「圏外……? ということは、部長からの鬼電も、スラックの鬼通知も届かない……?」
人類の生存限界と呼ばれるダンジョン最下層。それなのに、俺の心はこれまでにないほど澄み渡っていた。
立ち上がり、肺いっぱいに硫黄の混じった空気を吸い込む。
「やった……! 明日から会社に行かなくていいんだ!!!」
歓喜の叫びが地下空間にこだまする。
納期へのプレッシャーも、理不尽な上司の罵倒もない。そんな地獄に比べたら、ここは天国だ。
『ギシャアアアアアッ!!!』
俺の歓喜を遮るように、巨大な水晶の影から「それ」は現れた。
漆黒の甲殻に覆われ、四つの赤い複眼を持つ巨大なサソリ。全長5メートルはあろうかという巨体。ネットで見たことがある。Sランク指定の凶悪モンスター『デス・スコーピオン』だ。
普通なら絶望して腰を抜かす場面だろう。
だが、今の俺の心境は「休日を邪魔されたおっさん」でしかなかった。
《極限状況における精神の解放を確認。特殊条件を満たしました》
《非戦闘スキル【建築】【構造把握】【超速クラフト】が解放されました》
唐突に脳内に響いた無機質な声。
ステータス画面など見なくても、一級建築士としての長年の経験と、新たなスキルがピタリと噛み合うのを感じた。
俺の目には今、世界が青いワイヤーフレームの『設計図』として見えている。
デス・スコーピオンの硬い甲殻も、足元の岩盤も、すべてが「建築資材」として計算可能だ。
「ほう……あのハサミ、凄まじい強度と適度な湾曲。ログハウスの基礎組みのジョイントにぴったりじゃないか」
俺は愛用の仕事用バッグ(なぜか一緒に落ちてきた)から、一振りの『金槌』を取り出した。
『ギシャアッ!』
大木すら両断する巨大なハサミが振り下ろされる。
俺は【構造把握】で敵の「重心」と「強度の最も弱い関節の隙間」を見極め、最小限の動きで躱す。
そして、すかさず関節部に金槌を打ち込んだ。
カァンッ!!
【超速クラフト】によって概念的に強化された一撃が、装甲の継ぎ目を叩き割る。それどころか、スキル効果により、デス・スコーピオンの体は「解体された資材」へと一瞬で変換され、ブロック状に崩れ落ちた。
「よし、良質な資材(建材)が手に入った。さっそく取り掛かるとするか」
俺はネクタイを外し、シャツの袖をまくった。
設計図はすでに頭の中にある。
そこからの作業は、我ながら魔法のようだった。
周囲の巨大キノコを金槌で叩けば、一瞬で防腐処理済みの美しい木材に加工される。
デス・スコーピオンの甲殻を組み合わせ、基礎を作り、柱を立てる。
【超速クラフト】は、材料とイメージさえあれば、釘の一本も使わずに理想の構造物を一瞬で組み上げるチートスキルだった。
——30分後。
「ふぅ……とりあえず、仮設拠点はこんなもんか」
最下層の安全そうな岩陰に、頑丈で美しい『極上のウッドデッキ付きログハウス』が完成していた。
甲殻を断熱材代わりに敷き詰め、発光する紫の水晶を間接照明として配置。風通しと防音性に優れた、信じられないほどリラックスできる空間だ。
俺はウッドデッキに腰を下ろし、バッグに入っていたキャンプ用のバーナーを取り出す。
持参していたインスタントコーヒーを淹れ、お気に入りのチタンマグでゆっくりと一口飲んだ。
「美味い……」
ブラック企業のデスクで流し込んでいた泥水のようなコーヒーとは違う、本物の味がした。
目の前には、美しく光る水晶と、静寂に包まれたダンジョンの絶景。
「決めた。俺はここに、最高のグランピング施設を作る。もう誰にも、俺の時間は奪わせない」
ボロボロのおっさん一級建築士による、最恐ダンジョンでの究極の「チル」なD.I.Yスローライフが、今始まった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
限界社畜のケントが、この絶望のダンジョンをどうやって「極楽リゾート」へと作り変えていくのか……!
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引き続き、ケントの極楽スローライフをお楽しみください!




