第139話:世界樹タワーの完成と、異世界の上棟式
ズズズズズズッ……!!
アビスの天井を塞ぐように、特製コンクリートが亀裂の隅々まで行き渡っていく。
巨大な振動がピタリと収まり、静寂が訪れた。
アビスの最下層から天井までを貫く、超巨大な大黒柱『世界樹タワー』。
その威容が、完全に定着した瞬間だった。
「親方。タワーの応力計算、オールグリーンです。崩落の危険性は完全に消滅しました」
霞の報告が、タワーのデッキに響き渡る。
「やったぁぁっ! け、ケントさん、本当に天井の崩壊が止まりましたよ!」
ルミナがドローンカメラを放り出し、マリアと抱き合って飛び跳ねる。
セリスもリーゼロッテも、へなへなとその場に座り込んだ。
「……ふぅ、お疲れ様」
ケントはマイルドな笑顔を浮かべ、バインダーを閉じて愛用の『金槌』を取り出した。
足元に転がっていた天井の破片に向け、金槌を軽く振り抜く。
コンッ。
《『崩壊の残滓』を『最高級もち米(S級食材)』及び『紅白の横断幕(S級装飾材)』へ変換・取得しました》
「ヨシ。みんな、ヘルメットの上からこれを羽織って」
ケントはインベントリから真新しい『法被』を取り出し、ヒロインたちや双子のコアに配り歩く。
「なんだこれは? 人間の祭りの衣装か?」
姉コアが法被の袖を通しながら、不思議そうに首を傾げる。
ケントはタワーの最上部、紅白の幕で飾られたデッキの縁に立ち、下を見下ろした。
遥か下方のアビスの大地には、岩盤竜や数万の社畜魔物たちが密集してタワーを見上げている。
「全員、よく聞いてくれ! これより、世界樹タワーの『上棟式』を執り行う!」
ケントは超速クラフトで、先ほどのもち米を大量の『特製紅白もち』と『特別ボーナス(金貨入りの封筒)』に変換する。
「みんな、下に向かって全力で投げてくれ。掛け声は『ご安全に!』だ」
「うむ! まかせるのじゃ!」
コア公が法被姿で身を乗り出し、紅白もちを鷲掴みにする。
姉コアもマリアたちも、見よう見まねでもちと封筒を手にした。
「「「ご安全にーーっ!!」」」
ヒロインたちの可愛らしい掛け声と共に、タワーの上から無数の餅と金貨が、桜吹雪のように舞い散っていく。
「うおおおおっ! 餅だぁぁっ!」
「ボーナス! 特別ボーナスが降ってきたぞぉぉ!」
下で待ち受けていた魔物たちが、涙を流しながら大熱狂で群がる。
過労竜も大きな口を開け、器用に紅白もちをキャッチしていた。
『上棟式キタァァァ!』
『異世界で餅まきする現場監督ww』
『魔物たちがボーナスに群がってて草』
『完全にお祭り騒ぎじゃねーかww』
「はい、投げるの疲れただろうから、こっちもお疲れ様会にしようか」
ケントがデッキの奥に『極上BBQセット』を展開する。
分厚い霜降り肉が網の上で焦げる、暴力的な匂いが立ち込めた。
「ああっ……お肉……」
姉コアがフラフラと吸い寄せられ、焼きたての特上カルビと、先ほどのつきたて餅を口に運ぶ。
ジュワァァァッ。
「……ッ!」
瞳孔がカッ、と限界まで見開かれた。
とろけるような肉の脂と、もっちりとした極上の炭水化物が、疲労困憊の体に一気に吸収されていく。
「……ふにゃぁぁっ♡ 労働のあとの焼肉と炭水化物、最高でしゅぅぅ……」
タワーの頂上で、だらしない声を出して骨抜きになるアビスの支配者。
『姉コアちゃん完全に馴染んでて草』
『チョロイン極まれりww』
『もうただのポンコツ現場猫じゃんww』
眼下では魔物たちが宴会を始め、タワーの上でもルミナやコア公たちが笑い合っている。
宴の最中。
カルビを頬張っていた姉コアが、そっとケントの隣に座る。
「……悪くない現場だ」
ヘルメットを被ったまま、彼女は僅かに頬を染めて微笑んだ。
「よし、それじゃあ最後の仕上げ(帰り道)を作るか!」
ケントはマイルドな笑顔を深め、腰のポーチから新たな重機のキーを取り出した!
『上棟式の次は帰り道(道路工事)か!?』
『おっさん、休む暇なく次の重機出してて草』
『姉コアちゃんもすっかり現場の身内ww』
超巨大な大黒柱を打ち立て、アビスの崩落という世界の危機を「上棟式の餅まき」で最高の祝祭へと変えた一級建築士。
裏アビスの地権者(姉コア)もすっかり陥落した今、現場監督が次に取り出したるは、安全に家に帰るための「新たな大型重機」だった!




