第138話:上空の乱気流と、巨大制震ダンパー
「お、親方様! このままじゃ柱が折れてしまいます!」
マリアが風圧に耐えかねて、タワー上部のデッキにしゃがみ込む。
ルミナもドローンカメラを抱え、涙目で柱にしがみついていた。
「ふ、ふん! この程度の風、私の魔法陣で……きゃああっ!?」
姉コアが投影機を構えようとするが、突風に煽られてヘルメットごと吹き飛ばされそうになる。
猛烈な揺れ。
だが。
「……困ったな」
ケントはマイルドな笑顔を崩さず、おや、と困惑したように眉を下げた。
ケントは腰のポーチから、以前の現場で取得していた『風の特級魔石』を取り出す。
さらに、大量の『S級魔力鋼』をインベントリから展開した。
「ちょっとみんな、飛んでいかない様に掴まっててね」
愛用の『金槌』を構え、空中に展開した資材に向かって優しく振り抜いた。
コンッ……。
火花が散り、強固な鋼のフレームと巨大な重り(マス)が一瞬で組み上がっていく。
「ヨシ。風には風の力をぶつけるのが一番だ」
タワーの最上部に設置されたのは、特大魔石をコアに据えた巨大な振り子構造。
超特大の『ダンパー』だった。
暴風がタワーを右へ押し曲げようとした瞬間。
ダンパーの巨大な重りが、自動で左へとスライドした。
ズンッ……!
先ほどまでの激しい軋み音が、嘘のように消え去る。
外では暴風が荒れ狂っているというのに、タワーの内部はピタリと無風状態になり、揺れ一つ起きなくなった。
「え……? 嘘、揺れてない……?」
マリアが開いた口を塞げずに固まる。
姉コアも、信じられないものを見る目で巨大な振り子を見上げていた。
『魔法の暴風を物理で相殺すなww』
『TMDとかガチのビル建築技術で草』
『物理法則強すぎぃ!』
「親方。タワーの垂直精度、誤差ゼロです。制震ダンパー、完璧に機能しています」
霞が背後でタブレット端末をスワイプしながら、満足げな報告を上げる。
揺れがピタリと収まった大黒柱の頂上。
ケントは空になったカップを置き、崩落寸前の天井を見据えた。
「さあ、いよいよ天井とドッキングさせるぞ! 仕上げのコンクリートを流し込め!」
ケントは最終工程のスイッチを力強く押し込んだ!
『ついに天井到達キタァァァ!』
『世界樹』
『崩落まであと数秒!? 間に合うのか!』
魔法の乱気流を「制震ダンパー」で完璧に無力化した、一級建築士。
アビスを崩壊から救う前代未聞の「心柱」が、いよいよ崩れゆく天井を支え上げる最後のドッキング工程へと突入する――!




