第137話:プレカット工法と、ツンデレ設計士(姉コア)のデレ
綺麗に打ち上がったベタ基礎を見下ろし、ケントは満足げに頷く。
(うん、見事な仕上がりだ。これでどんな荷重にも耐えられる最高の土台ができたぞ)
「ふん。下準備は終わったようだな、人間」
ヘルメットを被った姉コアが、ツンと胸を張って歩み寄ってくる。
彼女の小さな手から、空中に巨大で複雑怪奇な『立体魔法陣』が投影された。
「地権者たる私が直々に設計した、最高純度の魔力構築陣だ! ありがたく使――」
「……困ったな。なんて線の多い見づらい図面だ」
ケントはマイルドな笑顔を崩さず、おや、と困惑したように眉を下げた。
「ごめんね。図面が古くて非効率すぎるから、構造体としては不採用だ」
「なっ……私の、何百年も練り上げた芸術的な魔法陣を、古いだと!?」
絶句する姉コアを前に、ケントは愛用の『金槌』を取り出す。
そして、足元に転がっていた巨大な『崩落の魔結晶』へ向け、優しく金槌を振り抜いた。
コンッ……。
《『崩落の魔結晶』を『超硬質・S級ハイブリッド集成材(柱材)』へ変換・取得しました》
「ヨシ、最高の柱の材料が手に入ったぞ」
ケントは間髪入れずに超速クラフトを発動する。
ギャリリリリッ! ギュイィィィンッ!
大量の火花と木屑が散り、無骨な木材が一瞬にして、完璧な寸法でホゾ穴まで彫られたブロック状のパーツへと自動加工されていく。
「さあ、ドンドン組み上げていくよ!」
ケントが指を鳴らすと、プレカットされた巨大な資材が空へと舞い上がり、ガコンッ! ガコンッ!と寸分の狂いもなく噛み合っていく。
『親方の建築RTA始まったww』
『ブロック感覚でタワー建てるなww』
『魔法陣より親方の手作業の方が早いのおかしいだろ』
『プレカットの暴力』
一瞬にして組み上がっていく巨大な大黒柱。
あまりの光景に、姉コアはワナワナと肩を震わせていた。
「わ、私の設計図が……ただのゴミ扱いに……」
ギリッと唇を噛み、屈辱に顔を歪める。
ケントはマイルドな笑顔で彼女の懐に歩み寄り、ヘルメットの上からその小さな頭をポンポンと撫でた。
「でも、この魔法陣の魔力伝導率の計算はすごいな。アビス全土に均等に力を逃がす配線図としては完璧だ。大黒柱の内部配線に採用させてもらうよ、助かった」
「え……?」
姉コアがポカンと口を開ける。
「一人でここまで緻密な計算をしてたなんて、優秀な設計士じゃないか。さすがだね」
優しく頭を撫でる大きな手。
これまでの人生で、ただの一度も仕事の成果を褒められたことのなかった彼女の顔が、ボンッ!と音を立てて真っ赤に染まった。
「べ、べつに……! これくらい、私にとっては造作もないことだ! なんなら配線工事の現場監督も私がやってやろうか!?」
顔から湯気を出し、フリーズしながらも早口でまくしたてる姉コア。
その口元は、隠しきれないほどにニヤニヤと緩んでいる。
『ツンデレ設計士ちょろすぎるww』
『頭ポンポンで完全陥落ww』
『姉コアちゃん、褒められ慣れてなくて草』
『親方、人たらしにも程があるだろ』
「親方。対象の忠誠度がカンストしました。立派な社畜(従業員)の誕生です」
背後で霞がタブレット端末をスワイプし、淡々とエリート君全開のツッコミを入れた。
圧倒的なスピードで天へ向かって伸びていく大黒柱。
いよいよ、崩落の迫るアビスの天井に届こうとした、その時。
ゴォォォォォォォォッ!!!
突如として、上空の気圧が急激に変化する。
「ひぃぃっ!? ケ、ケントさん、風が! すごい風ですぅーっ!」
ルミナが吹き飛ばされそうになりながら、アヴァロンのデッキにしがみつく。
急激なエネルギーの収束。
アビスの天井付近に、すべてを切り刻む『超極大の魔法暴風(乱気流)』が発生した。
ミシッ……ミシミシッ……!
組み上がったばかりの巨大な大黒柱が、猛烈な暴風を真っ向から受け、嫌な軋み音を立てて大きく揺れ始めた!
『うわあああ! せっかくの柱が折れる!!』
『上空で台風発生とか最悪の天候(現場環境)すぎるww』
『高所作業で強風はガチの労災案件だろ!』
プレカット工法による超速建築で心柱を打ち立て、ブラック社長の承認欲求を満たして完全なツンデレ設計士へと染め上げた一級建築士。
しかし、アビスの天井に届こうとするタワーを待ち受けていたのは、高所作業における最大の敵「猛烈な強風(魔法乱気流)」だった――!




