第135話:危険物(トラップ)の自動解体と、最高級資材の調達
ゴゴゴゴゴゴォォォッ!!
重機と化したアヴァロンが、裏アビスの未開拓エリアへと爆走していく。
大黒柱(世界樹型インフラタワー)の建設には、莫大な量の建築資材が必要だった。
「ふん。この先は私が配置した防衛ラインだ。地権者たる私が直々に設計した最高傑作だからな」
助手席で腕を組む姉コアが、ヘルメットの鍔をクイッと上げながらふんぞり返る。
彼女が指さした先には、通路を完全に塞ぐ『致死のレーザー網』と、床一面に広がる『灼熱のマグマ溜まり』が待ち構えていた。
「あの光学レーザーは、触れたものを分子レベルで分解する。そして下のマグマは一千度を超える……下等生物など一歩踏み入れた瞬間に――」
(どこの現場にも、使わない不良在庫(危険物)を何百年も放置しているずさんな管理者がいるものだね)
ケントはマイルドな笑顔を崩さず、おや、と困惑したように眉を下げてアヴァロンを静かに停車させた。
その瞳に浮かぶのは、呆れではなく、整理整頓ができていない現場への安全管理者としての優しい使命感だった。
ケントは運転席からスッと降りた。
そして、分子を分解するはずの致死レーザー網のに向かって、優しく愛用の金槌を振り抜いた。
コンッ……。
火花が散り、真っ赤なレーザー光線がガラスのようにパリーンと砕け散った。
《『致死の光学レーザー網』を『超伝導・S級魔力鋼ワイヤー(S級建材)』へ変換・取得しました》
「……は?」
姉コアが間抜けな声を漏らし、被っていたヘルメットがズレる。
ケントは構わず、今度はマグマの落とし穴の縁に特大の『吸水ポリマーシート』をバサッと被せた。
ジュウゥゥゥゥッ!!
《『灼熱のマグマ溜まり』を『超高耐熱・S級セラミックレンガ(S級建材)』へ変換・取得しました》
「おおっ、こんなに良い素材を隠し持ってたなんて! これなら大黒柱の免震構造にピッタリじゃないか!」
マイルドな笑顔で、山のように積み上がったS級資材をインベントリに収納していくケント。
『おっさんのリサイクル無双ww』
『凶悪トラップがただの資材置き場扱いで草』
『また世界の理をハンマーで叩き割ってるww』
『姉コアちゃんドン引きしてて草』
「わ、私の……何百年もかけて作った絶対殺すトラップが、ただの便利なDIY素材に……」
姉コアがワナワナと肩を震わせる。
だが、その瞳の奥には、ケントの無駄のない職人技に見惚れるような色が確かに混じっていた。
「親方、見事なスクラップ&ビルドです。これなら産業廃棄物の処理費用も浮きますし、最高のSDGsですね」
霞がタブレット端末を叩きながら、エリート君全開のツッコミを入れる。
「ああ。まだまだお宝が眠ってそうだから、ドンドン解体していくぞ」
ケントはご機嫌な様子でアヴァロンに戻ると、インベントリからクーラーボックスを取り出した。
中に入っていたのは、キンキンに冷えた『特製フルーツタルト』とアイスティーだ。
「はい、小休止。頭を使ったあとは糖分を入れないとね」
「ふ、ふん! 地権者として、現場の差し入れの品質検査をしてやるだけだからな!」
姉コアが顔を真っ赤にしてタルトをひったくり、小さな口を大きく開けてかぶりつく。
サクッ。
「……ッ!?」
姉コアの瞳孔がカッ、と見開かれた。
サクサクのタルト生地と、濃厚なカスタードクリームの甘みが、フレッシュな苺の酸味と絡み合って脳髄をぶん殴る。
「バターの香ばしさとフルーツの果汁が、限界の脳細胞に染み渡るぅぅ……っ」
冷酷な支配者のオーラが瞬時に霧散する。
だらしない声を出して、ヘルメット姿のままアヴァロンのシートでとろける姉コア。
『また餌付けされてるwww』
『ツンデレの鑑すぎるだろ』
『地権者(ただの食いしん坊)』
数時間後。
ケントの圧倒的な解体作業により、裏アビスの凶悪な罠は完全に一掃された。
アヴァロンの荷台には、大黒柱を建造するのに十分すぎるほどのS級資材が山のように積まれている。
「よし、これで必要な資材は全部揃ったな」
ケントはマイルドな笑顔で頷き、アヴァロンを社長室跡地の広大な空間へと戻した。
崩落を支えるジャッキは、いよいよ限界の軋み音を立てている。
「さあ、まずは基礎工事(ベタ基礎)を始めるぞ!」
ケントがインベントリから巨大な『コンクリートミキサー車』を取り出し、エンジンを起動した、その瞬間。
ズズンッ……!!
アビスの最深部から、地盤そのものを激しく揺るがす異常な震動が這い上がってきた。
轟音と共に地面が割れ、見上げるほど巨大な『岩盤竜』が、怒り狂った咆哮を上げて姿を現した!




