第132話:社長室へのカチコミと、ワンオペの悲劇
ドゴォォォォンッ!!
重機と化したアヴァロンの特大ブレードが、社長室の分厚い壁を紙くずのようにぶち破った。
もうもうと土煙が舞う中、ケントたちは部屋の内部へと足を踏み入れる。
『おっさんのカチコミキタァァァ!』
『ドアじゃなくて壁から入るの草』
『社長室もただの解体現場ww』
真っ赤なエラー光が点滅し、自爆のカウントダウンを告げる無機質なサイレンが鳴り響く室内。
無数のモニターが並ぶ中央のコンソールで、姉コアがガタガタと震えながらキーボードを叩き続けていた。
「どうして……どうして私の完璧なシステムが……ッ!」
血走った目でモニターを睨みつけ、彼女は泣き叫んだ。
画面には、ジャッキで強制的に止められた崩落エラーの警告文が、無数にポップアップしている。
「あの妹(コア公)がサボってばかりいるから……私がこの広大なアビスの環境維持を、全部一人で回すしかなかったのに……!」
「ひぃぃ……あねうえ、ごめんなさいなのじゃ……」
ケントの背中に隠れたコア公が、耳を小さな手でふさぎ小さくなる。
(なんだ、ただのワンオペで限界を迎えた真面目な現場監督じゃないか)
ケントはマイルドな笑顔を崩さず、おや、と困惑したように眉を下げた。
その瞳に浮かぶのは、怒りではなく、かつて自分も経験した、過酷な労働環境への深い同情だった。
(一人に過度な責任と業務を集中させる『ワンオペレーション』。そんなもん、いずれシステム全体が崩壊するに決まってるだろ)
「近寄るなァァァッ!」
姉コアが狂乱し、両手から極大の『殲滅レーザー』を放った。
ケントは一切動じず、インベントリから『高強度・断熱ブロック』をササッと取り出し、目の前に重ねて分厚いシールドを組む。
ジュオォォォォッ!!
《『殲滅の光学レーザー』を『大容量・高出力リチウムイオン蓄電池(S級動力源)』へ変換・取得しました》
「ヨシ、アヴァロンの予備バッテリーが手に入ったぞ。これで暖房の出力も上げられるな」
『殲滅レーザーがただのモバイルバッテリーにwww』
『魔法の扱いが雑すぎるww』
『姉コアちゃん、完全にワンオペの被害者で草』
『一人でアビス回してたのか……そりゃ病むわ』
「親方。対象のストレス値が限界を突破しています。これ以上の業務継続は、過労死の危険性が極めて高いです」
霞がエリート特有の冷徹さで事実を突きつける。
「もういい……全部終わりだ……私の苦労も、このアビスも……全部……」
膝から崩れ落ち、ボロボロと大粒の涙をこぼす姉コア。
ブラック企業の冷酷な社長の正体は、ただ妹の尻拭いをし、一人で巨大な現場を背負い込んだ可哀想な姉だった。
ケントはマイルドな笑顔を浮かべ、泣きじゃくる彼女の懐へと静かに歩み寄る。
「一人で全部抱え込むから、バグが起きるんだよ」
ケントは愛用の『金槌』を取り出し、スッと抜き放つ。
そして、泣き崩れる姉コアの頭頂部に向かって、優しく金槌を振り下ろした。
コンッ……。
「ちょっと頭の疲労をクリアするよ」
『おっさん、姉コアの頭に物理フォーマットww』
『金槌でキャッシュクリアすなwww』
『姉コアちゃん、ついに救済される!?』
絶望のワンオペで限界を迎えていたブラック社長に対し、深い同情と共に愛用の金槌を振り下ろした一級建築士。
悲しき過労のシステムを物理的に再起動による、極上の「労務環境改善」を開始する!




