第131話:不当な『計画倒産(自爆)』と、超高圧油圧ジャッキ
アビスの空間に、不気味な警告音が鳴り響いた。
けたたましいサイレンと共に、大地が激しく揺れ始める。
「な、なんですかこれっ!? 地震!?」
ルミナがドローンカメラを抱きしめ、しゃがみ込む。
アビスの遙か上空、暗闇に包まれた天井の岩盤に巨大な亀裂が走り、パラパラと無数の瓦礫が降り注いできた。
「は、はわわっ……! 姉コア様が、アビスの自爆プログラムを起動しました……! この空間ごと、全てを無に還すおつもりですぅーっ!」
セリスが顔面を蒼白にして叫ぶ。
数十万トンにも及ぶアビスの天井が、轟音を立てて崩落を始めていた。
『世界の終わりキタァァァ!』
『天井落ちてくるとか絶望すぎる』
『親方、今度こそヤバい!逃げて!』
圧倒的な質量の落下。
誰の目にも明らかな、逃げ場のない死のカウントダウン。
「……困ったな」
ケントは困惑したように眉を下げた。
ケントは嘆息する代わりに、腰のポーチから愛用の『金槌』を抜き放つと、頭上から降ってきた巨大な岩の塊に向かって優しく振り抜いた。
コンッ……。
《『絶望の崩落岩盤』を『超高強度・シームレス鋼管(S級資材)』へ変換・取得しました》
「ヨシ、極太の支柱が手に入った。これならいけるぞ」
ケントの手元が残像を生む。
取得したばかりのシームレス鋼管に、インベントリから取り出した巨大な油圧ポンプを組み合わせクラフトしていく。
バチバチバチッ!!
瞬く間に組み上がったのは、ビルをも持ち上げる超特大の『超高圧油圧ジャッキ』だった。
アヴァロンの強固な土台にジャッキの底を固定し、ケントはメインレバーを力強く引き下げる。
プシュゥゥゥゥッ!!
圧縮された油圧が解放され、極太のシリンダーが凄まじい速度で天へ向かって伸びていく。
ズドォォォォンッ!!
ジャッキの先端が、崩れ落ちてきた数十万トンの天井のど真ん中に突き刺さった。
金属が軋む凄まじい音が響き渡り、アビスを押し潰そうとしていた絶望の崩落が、物理的にピタリと止まる。
「え……?」
ルミナが開いた口を塞げずに固まる。
マリアもセリスも、信じられないものを見る目で天を突く極太の鉄柱を見上げていた。
『天井崩落をジャッキで止めるなww』
『また物理で解決www』
『世界の終わりを一本の柱で支えてて草』
『おっさんの前では計画倒産すら許されないww』
「はい、仮枠の支保工完了。ちょっと揺れて驚いたと思うから、これでも飲んで落ち着いて」
ケントはマイルドな笑顔を浮かべると、温かいカップをみんなに配り歩いた。
保温ボトルから注がれた、湯気を立てる『特製ホットココア(S級マシュマロ入り)』。
「ああっ……」
震える手でカップを受け取り、リーゼロッテが一口啜る。
濃厚なカカオの香りと、トロトロに溶けた甘いマシュマロが冷え切った体を一瞬で温めた。
「……ふにゃぁぁっ♡ 崩落する天井の下なのに、このマシュマロの甘さが……安心しましゅぅぅ……」
絶望のどん底から一転。
だらしない声を上げて、アヴァロンのソファにへたり込む少女たち。
『世界の終わりをココアでくつろぐなww』
『、すっかり肝が座ってて草』
『極限状態のティータイムww』
ミシミシと、頭上でジャッキが数十万トンの岩盤を支える軋み音を立てている。
ケントは空になったココアのカップを置くと、重機と化したアヴァロンの操縦桿を力強く握りしめた。
「さあ、悪質な社長に直接クレームを入れに行くぞ!」
ケントはアクセルペダルを床まで踏み込む。
「社長室のドアをぶち破れ!」
『ブルドーザーで社長室に突撃ww』
『計画倒産を許さない最強の債権者』
姉コアによるダンジョン崩落を油圧ジャッキでストップし、崩れゆく天井の下で優雅なココアブレイクをキメた一級建築士。
次なる工程は、逃げ隠れするブラック社長の心を、重機で物理的にぶち抜く「直接交渉」だった。




