第129話:違法建築の迷宮
空間がぐにゃりと歪み、巨大な口となってアヴァロンを丸のみにした。
視界が開けると、そこは薄暗くカオスな『裏アビス』の迷宮だった。
トゲの生えた鉄球が転がり、床には無数の落とし穴。
通路は複雑に入り組み、壁からは不規則に毒の矢が飛び交う絶望の空間。
「ひぃぃっ! 四方八方、罠だらけですぅー!」
ルミナがドローンカメラを抱きしめて悲鳴を上げる。
マリアが両手に短剣を構え、セリスも顔面を蒼白にして身構えた。
絶対的な死の迷宮。
だが。
「……困ったな。なんて散らかった現場だ」
ケントはおや、と困惑したように眉を下げた。
(資材(罠)は床に直置きだし、意味不明な壁のせいで動線は最悪だ。これじゃあどこに何があるかサッパリわからない)
ケントはインベントリから、『高出力魔力モーターのコア』『超硬合金のアンビル』、そして『高圧混合ガスボンベ』といった素材を取り出した。
マイルドな笑顔のまま、愛用の金槌で素材同士の継ぎ目を優しく叩き合わせる。
コンッ、コンッ……。
《『インパクトレンチ』および『溶接バーナー』をクラフトしました》
ケントのチートスキル、超速クラフトによる、スマートな超速DIY。
完成したばかりの工具を手に、ケントは振り返った。
「ちょっとみんな、しっかり掴まってて。今からこの現場を『お片付け』するから」
バチバチバチッ!!
ガガガガガッ!!
目にも止まらぬ速さで、アヴァロンの最前部に特大の『土砂を押し出す板』をボルト締めし、溶接していく。
数秒後、極上リゾート施設は、狂気の重機要塞へと姿を変えた。
「ヨシ、前進!」
ケントが操縦桿を力強く倒す。
ゴゴゴゴゴゴォォォッ!!
特大のブレードが、立ちはだかる迷宮の壁を紙くずのように粉砕する。
床に設置された凶悪な罠ごと、一切のカーブを描かず一直線に突き進んでいった。
メキメキメキッ! ギャリリリリッ!
《『絶対死の毒矢ギミック』を『超硬質・黒曜石の釘(S級資材)』へ変換・取得しました》
《『無限地獄の迷宮壁』を『高強度・断熱ブロック(S級建材)』へ変換・取得しました》
「おおっ、いい建材がいっぱい手に入るな。ゴミは全部リサイクル行きだ」
迷路という概念そのものを、物理的なブルドーザーで真っ直ぐに破壊していく。
後ろには、綺麗に整地された真っ平らな道だけが残された。
『迷路をブルドーザーで直進すなww』
『罠ごと壁をぶち抜いてて草』
『お片付け(物理)』
『おっさんの前では迷宮もただのゴミ屋敷ww』
「親方、見事です。現場の安全性が劇的に向上しました」
背後で霞の満足げな声が響く。
「はい、道も綺麗になったし、おやつ休憩にしようか。ホコリを吸っただろうから、喉を潤して」
ケントは操縦桿から手を離し、インベントリからキンキンに冷えた『特製フルーツ牛乳』を取り出す。
さらに、アヴァロンのデッキに『極上マッサージチェア』をポイッと設置した。
「ああっ……」
強張っていたセリスたちが、フルーツ牛乳を飲み干してマッサージチェアに倒れ込む。
「……ふにゃぁぁっ♡ 揉み玉が凝り固まった筋肉を……フルーツの甘さが脳に……最高でしゅぅ……」
恐怖の迷宮のど真ん中で、だらしない声を出して完全に骨抜きになるセリスたち。
ケントはマイルドな笑顔で頷き、再び重機のアクセルを踏み込んだ。
「さあ、ドンドン片付けるよ!」
ドゴォォォォンッ!!
ブレードが分厚い壁を派手にぶち抜く。
土煙が晴れた、その先。
「あ……」
迷宮の最深部。
そこには、ボロボロの作業着を着て、過労でガタガタと震えながら休憩している『大量の社畜魔物たち』が密集していた!
『えっ!? なんかめっちゃ疲れてる魔物の群れが!』
『ダンジョンの最深部がただのタコ部屋ww』
ブラック社長の悪質な罠を、『ブルドーザーによる物理的お片付け』で粉砕した一級建築士。
整地された一本道の先に待っていたのは、迷宮の最深部で搾取され続ける、悲しきモンスターたちのタコ部屋だった。




