第128話:涙の極上ステーキと、労働契約のサイン
ジュルルルルッ。
滝のようなヨダレを垂らしながら、漆黒の過労竜が仮設食堂の前にドスンと座り込む。
「はい、お疲れ様。うちの現場はまかない付きだから、遠慮なく食ってくれ」
ケントは笑顔を浮かべると、極厚のガーリックステーキが乗った特大の鉄板を、竜の鼻先へドンッと押し出した。
「た、たべる……」
過労竜は震える前足で器用にフォークを握り、分厚い肉の塊を口へと運ぶ。
ガブッ。
ジュワァァァァッ!
噛み締めた瞬間、閉じ込められていた極上の肉汁が口いっぱいに弾ける。
焦がし醤油の香ばしさと、濃厚なガーリックバターの風味が、ボロボロの内臓にダイレクトに染み渡っていく。
「っ……!!」
過労竜の瞳孔がカッ、と限界まで見開かれた。
ボロボロだった鱗にツヤが戻り、目の下の酷いクマが嘘のように消え去る。
「……ふにゃぁぁっ♡ 疲弊した内臓に、ガーリックバターが染み渡るぅぅ……お肉、おいしぃぃ……っ」
山のように巨大なドラゴンが、大粒の涙をポロポロと流してその場に崩れ落ちた。
完全に骨抜きになり、だらしない声でケントの足元にスリスリと擦り寄ってくる。
『ドラゴンが秒で堕ちたwww』
『チョロイン竜の爆誕』
『親方の飯は種族の壁を超える』
『ブラック企業の被害者かわいそうww』
ケントはマイルドな笑顔を崩さず、同情するように優しく目を細めた。
そしてインベントリから用紙を取り出し、ペンと一緒に竜の鼻先へ差し出す。
「はい、これ『雇用契約書』ね。うちの現場に来るかい?」
「いく! いくでしゅぅぅ!」
過労竜は秒で用紙を奪い取り、爪の先でシャシャシャッ!とサインを書き殴った。
「ヨシ。今日から君もうちの従業員だ。ゆっくり休んで英気を養ってくれ」
「親方様ぁ……一生ついていきましゅぅ」
ケントのリゾート施設に、新たな最強戦力(大型重機枠)が加わった瞬間だった。
「ば、馬鹿な……ッ!? 私の、私の最強の兵が、たかが肉一切れで寝返るだとぉぉっ!?」
姉コアが頭を抱え、信じられないものを見る目で絶叫する。
ケントは用紙をインベントリに入れ、笑顔のまま彼女に向き直った。
「あのさ」
「な、なんだッ!」
「従業員を大切にしない現場は、すぐに人が離れるぞ。恐怖で縛り付けるんじゃなくて、適切な報酬とリスペクトで報いる。それが強固な組織を作るマネジメントの基本じゃないか」
一級建築士による、ぐうの音も出ない経営のガチ説教。
『おっさんのコンプライアンス説教キタ!』
『正論すぎてぐうの音も出ないww』
『ブラック社長、完全論破されてて草』
『ホワイト企業の鑑すぎる』
「き、貴様らぁぁっ……! 私の、完璧に最適化された恐怖のシステムを、徹底的にコケにする気か……ッ!」
姉コアの顔が、かつてないほどの屈辱と怒りで醜く歪む。
ギリッと奥歯を噛み砕くほどの力で食いしばり、両腕を大きく広げた。
ゴゴゴゴゴゴォォォッ!!
アビスの地面が激しく揺れ、姉コアの背後にある暗闇の空間がドロドロと歪み始める。
「ならば、私の領地ごと貴様らを飲み込んでやる! 永遠に彷徨い、過労で死ぬがいい!」
空間の歪みが巨大な口となり、ケントやチョロインたちを乗せたアヴァロンを、凶悪な『違法建築の迷宮』へと一気に引きずり込んだ!
『うわあああ! 現場ごと飲み込まれた!!』
『ダンジョン(違法建築)に強制連行ww』
『親方! 次の現場は迷宮のリフォームですか!?』
過労竜をホワイト待遇で引き抜き、ブラック社長にガチ説教をかました一級建築士。
しかし、怒り狂った地権者の力によって、一行は最悪の「違法建築物件」へと強制チェックインさせられてしまうのだった!




