第126話:冷酷なる姉コアと、理不尽な吸収
「ひぃぃ! 人間、あれ吾輩の超絶厳しい姉上なのじゃぁぁ!」
ケントの後ろに隠れたコア公の悲鳴が、冷たい空気に吸い込まれていく。
瓜二つの姿をした少女、コア后(姉コア)は冷酷な笑みを深め、アヴァロンの境界線へと一歩進み出た。
「そういうことだ。今日からこの敷地は、私の『裏アビス』に吸収された。手始めに、その無駄に広い芝生を更地にして、強制労働施設を建てる。お前たちは今日から24時間、死ぬまで休まず働け」
絶対零度の声。
圧倒的な威圧感が、アヴァロンの芝生エリアを黒く染め上げていく。
『うわぁぁぁ! ガチのブラック社長だ!』
『コア公の姉、怖すぎるww』
『おっさんのリゾートが強制労働施設に!?』
圧倒的な魔力の奔流。
ルミナは膝から崩れ落ち、かつて神の代行者だったセリスでさえ、ガタガタと歯を鳴らして怯えている。
「親方。対象から計測不能なレベルの敵意が検出されました。まともな交渉は不可能です」
背後に立つ霞の声すらも、微かに緊張を孕んでいた。
「……困ったな」
ケントは困惑したように眉を下げた。
ケントは作業着の胸ポケットから、スッと名刺を取り出す。
絶望的なオーラなど一切意に介さず、マイルドな笑顔のまま姉コアの目の前まで歩み寄った。
「勝手な吸収とか言ってるけど、おたくの現場、相当なブラック環境だね」
「……何?」
姉コアが不快そうに細眉をひそめる。
「まずは敷地境界線をハッキリさせようか」
「愚かな下等生物め。この私の前で、意味のわからぬ戯言を……消し飛べ!」
姉コアの足元から、対象を空間ごと削り取る極大の魔力が放射される。
ケントはインベントリから愛用の『金槌』を取り出し、足元に迫る魔力の『急所』に向かって優しく振り下ろした。
コンッ……。
《『絶対支配の威圧(極大魔力)』を『極細・超高強度蛍光水糸(S級測量資材)』へ変換・取得しました》
「ヨシ。いい水糸が手に入った」
ケントは取得したばかりの蛍光ピンクの糸を手に取る。
カンッ! カンッ! と軽快な音を立てて、姉コアの足元の地面に木杭を打ち込み、ピンッ!と一直線に糸を張った。
「はい、ここからこっちは俺たちの現場だ。勝手に入らないでね」
『水糸張ったwww』
『ラスボスの足元で測量すなww』
『親方の前では絶望のオーラもただの糸』
『結界(物理)』
唖然とする姉コアを放置し、ケントはキンキンに冷えた『特製スポーツドリンク』をルミナたちに配り歩く。
「はい、水分補給。変なクレーマーの圧で疲れただろうから、少し休んでて」
「ああっ……」
青ざめていたセリスがボトルを受け取り、一口ゴクリと喉を鳴らす。
全身の強張りが嘘のように解け、頬がピンク色に染まった。
恐怖のどん底から一転。
だらしない声を上げて芝生に寝転がるセリス達。
その光景に、姉コアはワナワナと肩を震わせた。
絶対的な支配者である自分の威圧が、ただの「ピンクの糸」で区切られ、完全に無視されている。
「き、貴様らぁぁっ! 私をコケにするのも大概にしろッ!」
激怒に顔を歪め、姉コアは両手を天へと掲げた。
「ならば、私の手足となる優秀なモンスターたちで、お前たちもろとも更地にしてやる!」
ドゴォォォォンッ!!
空間が引き裂かれ、アビスの奥底から、山のように巨大な『漆黒の過労竜』がズズンッと姿を現した!
『で、出たー! ブラック企業の社畜ドラゴンだ!』
『目が完全に死んでるwww』
『目の下のクマがヤバいww労基呼んでやれよ!』
ピンク色の水糸で絶対防衛線を構築し、極上のスポドリで現場の士気を爆上げする一級建築士。
怒り狂うブラック社長(コア后)が繰り出してきたのは、悲しき無休労働の果てにボロボロになった、巨大な過労モンスターだった――!




