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第123話:ポンコツ支店長の強制解雇と、帰り道のポータル拡張

巨大な鋼鉄の扉の『急所』に特大バールの先端をスッと差し込み、テコの原理を利用して優しく押し下げる。

ギィィッ……!


大気圏を突破したアヴァロンが乗り込んだ先は、無数の配線が這い回る冷たい空間。

機械都市の心臓部、『神の領域(サーバー室)』だった。


「よくぞここまで来た、愚かな下等生物どもよ!」


空間の中央。

巨大な光の球体に包まれた『管理者』が、仰々しいエフェクトと共に浮かび上がる。


「我こそは世界の創造主! 貴様らのごとき塵芥が、我が足元に及ぶと――」


(どこの現場にもいるんだよね。ちょっと権限を持っただけで、自分が一番偉いと勘違いしてしまう困ったワンマン社長が)


ケントはマイルドな笑顔を崩さず、作業着のポケットから『防水防塵スマホ』を取り出した。


画面を操作し、アビスの配電盤へテレビ電話をかける。

プルルルル、ガチャ。


『あ? 親方、こっちは今、古代竜と焼肉を食べて……ん?』


画面の向こうに映ったのは、アビスで無料Wi-Fiルーターとして働いている『元・神々たち』だった。

ルーター神は、ケントの背後に浮かぶ管理者の姿を見て鼻で笑う。


『え、そいつまだ動いてたの?数千年前に通信エラー吐いて放置してた、ポンコツ支店長じゃん。こっちの管轄外だわ』


「な、なに……っ!? ほ、本社の偉大なる神よ、なぜあのような日雇い労働者と通信を……ッ!」


『親方、ローカルサーバーの権限オーバーですね。勝手にメインサーバーを名乗っていただけのようです』


インカム越しに、霞のエリート君全開のツッコミが静かなサーバー室に響き渡った。


『ラスボス、まさかの放置された支店長』

『イキってたのに瞬殺されてて草』

『悲しい身バレする神様ww』


「き、きさまらぁぁぁッ! 私の威厳を、神のプライドをォォォ!」


赤っ恥をかいた管理者が発狂し、空間を揺るがすほどの莫大なエラーデータを放とうとする。


「はいはい、不当なワンマン経営はそこまで」


ケントはマイルドな笑顔のまま瞬時に管理者の懐へ潜り込み、愛用の『金槌』を心臓部コアの急所へ向かって優しく振り抜いた。


コンッ……。


絶妙な力加減による、スマートな一撃。

絶対に破壊不可能だったはずの管理者権限コアに亀裂が走り、パリーンと小気味よい音を立てて粉砕された。


《『暴走した管理者権限コア』を『マスターキー(全権限アクセス権)』へ変換・取得しました》


「はい、強制解雇! 今日からこの現場は新体制に移行するよ」


取得したばかりのマスターキーを、マザーAIホログラムとセリスの手にポンと乗せる。


「二人とも、この現場の管理は任せたよ。ちゃんと週休二日で回すんだぞ」


「……ふにゃぁぁっ♡ わたしゅ、親方様のために最高のホワイト現場を作ってみせましゅぅ……!」


「ああっ、親方様の温かい権限……一生大切にしますぅぅ……!」


新たな権限とケントの優しさに触れた二人は、だらしない声を出してその場にへたり込んだ。


『権限丸投げww』

『神の座が、ただの現場監督のポストに』

『チョロインたちが新しい神様になりましたww』


(さて。これで出張の仕事は全部終わりだ)


ケントはスマホをポケットにしまい、大きく伸びをした。


「よし、撤収! 温泉アビスに帰るぞ!」


アヴァロンを反転させ、元来た小さなポータル(空間の裂け目)の前に立つ。

出張に来た時は人間サイズだったが、今は巨大なリゾート要塞の姿だ。当然、そのままでは通り抜けることができない。


(ドア枠に荷物が引っかかるなら、開口部を広げればいいだけだ。テコの原理を使えば、空間の壁なんて簡単にこじ開けられるからね)


インベントリから、先ほどクラフトした『特大チタンバール』を取り出す。

ポータルの縁の『急所』にバールの先端をスッと差し込み、テコの原理を利用して優しく押し下げた。


ギィィッ……。


絶妙な力加減によるスマートな手作業。

空間の壁がスムーズにスライドし、巨大なアヴァロンが通れるほどの『超大型の連絡通路』へと静かに拡張された。


「ヨシ、搬入経路の確保完了! アヴァロン、発進!」


轟音と共にポータルを抜け、時空のトンネルを滑り落ちる。

数分後。

視界が開けると、そこには硫黄の香りと、香ばしいBBQの煙が漂う極楽空間が広がっていた。


ダンジョン最下層、アビス。

完全に実家のような安心感のある『いつもの現場』だ。


アヴァロンが着陸すると、そこにはなぜかフリフリのメイド服を着たマリアが、モジモジしながら立っていた。


「お、お帰りなさいませ、ご主人様……っ♡(ケ、ケント様、似合うって言ってくれるかな……っ)」


(おやおや、いつものつなぎの作業着からメイド服にチェンジするなんて。さてはアビスを『テーマパーク』として本格稼働させるための、コンセプトカフェの自主研修ロープレだな。なんて労働意欲の高い従業員なんだ)


「ただいま、マリア。素晴らしいプロ意識(接客態度)だね。制服の着こなしも完璧だよ」


「ぷ、プロ意識……? あ、はいっ! 業務の一環ですからっ!(やったぁぁ! 褒められましたぁぁ!)」


ケントに褒められ、尻尾を振る犬のようにデレデレになるマリア。

だが、ケントの背後から「私たちも親方様のためにメイド服着ましゅぅ!」と新入りが出てきた瞬間――。


スッ……。


マリアの満面の笑みが、能面のように消え失せた。

瞳の中からハイライトが完全に消失し、周囲の気温が急激に氷点下へと下がっていく。

メイド服のスカートの裾から、チャキッ、と鈍く光る暗殺用のナイフが滑り出た。


「……ケント様の現場コンセプトカフェに、どこの泥棒猫が入り込んだのかな?」


『ヒィィッ! マリアちゃんの目がガチだww』

『世界の終わりより怖い修羅場キタコレ!』

『おっさん、すれ違ったまま新入り連れ込んで浮気発覚ww』


神の領域を制覇し、意気揚々と実家アビスへ帰還した一級建築士。

しかし、そこで待っていたのは、世界の崩壊よりも恐ろしい「正妻(?)による極上のクレーム対応」だった――!

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