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第121話:違法な『更地化(世界崩壊)』と、不当解雇への抗議

『――警告。代行者の所有権移行エラーを確認。防衛プロトコルを作動。これより本区画(世界)の自動フォーマット(更地化)を開始します』


無機質なシステム音声が、ひび割れた空から降り注ぐ。

同時に、機械都市の遠くの地平線が、音もなく『消滅』し始めた。


ビル群が、道路が、空間そのものが。

真っ白なピクセル状のデータに還元され、虚無の空間へと削り取られていく。


「ひ、ひぃぃぃっ!? け、ケントさん、地面が消えていきますぅーっ!」


ルミナが頭を抱えてしゃがみ込む。

ドローンカメラの映像には、世界の果てから迫り来る「真っ白な無」が映し出されていた。


「私のせいで……っ。私が親方様の現場に寝返ったから、管理者のシステムがあてつけで世界ごと……!」


セリスが顔面を蒼白にして震える。

全てを初期化し、強制的に何もない更地へと変える絶対的な消去プログラム。


圧倒的な終末の光景が広がっていく。


だが。


「……困ったな」


ケントは首をポリポリと掻きながら、眉を下げた。


(せっかくアヴァロンの増築工事が終わったばかりなのに。勝手に現場を更地にするなんて)


迫り来る白い虚無の波。

全てを消し去るそのバグの先端に向かって、ケントはマイルドな笑顔のまま歩み寄る。


「ちょっとみんな、危ないから下がっててね。粉塵が舞うから」


愛用の『金槌』を取り出し、インベントリから要塞を解体した際の『耐圧チタンパネル』を空中に展開する。


「ちょっと硬いものをこじ開けるから、専用のバールが必要かな」


マイルドに微笑みながら、空中に浮かぶチタンパネルの急所に向かって、優しく金槌を振り下ろした。


コンッ……。


絶妙な力加減による優しい一撃。

その瞬間、分厚いチタンパネルがパズルのように組み換わり、鈍く光る一本の屈強な工具へと姿を変える。


《『耐圧チタンパネル』を『特大のチタン製バール(S級工具)』へ変換・構築しました》


出来立ての特大バールを手に取ると、ケントはアヴァロンの足元まで迫った『世界の消去波』の境界線へと歩み寄る。


そして、空間のバグが生み出した亀裂に、バールの先端を正確に差し込んだ。


ギィィッ……。


テコの原理を利用した絶妙な力加減で、世界を消す波が物理的な抵抗を受けてピタリと止まる。


「な、波が止まった……!? 物理法則を無視した概念の波を、バールでこじ開けてるでしゅか!?」


リーゼロッテが開いた口を塞げずに絶叫する。


ケントはすかさず、こじ開けた隙間に向けて、優しく金槌を振り下ろした。


コンッ……。


《『自動フォーマット波(世界消去)』を『空間圧縮・無音断熱パネル(S級建材)』へ変換・取得しました》


ピクセル状に分解されかけていた空間のうねりが、瞬時に漆黒のツヤツヤしたパネルへと変換される。

無に還るはずだった絶望が、ただの便利な建築資材へと成り下がった。


「ヨシ、足場よし。次は仮設の休憩所を組むか」


ケントは取得したばかりのパネルをアヴァロンの周囲にパコパコとはめ込んでいく。

あっという間に、絶対防音と完璧な空調を備えた『超快適なプレハブ小屋』が組み上がった。


「はい、これで粉塵も騒音もシャットアウト。外は冷えるから、温かいコーンスープでも飲んで休んでて」


魔法瓶から注いだ、濃厚なとろとろコーンスープ。

サクサクのクルトンを浮かべたカップを渡された少女たちは、コクのある甘さにポカンと目を丸くする。


「……ふにゃぁぁっ♡ このスープ、甘くてあったかいでしゅぅぅ……」


「うむ! 世界の終わりより、この黄金のスープの方が重要なのじゃ!」


恐怖は一瞬で消え去り、絶対安全な休憩所でスープをすするチョロインたち。


『世界のフォーマットをバールで止めるなww』

『世界消去波がただの断熱パネルにwww』

『世界の終わりを前にコーンスープでくつろぐなww』


『該当の解体工事ですが、完全なブラック工事です』


インカム越しに、霞の氷のような報告が響く。


(やっぱりか。安全帯もネットも張らずに、いきなり現場を更地にしようとするなんて。しかも従業員セリスが辞めた腹いせの不当解雇(報復)だろ? こんな悪質な業者は、労働基準監督署に即通報レベルだぞ)


上空のひび割れた空からは、エラーを告げるシステム音声がバグったように鳴り響いていた。


ケントはマイルドな笑顔を一切崩さず、愛用の金槌を肩に担いだ。


「仕方ないね。君たちの本社(空の上)に、直接クレーム対応(ご指導)に行かないと」


崩れゆく空を見上げながら、完全ホワイトな一級建築士は優しく微笑んだ。


『おっさんが神の領域にカチコミに行くぞww』

『笑顔でクレーム対応(物理)ww』

『おっさんの怒りは神をも凌ぐ』


世界の消去プログラムすらも「違法解体工事」として処理し、温かいコーンスープで従業員を労うおっさん。

神々の悪質な手抜き工事を是正するため、ケント建設のクレーム対応が、ついに天界へと向けられる!

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