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第117話:絶対不可侵の結界と、ただの『防音シート』

黄金の光がドーム状に広がり、アヴァロンの周囲を完全に隔離した。

外界の景色が歪み、分厚い壁となって立ちはだかる。


「う、息が……っ! ケントさん、空気が無くなっていきますぅ!」


喉を押さえ、ルミナが膝をつく。


「親方様ぁ……肺のギアが回りません……っ」


リーゼロッテも苦しげに胸を押さえ、コア公はすでに白目を剥いてひっくり返っていた。


『おいおいガチでヤバいやつじゃん!』

『酸欠デバフとかエグすぎww』

『親方、早く換気扇回して!』


空中に浮かぶセリスが、冷酷な笑みを深める。


「無駄だ。神の理で編まれた『絶対不可侵の結界』。内からも外からも、いかなる物理も魔法も干渉できぬ。そこで惨めに息絶えるがいい」


圧倒的な死の空間が完成した。

だが。

「……困ったな」

ケントは首をポリポリと掻きながら、マイルドに眉を下げた。


ケントは「構造把握」を発動させた。

結界の厚み、分子の結合強度、そして力を逃がすための『急所』。

瞬時に計算され、目の前に鮮やかな図面が展開される。


ケントはインベントリから、以前浄水器を作った際に分離した『高純度レアメタル』を取り出し、空中で愛用の金槌を軽く振るった。


コンッ……。


絶妙な力加減による優しい一撃。

その瞬間、レアメタルがパズルのように組み換わり、洗練された漆黒の工具へと姿を変える。


《『高純度レアメタル』を『特大型カッターナイフ(S級工具)』へ変換・構築しました》


出来立ての分厚いカッターを手に取り、カチ、カチッと鈍い音を立てて鋭い黒刃を押し出した。


(硬いアクリル板やガラスを割る時、力任せに叩き割るのは素人さんの仕事だ。表面に薄くスコアを入れて、分子の結合を断ち切るのが手作業の基本だからね)


ケントは息苦しさに悶える少女たちを横目に、黄金の結界へゆっくりと近づいていった。


「おーい、危ないから離れててね。すぐ換気するから」


結界の表面にカッターの刃を当てる。

そのまま、ツーッと真っ直ぐに、表面をなぞるように浅い切れ目を入れた。


「ふふっ、無駄な足掻きを……」


嘲笑うセリス。

ケントはまったく気にせず、切れ目の中心に向かって、デコピンをするように指を弾いた。


ピンッ……。


絶妙な力加減による、優しい衝撃。

その瞬間。


ピキ、ピキキキキキッ!!


絶対不可侵だった黄金の結界に、無数の亀裂が走る。

まるで薄いガラスが割れるように、パリィィィンッ! と軽快な音を立てて粉々に砕け散った。


《『絶対不可侵の結界(神の奇跡)』を『高透過・防音アクリル板(S級資材)』へ変換・取得しました》


「ヨシ、換気完了!」


ケントが指差し確認を済ませると、新鮮な空気がドッと流れ込み、アヴァロンのウッドデッキに心地よい風が吹き抜けた。


「ぷはぁっ! い、生き返りましたぁぁ!」


「うむ! 死ぬかと思ったのじゃ!」


咳き込む少女たち。

ケントはインベントリから、砕いたばかりの結界(アクリル板)を加工して作った『超静音・空気清浄ファン』を設置する。

さらに、キンキンに冷えた『極上レモン炭酸水』をコップに注いで配って回った。


「はい、水分補給。現場での酸欠は危ないから、しっかり休んでね」


「シュワシュワして……あまい……」


「……ふにゃぁぁっ♡ わたしゅ、親方様の完璧な空調管理なしじゃ生きられない体になりましゅぅぅ……」


死の恐怖から一転、爽やかな風と極上の炭酸水を与えられた少女たち。

一瞬にして極上のリフレッシュタイムの虜となり、だらしない声を上げてクッションに沈み込んでいく。


『またポンコツ化してるww』

『絶対不可侵(笑)が、カッター1本で処理されたwww』

『ただの窓ガラス扱いww』

『親方の前では神の奇跡もアクリル板』


次々と弾ける炭酸の泡。

その圧倒的な快適空間を前に、神の代行者は完全にフリーズしていた。


『また敵の大技を現場のゴミ扱いしてますね。清掃作業ご苦労様です』


インカム越しに響く、霞の呆れ声。


「心配ないよ、霞。ちゃんと資源ゴミとして分別しておいたからね」


マイルドに微笑む一級建築士。


「ば、馬鹿な……ッ! 神の結界が、ただのカッターで……!?」


開いた口が塞がらないセリス。

パニックに陥り、震える彼女のすぐ背後。


(高所作業には、安全な足場の確保が必須だからね)


カシャッ、と空中に展開した『軽量アルミ脚立』の天板に立ち。


「さてと。次は君の番だよ」


マイルドな笑顔を浮かべた一級建築士が、神の代行者の背後に音もなく立っていた!


『ヒィィッ! おっさんいつの間に!?』

『脚立使って背後取るとかホラーすぎるwww』

『神様、後ろ後ろ!!』

『まさか神の使い(クレーマー)への極上のおもてなし!?』


絶対不可侵の結界を「換気」の一言で処理し、脚立を使って神の背後を取ったおっさん。

理不尽すぎるクレーム対応(現場作業)が、いよいよ最終段階へと突入する――!

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