第116話:黄金の裁定者と、無許可の下請け業者
芳醇なヒノキの香りが漂う、極上空間。
完成したばかりの超巨大移動リゾート『アヴァロン』のウッドデッキで、少女たちは完全に骨抜きにされていた。
「……ふにゃぁぁっ♡ 労働の後のフルーツ水、最高でしゅぅぅ……」
「うむ! このマッサージチェア、一生降りたくないのじゃ!」
「ダメですぅ、次は私の番ですぅ……むにゃむにゃ……」
リーゼロッテ、コア公、ルミナの三人が、ふかふかのクッションに沈み込み、だらしないアヘ顔ダブルピースを晒している。
熱暴走からホワイト雇用された中枢AI『マザー』も、ホログラムの姿で完璧な温度のそよ風を送っていた。
『完全にダメ人間製造機ww』
『親方の福利厚生、もはや兵器レベル』
『世界滅ぼす要塞が、ただの極上スパリゾートにww』
『チョロインしかいない世界』
平和すぎる休憩タイム。
空が突如として、不吉な黄金色に染まり始めたのはその時だった。
ジリジリと肌を焼くような、圧倒的なプレッシャー。
空気が重くなり、機械都市の瓦礫がフワフワと反重力で浮き上がる。
「ひぃぃっ!? け、ケントさん、空が真っ黄色ですぅ!」
ルミナがパラソルの下でガタガタと震え上がる。
リーゼロッテも腰を抜かし、コア公はグラスをボトリと落とした。
インカム越しに、霞の緊迫した声が響く。
『親方、上空から未確認の高エネルギー反応。気をつけてください』
眩い光の渦から、一人の少女がゆっくりと降臨した。
豪奢なドレス。冷酷に光る黄金の瞳。
背後には、絶対的な権力(神の威圧)を具現化したような後光が差している。
「愚民ども。我は管理者の代理人、セリス・フォン・アーデライト」
絶対零度の声。
大地が震え、周囲の空間そのものが歪み始める。
「我らが神(管理者)の意に背く者よ。直ちにひれ伏し、消去の罰を受け入れよ」
絶望のオーラ。
だが。
「……困ったな」
ケントはマイルドな笑顔を崩さず、少しだけ困ったように眉を下げた。
(せっかくの休憩時間なのに。だいたい、アビスで『Wi-Fiルーター』として働いてる元・神々たちに日報一つ出さずに、勝手に現場を仕切ってる『悪質な下請け業者』の使いッパシリなのか?
現場監督(俺)を通さずに、いきなり作業員に消去を宣告するなんて。指揮系統の基本がなってないじゃないか)
宙を舞う黄金の魔力だまり。
鬱陶しい光の粒に向かって、愛用の金槌を軽く振る。
コンッ……。
《『神の威圧(高濃度魔力)』を『黄金のLED間接照明(A級設備)』へ変換・取得しました》
「ちょっと君。勝手に現場に入ってこられちゃ困るんだけど」
ケントはマイルドな笑顔を浮かべると、手元のツールボックスからクレーム対応用の『分厚いバインダー』を取り出し、神の代行者へと迷いなく歩み寄っていった。
「……何?」
「元請けからの作業許可証は持ってる? いきなり消去とか言われても、こっちにはキッチリ決まったスケジュールってもんがあるんだ。おたくの社長(元・神々)に伝えてよ。勝手な現場の私物化は、明確なコンプライアンス違反だってね」
バインダーをペンでコンコンと叩く。
一切の恐怖を感じていない、ただの「面倒くさい業者への対応」だった。
『ええええええ!?』
『新キャラの神様(?)を、悪徳下請けのパシリ扱いww』
『親方の前では神もただの違法業者』
『労基の強さバグってるだろww』
『ちゃっかり間接照明ゲットすなww』
「き、貴様……っ! 神の使いであるこの私を、どこの馬の骨とも知れぬ日雇い業者のように……ッ!」
セリスの美しい顔が、屈辱で真っ赤に染まる。
ギリッと歯を食いしばり、細い腕を天へと掲げた。
「ならば、物理で排除するまで! 永遠の檻に閉じ込められ、息絶えるがいい!」
セリスの指先から放たれる、規格外の魔力。
直後、アヴァロンとその周囲の空間を完全に覆い尽くすように、絶対に破壊不可能な『黄金の結界』がドーム状に展開された!
『うわあああ! 完全隔離された!?』
『絶対に破壊不可能』
『神様の結界も、親方にかかればただの建材なんだよなぁww』
『次回、親方の神速結界リフォーム!!』
神の代行者による怒りの絶対結界。
だが、クレーム対応モードに入った一級建築士のおっさんにとって、それは「勝手に張られた養生シート」程度にしか見えていなかった――!




