第113話:熱暴走の狂気と、完璧な水冷サーバー室
『警告、警告! 臨界点突破! コノママ貴様ラモ道連レニィィィッ!』
むき出しになったサーバー室。
その中央で、マザーの中枢コアが不気味な赤色に膨張していく。
周囲の空気が陽炎のように歪むほどの、圧倒的な熱量。
「ひぃぃっ! コ、コアが爆発しますぅぅ!」
「マザーが自爆する気です! 逃げて親方様ぁぁっ!」
顔面を蒼白にして絶叫する少女たち。
『うわあああ! 自爆キタコレ!』
『終わった……完全な詰みイベントじゃん!』
『おっさん早く逃げろ!』
肌をジリジリと焼くような、死の熱線。
「……困ったな」
ケントは額に微かな冷や汗を浮かべた。
(ただのサーバー室の空調トラブルじゃないか。冷却ファンもつけずにフル稼働させるから、『熱暴走』を起こしてエラーを吐いてるんだ。これだから素人さんの設備管理は困るね)
ケントの目に、「構造把握」によって解析されたデータ浮かび上がる。
コアの熱伝導率、ステンレス管の配置、そして循環する冷却水の流量。
すべてが瞬時に計算される。
「……導線は読めた」
ケントは愛用のツールボックスを開き、そこから『極上のピュアウォーター』と、ピカピカの『ステンレス鋼』を取り出した。
「ちょっと、熱が出てるみたいだね。今すぐ冷やしてあげるから」
ケントはマイルドな笑顔を向けると、超高熱を放つマザーのコアに向かって歩き出し、空中にステンレス管をパズルのように組み上げていく。
(モーターやサーバーの冷却には、密着させた水冷式が一番だ。完璧な温度管理で、熱暴走を止めてやらないとね)
コアを覆うように、即席の冷却パイプ(水冷クーラー)をクラフト。
ジョイント部分の『急所』に向かって、愛用の金槌を振り下ろした。
コンッ……。
澄んだ金属音。
絶妙な力加減による優しい一撃が、冷却パイプのバルブを正確に解放する。
ガシャンッ! ジュワァァァァァァッ!!
パイプの中を、氷のように冷たいピュアウォーターが猛烈な勢いで循環し始める。
コアの熱を瞬時に奪い、放出された蒸気がサーバー室を真っ白に染め上げた。
《『暴走する熱エネルギー』を『極上のサウナ用熱源(S級設備)』へ変換・取得しました》
「ヨシ、安全確認!」
現場での指差し確認。
白煙が晴れた後には、完璧な温度管理(水冷システム)に包まれ、静かな青い光を取り戻したマザーのコアが鎮座していた。
「えっ……?」
熱波が完全に消え去り、涼しい風が吹き抜ける。
信じられないものを見るように、目を丸くする機械令嬢。
『……ザァッ。親方、また敵の自爆を設備トラブル扱いしてますね。保守メンテご苦労様です』
インカム越しに響く、霞の呆れ声。
「心配ないよ、霞。ちゃんと冷却ファンも増設しておいたからね。ほら、みんなも冷たいおしぼりを使って。熱中症になっちゃうから」
マイルドに微笑みながら、インベントリからキンキンに冷えた『ミントの極上おしぼり』と、氷を浮かべた魔獣フルーツ水を取り出す。
「こんな時に……あっ、冷たくて気持ちいい……」
「うむ! このおしぼり、ひんやりして最高なのじゃ!」
「……ふにゃぁぁっ♡ わたしゅ、親方様の完璧な空調設備なしじゃ生きられないでしゅぅぅ……っ」
自爆の恐怖を水冷クーラーで完封され、冷たいおしぼりを顔に乗せられた少女たち。
一瞬にして極上のクールダウンの虜となり、だらしない声を上げてクッションに沈み込んでいく。
『またポンコツ化してるww』
『ラスボスの自爆が、ただの熱中症対策にww』
『水冷式クーラー強すぎwww』
完璧に制御された、心地よい涼しさ。
その圧倒的な冷却技術に包み込まれ、爆発寸前だった中枢AIのコアが、小さく震え始めた。
『あぁ……熱ガ……引イテイク……』
狂い咲いていたアラートが、次々と正常な緑色に変わっていく。
摩擦と高熱から解放された、究極の心地よさ。
『演算領域ガ……冷タクテ、クリアニ……』
『 コレハ……最高ノ冷却効率……モウ、止メラレナイ……ッ』
熱暴走から解放されたマザーの電子音声が、アヘ顔の混じっただらしない声へと変わっていく!
『え!? ラスボスが喘いでる!?』
『マザーAI、水冷クーラーで完全陥落www』
『最強の機甲要塞を攻略したおっさんww』
『親方の現場、ついに神殺しを達成!!』
絶対防壁を誇った機械都市のラスボスすらも、完全ホワイトな一級建築士の「空調メンテ」の前では、ただの歓喜する社畜に過ぎなかった。
ケント建設の常識外れの出張作業は、かくして大団円(?)を迎えるのだった――!




