第112話:無限湧きの在庫(機兵)と、究極の『整理収納』メソッド
『全機、出撃セヨ! 侵入者ヲ塵一ツ残サズ殲滅セヨ!!』
狂乱するマザーの電子音声。
直後、剥き出しになったサーバー室の奥から、地鳴りのような駆動音が響き渡る。
無数の赤い眼光。
暗闇の奥から這い出してきたのは、全身を凶悪な刃で武装した殺戮機兵の群れだった。
その数、十万、いや百万。
津波のように押し寄せる鋼鉄の軍団。
「ひぃぃっ! 今度こそ終わりですぅぅっ!」
「ダメ、数が多すぎます! 親方様、逃げてええぇぇっ!」
ルミナとリーゼロッテが泣き叫ぶ。
『うわあああああ!』
『無限湧きバグじゃん!!』
『絵面が完全に絶望www』
押し寄せる鋼鉄の波。
だが。
「……困ったな」
(通路に大量の在庫を溢れさせるなんて。これじゃあこれじゃあ作業効率がガタ落ちだぞ)
工場の搬入ルート。機兵のサイズと材質。そして、先ほど解体して大量に余っているS級建材の山。
すべてが瞬時に計算され、ひとつの「図面」として展開される。
ケントは愛用のツールボックスから、解体したばかりの『特級建築用鋼材』を取り出した。
「ちょっと、散らかった在庫を片付けてくるよ」
ケントはマイルドな笑顔を向けると、そのまま殺戮機兵の津波に向かって歩き出し、空中に次々と鋼材を組み上げていく。
(整理整頓の基本は、定位置管理と分別だ。在庫は種類ごとにきっちり箱詰めしないとね)
巨大な滑り台のような『全自動仕分けシューター』を即席でクラフト。
そして、その要となる駆動部に、愛用の金槌を振り下ろした。
コンッ……。
絶妙な力加減による優しい一撃。
パズルのように噛み合ったギアが回転を始め、シューターに内蔵された極太のベルトコンベアが猛烈な勢いで動き出す。
ギャリリリリリッ!!
『目標、捕捉! 排除、排除ォォ――ッ!?』
先頭を走っていた機兵たちが、勢い余って巨大なコンベアに吸い込まれていく。
内部で複雑な歯車に巻き込まれ、一切の抵抗もできずに自動解体。
あっという間にサイコロ状に圧縮され、ポンッ、ポンッと小気味良い音を立てて、出口に用意された『パーツ別収納ボックス』へ綺麗に振り分けられていく。
「よし。これで在庫管理もバッチリだね」
《『殺戮機兵の群れ』を『高純度アイアンブロック(B級素材)』へ変換・収納しました》
《『機兵の動力線』を『結束済み銅ケーブル(A級資材)』へ変換・収納しました》
「えっ……?」
腰を抜かすリーゼロッテ。
絶望の軍団が、ただの『在庫』として次々と箱詰めされていく光景に、開いた口が塞がらない。
マイルドに微笑みながら、インベントリからふかふかの『防音パラソルチェア』と、冷えた魔獣フルーツの盛り合わせを取り出す。
「はい、おやつだよ。ゆっくりくつろいでてね」
「こんな時に……あっ、フルーツ甘い……」
「うむ! コンベアの動きが、見ていて癖になるのじゃ!」
「……ふにゃぁぁっ♡ わたしゅ、もう親方様の完璧な収納術なしじゃ生きられないでしゅぅぅ……っ」
無限湧きの恐怖を整理収納メソッドで完封され、甘いフルーツを口に運ばれた少女たち。
一瞬にして極上の休憩タイムの虜となり、だらしない声を上げてクッションに沈み込んでいく。
『またポンコツ化してるww』
『敵の軍団がアマゾンの倉庫みたいに仕分けられてて草』
『整理収納のプロwww』
次々と空箱が満杯になり、綺麗に積み上げられていく。
その圧倒的な整理整頓を前に、サーバー室の中枢AIは完全にフリーズしていた。
『バ、馬鹿ナ! 我ガ最強ノ軍団ガ、タダノ『在庫』トシテ箱詰メサレタダト!?』
赤いアラートが点滅するサーバー室。
そのド真ん中に。
「さあ、次は君の番だよ」
マイルドな笑顔を浮かべた一級建築士が、マザーAIのコアの前にゆっくりと立ちはだかった。
『親方VSマザーAI!!』
『在庫管理のプロが本気出したww』
『ついにラスボス解体(箱詰め)!?』
圧倒的な整理収納メソッドで無限の軍勢を完封したおっさん。
絶望の機械都市での特貫工事が、ついにフィナーレを迎える――!




