第111話:機甲要塞の解体(バラし)と、絶望する中枢AI
天を突くほどの機甲要塞。
地鳴りを立てながら、圧倒的な質量が迫る。
『警告。警告。単機での接近ハ無意味デス』
要塞の奥深く。
中枢AI『マザー』の冷酷な機械音声が響き渡った。
『我ガ装甲ハ神ノ魔法スラ弾ク、絶対防壁。人間ノ粗末ナ道具ナド――』
「……困ったな」
ケントは笑顔を崩さず、額に少しだけ冷や汗を浮かべた。
(あんなデカい資材の塊、手作業で分別してたら日が暮れちゃうじゃないか。それに、あの無駄に分厚い装甲。完全に重量計算を間違えてるぞ)
青いワイヤーフレームの『設計図』。
要塞の全重量。装甲の繋ぎ目。数百万トンにも及ぶ負荷が、たった一点に集中している『構造の急所』。
すべてが瞬時に計算され、ひとつの「図面」として展開された。
ケントは愛用の『使い込まれた金槌』を手にし、マイルドな笑顔を浮かべて歩み寄っていく。
「親方様!? ダメです、あの装甲は絶対防壁――」
リーゼロッテの悲鳴を背に。
振り上げられた金槌は、力任せの打撃などではない。
何万トンもの力が集中する、たった一点。
そこに向かって、優しく。
コンッ……。
澄んだ金属音。
ピキッ……ガラガラガラッ!!
『エラー!? 致命的エラー発生!』
マザーの絶叫。
絶対防壁と謳われた都市サイズの要塞が、まるでパズルが解けるように崩壊していく。
一切の抵抗を許さない。
装甲板、駆動ギア、巨大な配管。それらが空中で自動的に分別されながら、ただの建材(鉄屑)の山へと姿を変えていく。
『バカナ!? 物理法則ガ……質量保存ノ法則ガ崩壊シテイマス! 単ナル打撃デ、我ガ要塞ガ!?』
《『機甲要塞の超硬度装甲』を『耐圧チタンパネル(S級建材)』へ変換・取得しました》
《『都市駆動用キャタピラ』を『無限軌道式免震土台(S級設備)』へ変換・取得しました》
《『要塞の骨組み』を『特級建築用鋼材・詰め合わせ(A級資材)』へ変換・取得しました》
「ふぅ……これで分別作業もバッチリだ。綺麗な建材がいっぱい手に入ったよ」
ケントはホクホク顔で、首に巻いたタオルで額の汗を拭った。
『えぇ……(困惑)』
『おっさん、ラスボスの要塞を解体パズル扱いすなww』
『絶対防壁』
『業者さんもドン引きしてるぞww』
ガラ空きになった要塞のド真ん中。
外装を全て剥ぎ取られ、剥き出しになった『サーバー室(中枢コア)』だけがポツンと残されていた。
「あんなに大きかったのに……ただの鉄骨の山に……」
腰を抜かすリーゼロッテ。
ルミナとコア公も、開いた口が塞がらない。
『配達員さんが完全にパニック起こしてますね』
インカム越しに、霞の呆れた声が響く。
「心配ないよ、霞。ほら、まだ奥に在庫が残ってるみたいだからね。あれも全部引き取ってあげるよ」
笑顔で金槌を肩に担ぐ。
『アァァ……エラー……論理回路、崩壊……ッ!』
赤いアラートがサーバー室を埋め尽くす。
未知の恐怖。
神すら凌駕するはずの自らの演算が、目の前の中年男性の『現場作業』によって完全に粉砕されていた。
『コウナレバ……工場内ノ全在庫ヲ解放!』
マザーのコアが、狂ったように赤く発光する。
『無限ノ機兵デ、貴様ラヲ圧殺スルマデッ!!』
『うわあああああ!! ボスがガチギレしたぞ!!』
『在庫一斉処分セール(物理)キタコレwww』
『親方、早く逃げてえええ!!』
『無限の軍勢VSおっさんの金槌!?』
神をも凌駕するマザーAIの逆鱗に触れ、ついに無限の殺戮兵器が解き放たれる!
だが、完全ホワイトな現場監督の目には、それすらも「特大の無料資材」にしか見えていなかった――!




