第109話:狂える機甲要塞による資材の無料配達
ズズズズズズズズッ……!!!
プレハブ全体を激しく揺らす、規格外の地鳴り。
窓の外、酸性雨に煙る地平線を完全に覆い尽くすほどの、巨大な質量が迫り来る。
「ひ、ひぃぃっ……! な、なんですかあれ……都市が、動いて……っ!?」
ルミナが防音ガラスにへばりつき、ガクガクと震え上がった。
ヘルメットを被ったリーゼロッテは、恐怖で駆動音を凍りつかせ、膝関節の力が抜けたようにその場にガクンとへたり込んだ。
「……狂える機甲要塞。機将ザガンを生み出した、この機械都市の心臓部です……!」
キャタピラが大地を削り、周囲の鉄屑の山を巨大なアームが次々と飲み込んでいく。
要塞が通った後は、一切の起伏がない、ただの更地へと変貌していた。
『うわあああ! なにあのサイズ!?』
『ラスボス降臨!!』
『終わった……踏み潰されるぞ!!』
全てを喰らい尽くし、世界を平坦に均す絶望の権化。
だが。
「……困ったな」
(昨日、こっちの世界にも新しく建てるリゾート別館(支店)のイメージをまとめたばっかりなのに。わざわざ業者の方から、特大の資材倉庫ごと配達に来てくれるなんて)
ケントの脳内は完全に「現場監督」のそれになっていた。
「構造把握」が発動する。
要塞の装甲材質、キャタピラの駆動トルク、飲み込んだ鉄屑の精製プロセス。すべてが瞬時に計算され、ひとつの「図面」として展開された。
ケントはマイルドな笑顔を浮かべ、プレハブの扉をスッと優しく開けた。
「おいおい、最高のサービスじゃないか。わざわざ資材をデリバリーしてくれるなんてね」
『は?』
『おっさん、あれがネットショッピングの配達員に見えてるの!?』
『都市サイズのデリバリーサービスwww』
「ケントさん!? 外に出たら轢き潰されちゃいますよ!」
「親方様! お願いです、逃げましょう!」
泣き叫ぶ従業員たちをよそに、ケントは愛用のツールボックスから使い込まれた金槌を取り出した。
(せっかく配達に来てくれたんだ。受け取りのサイン(荷下ろし)をする前に、ちょっと見晴らしのいい休憩所を作ろうか)
ケントは足元に転がっていた巨大な鉄骨に向かって、軽く金槌を振り下ろした。
コンッ……。
絶妙な力加減による優しい一撃。
巨大な鉄骨がパズルのように解体され、即座に快適なリクライニングチェアと、酸性雨を完全に弾く透明な防音パラソルへと組み上がっていく。
《『巨大な鉄骨』を『防酸・防音仕様のパラソルセット(A級設備)』へ変換・取得しました》
パラソルの下には完全な静寂と快適な空間が出来上がっていた。
「ほら、座って。大きな業者の車が来るから、ここで見学しようか」
ケントがインベントリから取り出したのは、先ほど錬成した極上のピュアウォーターで淹れた、温かいハーブティーだった。
「はい、どうぞ。香りでリラックスできるからね」
「こんな時に……あっ、いい香り……」
「はわぁぁ……パラソルの下、すっごく快適……」
「……ふにゃぁぁっ♡ わたしゅ、親方様の現場が最高すぎましゅぅぅ……」
都市を滅ぼす要塞が目前に迫る中。
三人はフカフカのリクライニングチェアに沈み込み、ハーブティーの香りに包まれてだらしない声を上げた。
『また陥落してるwww』
『絶望の要塞を前に優雅なティータイムすなwww』
『完全にパレード待ちの客席だろこれ』
『親方、配達員さんがずいぶんと気が立ってるみたいですよ』
インカム越しに、霞の呆れた声が響く。
ケントたちが呑気にお茶をすすっている姿は、狂える機甲要塞にとって完全な挑発だった。
ゴオォォォォォォォォッ!!!
要塞の中心部が、不気味な赤光を放ち始める。
周囲の酸性雨を一瞬で蒸発させ、大地を更地にするほどの圧倒的なエネルギーが、ひとつの巨大な砲門へと収束していく。
それは、都市一つを完全に灰燼に帰す『滅びの極太レーザー』のチャージ音だった。
「ひぃぃっ!? な、なんかすごい光ってますよ!」
「親方様! あの光は……ッ!」
空が真っ赤に染まる。
そして、圧倒的な光の奔流が、パラソルの下でくつろぐケントたちに向けて放たれた!!
『ぎゃあああああ!!』
『親方ァァァァッ!!』
『パラソルごと蒸発!? 逃げてえええええ!!』
都市を消し飛ばす絶体絶命の極太レーザーを前に、一級建築士のおっさんはハーブティーを片手にどんな「クレーム対応」を見せるのか!?




