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第107話:猛毒の冷却水脈と、遠心分離機

ゴオォォォォッ……!


酸性雨が降りしきる機械都市の中心部。

ケントたちの目の前を、赤黒く濁った巨大な川が轟音を立てて流れていた。

鼻を突くような金属臭と、不気味な色の蒸気が立ち込めている。


「うわぁ……ドロドロで気持ち悪い川ですね……」


カッパ姿のルミナが、顔をしかめて鼻をつまむ。

ケント建設のロゴ入りヘルメットを被ったリーゼロッテが一歩下がった。


「親方様、近づいては駄目です! あれは機械都市から排出される猛毒の冷却水脈。重金属の泥が溶け込んでいて、人間が一滴でも飲めば即死します!」


『うわ、完全なデッドゾーンじゃん』

『触るだけでアウトなやつだ』

『水場がこれって、この世界ハードモードすぎない?』


生物を拒絶する、死の濁流。

だが。


「……困ったな」


ケントは、額に少しだけ冷や汗を浮かべた。


(おいおい、この現場にはまだ仮設水道が引かれてないじゃないか。手洗いやうがいもできないなんて、みんなの労働環境として良くないぞ)


ケントは「構造把握」を起動させる。

濁流に含まれる泥の粒子、重金属の比重、そして流速。すべてが瞬時に計算され、ケントの脳内に分析結果が展開される。


ケントは愛用のツールボックスを開き、先ほどナノマシンで磨き上げたばかりの『鏡面仕上げのステンレス鋼』を取り出した。


「ケントさん? なにするんですか?」


「ちょっと、浄水器の設置工事をしてくるよ」


ケントはマイルドな笑顔で言い放つと、ステンレス鋼をパズルのように組み合わせ、巨大なタンク型の装置を組み上げた。

内部には、中心の巨大な歯車の周囲を、複数の小さな歯車が噛み合って回る特殊な構造が仕込まれている。


(重金属の泥なら、遠心力でぶん回せば外側に分離できるはずだ)


ケントは愛用の金槌を握りしめ、装置の駆動軸となる『ポイント』に向かって、軽く振り下ろした。


コンッ……。


絶妙な力加減による優しい一撃。

その振動がすべての歯車に伝わり、凄まじい勢いで内部のギアが回転を始める。


ギャリリリリリッ!!


ケントは、高速回転するタンクの中に、猛毒の冷却水をスムーズに引き込んだ。


「えっ……?」


リーゼロッテが間抜けな声を漏らす。

超高速の遠心分離機となったタンクの中で、重い毒の泥だけが遠心力で外側に弾き飛ばされ、中心部には一切の不純物を持たない透明な水だけが残っていく。


『え!?』

『おっさん、浄化魔法もなしに毒水を真水に変えた!?』

『遠心分離機を現地調達の歯車で作るなww』


「ヨシ、安全確認!」


ケントが現場での指差し確認を済ませた瞬間。

タンクの蛇口から、キラキラと輝く無色透明な水が勢いよく吹き出した。


《『猛毒の冷却泥水』を『極上のピュアウォーター(S級飲料水)』へ変換・取得しました》

《『分離された重金属の泥』を『高純度レアメタル(A級素材)』へ変換・取得しました》


「ふぅ……これでみんなが安全に使える、綺麗な水が確保できたよ」


ケントはチタンマグカップに溢れんばかりの純水を注ぎ、リーゼロッテへと差し出した。


「魔法も使わずに……ただの歯車の力だけで……?」


リーゼロッテは震える手でマグカップを受け取り、恐る恐るその水を口に含んだ。


ゴクリ。


「んんっ……!」


一切の雑味がない。

乾いた体に染み渡るような、信じられないほどまろやかで冷たい極上の水。


「な、なにこれ……。すっごく美味しくて、体が浄化されていくみたい……」


「……ふにゃぁぁっ♡ わたしゅ、もうここのお水しか飲めない体になっちゃいましゅぅぅ……っ」


死の環境をただの水道設備に変えられ、極上のピュアウォーターを飲まされた悲劇の令嬢。

彼女は一瞬にして、ケント建設のインフラの虜となり、だらしない声を上げていた。


『おいおい機械令嬢なのに、ただの水で陥落ww』

『おっさんの現場、ライフラインが完璧すぎる』


「おっ、人間! 吾輩にもその極上のお水をよこすのじゃ!」


「私もいただきます! んん〜っ、冷たくて美味しい!」


猛毒の川辺で、美味しそうに純水を飲み干す少女たち。

その様子を満足げに眺めながら、ケントはインカムのスイッチを入れた。


「霞、聞こえるかい。水質検査クリアだ。これで水回りの工事に入れるよ」


『……ザァッ。了解です親方。異世界で上水道を完備するとか、相変わらずですね』


インカム越しの呆れ声をBGMに、ケントはニッコリと微笑んだ。

彼の視線の先には、先ほど確保した無尽蔵のピュアウォーターと、インベントリに眠る『機将の動力コア(S級熱源)』がある。


「よし。極上のお水と、完璧なボイラーが揃ったな」


ケントは、プレハブ仮設所の横に広がる空き地を指差した。


「それじゃあ、最高の『絶景露天風呂』を作ろうか」


『猛毒のデッドゾーンで露天風呂建設キタコレww』

『おっさんの福利厚生が限界突破していくww』

『異世界の毒川が極上温泉スパに!?』


致死の環境を完全に無力化した一級建築士のおっさんによる、常識外れの温浴施設建設が今、幕を開ける――!

「続きが気になる!」「おっさん頑張れ!」と思っていただけましたら、


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