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第105話:機将の解体(リサイクル)と、極上天ぷらの温度管理

ヴンッ!!


暴走機将ザガンが振り上げた高熱の巨大な刃が、ケントたちのいるプレハブへと迫る。

圧倒的な質量による破壊の一撃。


「……困ったな」


ケントは、額に少しだけ冷や汗を浮かべた。


(せっかく建てたばかりの新築現場事務所なのに。外壁に傷でもついたら、補修作業でみんなの休憩時間が減っちゃうじゃないか)


彼の目に、再び青いワイヤーフレームの『設計図』が浮かび上がる。

機将の装甲の継ぎ目、関節を固定している巨大ボルトの規格、そして力の流れ。

すべてが瞬時に計算され、ひとつの「図面」として展開された。


「……導線は読めた」


ケントはプレハブの扉をスッと優しく開け、酸性雨の降る外へと歩み出た。


「ケントさん!? 危ないですよ!」


「人間、死ぬ気か!?」


ルミナとコア公の悲鳴が背後から聞こえる。

だが、ケントは愛用のツールボックスから、いつもの相棒を取り出していた。


(あんな巨大な不法投棄ゴミでも、構造の『急所』さえ叩けば、パズルみたいに優しく解体できる)


ケントが手にしたのは、愛用の『使い込まれた金槌』だ。

力任せの破壊ではない、ケントの持つ「構造把握」と「超速クラフト」が織りなす神業だ。


「それじゃあ、解体工事リサイクルを始めようか」


ケントは迫り来るザガンの足元に潜り込み、巨大な足首の関節――何万トンもの力が集中するたった一点の『急所』に向かって、金槌を振り上げた。


コンッ……。


澄んだ金属音が、響き渡る。

たったそれだけの、絶妙な力加減による優しい一撃だった。


『えっ!? おっさん、怪獣を金槌で軽く叩いただけ!?』

『そんなんで倒せるわけ……』


「ヨシ、安全確認!」


ケントが現場での指差し確認を済ませた瞬間。

ピキッ……ガラガラガラッ!!


全身の関節のロック(噛み合わせ)を優しく解除された、およそ全高30メートルの暴走機将は、一切の抵抗を許されず、ただの建材(鉄屑)の山へと一瞬にして崩れ落ちた。


《『暴走機将の重装甲』を『最高級カーボン建材(S級建材)』へ変換・取得しました》

《『機将の動力コア』を『超高出力・安定熱源コンロ(S級設備)』へ変換・取得しました》


「ふぅ……これでみんなの安全は守られた。いい資材も手に入ったよ」


ケントはタオルで手を拭いながら、プレハブへと戻ってきた。

リーゼロッテは、あまりの出来事に口をパクパクさせている。


「ザガンが……あんなに一瞬で……?」


『……ザァッ。親方、また規格外なことやってますね。労災降りませんよ?』


「心配ない、霞。安全第一だからな。それより、ちょうどいい熱源が手に入ったんだ。お腹も空いたし、お昼ご飯にしようか」


『怪獣倒して秒で飯の準備し始めたww』

『巨大ボスがコンロの部品扱いで草』


ケントは取得したばかりの『機将の動力コア』を、プレハブ内のテーブルに優しく設置した。

インベントリから魔獣肉と小麦粉、そして最高級のスライム油を取り出す。


「いいかい? 天ぷらってのは、油の温度管理が命なんだ」


(火力がブレたら、衣がベチャッとして最悪だからな。でも、このコアなら設定温度から1度もブレない完璧な熱制御ができるじゃないか!)


ジュワァァァァァッ……!!


完璧な温度の油で、魔獣肉が黄金色に揚がっていく。

香ばしい匂いが室内に充満し、ルミナとコア公がよだれを垂らし始めた。


「はい、極上魔獣肉の天ぷら、一丁上がりだ。熱いうちに食べてみてね」


ケントがマイルドな笑顔で皿を差し出すと、リーゼロッテは恐る恐る黄金色の衣をかじった。


サクッ。

ジュワァァ……。


「えっ……?」


剣のように立ち上がったサクサクの衣から、極上の肉汁が溢れ出す。

工業的な油の匂いなど一切ない。完璧な温度管理によって素材の旨味だけが極限まで引き出されている。


「な、なにこれ……。衣がサクサクで、お肉がとろけて……」


悲劇の令嬢の瞳から、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。


「……ふにゃぁぁっ♡ わたし、もう一生ここで働かせていただきましゅぅぅ……っ」


摩擦ゼロの優しいメンテに続き、極上の天ぷらで完全に機械の胃袋と電子の脳を焼かれたリーゼロッテ。

彼女は一瞬にして、ケント建設の立派な従業員へと堕落した。


『ヒロイン、完全陥落www』

『おっさんの福利厚生が強すぎる』

『巨大ボス倒して天ぷら揚げるなwww飯テロやめろwww』


「あぁっ! 私の分の天ぷらも残しておいてくださいよぉっ!」


「新入りズルいぞ! 吾輩にも油をよこすのじゃ!」


「こらこら、慌てなくても材料はいっぱいあるから、順番に揚げていくぞ」


絶望の機械都市に建てられたピカピカのプレハブの中。

世界の危機も悲劇の過去も完全に忘れ去られ、今日も限界突破した歓喜の少女たちが、揚げたての天ぷらに群がって歓喜の悲鳴を上げ続けている!


***


そして、翌朝。


「親方様! 今日も一日、安全にっ!」


新品の『ケント建設』のロゴ入りヘルメットを被ったリーゼロッテが、プレハブの前でビシッと綺麗な敬礼を決めていた。

サクサクの極上天ぷらと優しいホワイト待遇に完全に脳を焼かれた悲劇の機械令嬢は、たった一晩で完璧な「ケントの従業員(現場作業員)」へとクラスチェンジを果たしていたのだ。


『悲劇のヒロイン、一晩でドカタの姉ちゃんになっとるww』

『天ぷら一つで完全陥落、チョロすぎるww』


「うん、おはようリーゼロッテ」


「さて。頼もしい新人も増えたことだし、今日はこの無料ホームセンター(機械都市)の奥深くまで、ガッツリ資材の買い出し(視察)に行こうか」


「はいっ! 親方様の極上まかないのためなら、どんな危険地帯の資材でもかき集めてみせましゅぅぅっ♡」


『動機が完全に食欲www』

『もうこの娘、おっさんなしじゃ生きられない体になってるww』


未知の脅威が眠る、機械都市の最深部へ。

「それじゃあ今日も作業やりますか!」

一級建築士のおっさんの号令と共に、常識外れの資材漁り(出張)が幕を開けるッ!


『次は機械都市の深部か! どんなボスが出てくるんだww』

『完全に近所のホームセンター行くテンションで草』

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