↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼たちの聖域 〜最凶ヤンキー校に舞い降りた天使〜  作者: あやん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/52

雨上がりの晩餐 〜継承される魂〜

1. 賑やかな余韻

「ゆうくん、またね!」「ゆう様、また明日!」


去り際、生徒たちは口々に温かな言葉を投げかけていく。その呼び声には、もはや以前のような「腫れ物に触る」ような空気はない。一人の「家族」として、彼を受け入れた者たちの純粋な親愛がそこにはあった。


生徒たちが去り、残されたのは獅子堂、阿久津、羽柴、大和、そしてゆうの5人。

彼らは一列に並び、玄関へと向かう佐藤弁護士を見送ろうとしていた。


2. 親友の「息子」へ

佐藤は足を止め、ゆうに向けてこれ以上なく優しい、父親のような笑みを浮かべた。


「……ゆうくん。また何かあっても、無くても。いつでも連絡おくれ。アイツらの子供なら、俺にとっても子供みたいなものなんだからな」


その言葉は、義務感ではなく、魂に刻まれた誓いのように響いた。

だが、次の瞬間。佐藤の眼光が、一転して射抜くような鋭さで隣の獅子堂へと向けられた。


「……獅子堂。ゆうくんを泣かせるようなことがあったら――」

佐藤はそこで一度言葉を切った。

「その時は、アイツらの分まで、俺が直々にケジメをつけに行く。……覚悟しとけ」


「……っ、肝に銘じます」

獅子堂は背筋を凍らせ、冷や汗を流しながらも、真っ直ぐに佐藤の視線を受け止めた。その決意の固さを確認した佐藤は、満足げに鼻で笑うと、再びゆうに向き直った。


3. 2歳の記憶、血の誓い

「ゆうくん。またな! 元気でな!」


佐藤は優しく、ゆうの頭を撫でた。そして、壊れ物を扱うような優しさと、何者にも屈しない強さを込めて、ゆうを力強く抱きしめた。


その瞬間だった。

ゆうの脳裏に、今まで心の奥底に眠っていた、遠い日の断片的な記憶が鮮明に浮かび上がった。

ずっと昔。まだ自分が「自分」というものを知る前。

同じように、温かく、力強い腕に抱きしめられた感覚……。


「……佐藤さん。もしかして、小さい頃……こうやって僕のこと、抱きしめてくれたことがあった……?」


佐藤は何も答えなかった。

だが、その脳裏には、14年前のあの光景が鮮烈に蘇っていた。

親友を亡くし、無力な10代だった自分。泣く泣く、2歳だったゆうの手を離さなければならなくなった、あの日。

引き剥がされる間際、俺は同じようにゆうを抱きしめて、その小さな耳元で心に誓ったんだ。

(……待ってろ。絶対に、絶対に迎えに来るからな!)

その誓いを果たすために、俺は「カミソリ」を捨てて、ペンを握った。14年越しの再会。その体温が、今ようやく重なった。

佐藤はすべてを包み込むような深い慈愛を込めて微笑むと、ゆっくりと腕を解いた。


4. 第二の伝説へ

その時、沈黙を守っていた羽柴が、たまらず一歩前に踏み出した。


「佐藤さん!!」


夜空を震わせるような叫び。佐藤の足が止まる。


「ずっと、ずっと憧れてました! 俺も……俺も弁護士になります! きっといつか、あなたに追いついてみせます!!」


佐藤は振り返らなかった。

しかし、夜風に吹かれるその右手が、スッと空へと挙げられた。

それは無言で、『待ってるぞ』と告げているかのようだった。


その言葉通り、羽柴はこの日からそう遠くない未来、約束通り司法試験を突破し、盛トワ二人目の「伝説」となる。

そして15年後。彼が親しくしていた先輩の、年の離れた妹を妻に迎えること。

それはまた、別の長い物語の始まりなのだが……今はまだ、誰も知らない。


5. 澄み渡る明日と、懐かしい声

見送りの人影が消え、辺りに静寂が戻った。

佐藤は、ふと立ち止まり、夜の空を見上げた。


雨上がりの空は、どこまでも澄み渡っていた。

冷たくも心地よい夜風が頬を撫でたその時、佐藤の耳の奥に、不意に懐かしい音が響いた。


(ありがとう、佐藤。……ゆうを、見つけてくれて)

(カッコよかったよ、佐藤くん!)


今は亡き、最愛の親友たちの声が聞こえたような気がした。

幻聴かもしれない。けれど、その声はあの頃と変わらず、弾けるような明るさと慈愛に満ちていた。

「……ああ、最高に良い夜だ」


佐藤の目尻に、再び熱いものが滲む。

彼はもう一度だけ、空高く手を挙げると、清々しい足取りで夜の街へと消えていった。


盛トワの長い一日が終わる。

受け継がれた想いは、確かに次の世代へと繋がっていた。

雨に洗われた校舎は、間もなく訪れる「卒業」という名の輝かしい門出を、静かに待っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。