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狼たちの聖域 〜最凶ヤンキー校に舞い降りた天使〜  作者: あやん


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雨上がりの晩餐 〜狼の檻、子羊の救済〜

1. 衝撃の告白

温かな湯気に包まれていた部屋の空気が、ふと、佐藤の表情一つで一変した。

彼は箸を置き、神妙な……いや、痛ましいほどに真剣な顔で、真っ直ぐにゆうを見つめた。


「……実はな、ゆうくん。君にひとつ、謝らなければならないことがあるんだ」


佐藤の重苦しい声に、ゆうだけでなく、居合わせた獅子堂たちも息を呑む。


「君が本来入るべき学校は、ここ……盛トワ工業ではなかったんだ」


「え……!? でも、僕のところにはちゃんと、ここの入学案内が届いて……」


困惑するゆうを遮るように、佐藤は静かに、けれど激しい感情を抑えながら語り始めた。


2. 孤独な子羊と「監獄」の影

「弁護士としての仕事も軌道に乗って、俺はずっと君を探していた。……だが、手紙を送っても一切の返事はなく、送った金も反応がない。必死で調べたら、君は親戚の間をまるで荷物のようにタライ回しにされていたんだ。やっと君を見つけた時は、中学の卒業を目前に控えていた」


佐藤の目に、鋭い怒りが滲む。


「……あんなに君を引き取りたいと願った俺の訴えは退けられ、君を囲っていたのは、赤の他人に等しい、血がほんの少し繋がっているだけの連中だった。……愕然としたよ。いつも明るく、『大丈夫!』が口癖で、ポジティブだった瀬戸。そして、周りを太陽のように照らしていたりなちゃん。……その二人の影すらないくらい、君があんなに孤独な毎日を過ごしていたことに」


佐藤は唇を噛み切り、震える声で続けた。


「事も有ろうに奴らは、『聖トワ学園』という全寮制のとこに君を入れようとしていた。……通称、監獄学園。厳しい規則で生徒を縛り付け、外出も禁止。文字通り監獄のような場所だ。奴らは、義務教育が終わってなお、君をそんなとこに閉じ込めるつもりでいたんだ」


3. 法を背いた「盛トワ魂」

「どうすれば君を救えるのか……時間はなかった。そんな時、偶然同級生に会ってな。相談したら、あいつは笑いながら言ったよ。『それなら他の学校と取り換えちまえば! まあでも、弁護士のお前がそれをやると洒落にならねぇか(笑)』とな」


佐藤は自嘲気味に口角を上げたが、その瞳は揺るがなかった。


「……それを聞いたら、それしかないと思った。だが、今から入れる場所なんてそう簡単には見つからない。そしたらそいつが教えてくれたんだ。『俺らの母校、盛トワ工業の今の理事会長は、俺らの時の先輩だぞ。相談してみたらどうだ?』と」


佐藤はゆっくりと顔を上げ、周りにいる獅子堂、阿久津、羽柴、大和……そして生徒たちの顔を見渡した。


「悩んだよ……。狼の群れに子羊を放り込むようなものだとな。……でも、今の盛トワも、俺たちの時と変わらず、弱いものいじめはしない。喧嘩はすれど、法に触れるようなことはしないし、させていない。……かけるしかない、と思った。お前たちなら、きっとゆうくんを変えてくれる。お前たちなら、ゆうくんに危害は加えない。……あんな監獄に入れられるよりは、と。……俺は、案内を書き換えたんだ。今の盛トワの生徒たち……お前たちを信じてな」


佐藤は深く、深く頭を下げた。


「相談に乗ってくれた同級生や、先輩にお礼を言ったら、こう言われたよ。『お前の親友の息子だろ? お前にとって親友なら、俺たちにとっても親友だ!』……。その時の盛トワ魂が受け継がれていることだけを信じて、俺は法に携わる身でありながら、法に触れることをした。……許されない行為をしたんだ。結局俺は、親友との約束も果たせず、君を救い出すこともできずに、今になるまで何も出来なかった……」


4. 幸せの証明

「……それは違う!!」


一喝したのは獅子堂だった。


「あんたがそうしなきゃ、俺はゆうに出会えなかった! 救えなかったなんて、二度と言わないでくれ!」

その声には、怒りではなく、真っ直ぐすぎるほどの感謝が滲んでいた。


「そうだぜ!」

阿久津も、目元を赤くしながら続ける。

「あんたが子羊を放り込んだのは、狼の群れじゃねぇ。……世界一あったけぇ、家族の群れだ!」


羽柴は静かに眼鏡を押し上げ、小さく頷いた。

「あなたが信じた『盛トワ魂』は、ちゃんと受け継がれていましたよ」


大和は、何も言わなかった。

ただ、大きな手で佐藤の肩を力強く叩く。

それだけで十分だった。


周りの生徒たちからも、「そうだ!」「ありがとう佐藤さん!」と口々に否定の声が上がる。


そして……。

ゆうが、ゆっくりと佐藤の前に立ち、その震える手を両手で包み込んだ。


「佐藤さん……お父さんたちの代わりに、僕に言わせて」


ゆうは、涙でぐしゃぐしゃになりながら、それでも精一杯笑った。


「僕を助けてくれて、ありがとう! 見つけてくれて、ありがとう! ……僕、今、凄く幸せだよ!」


親友との約束。

法の番人としての重圧。

果たせなかった後悔。

一人で背負い続けてきたそのすべてが、今、ゆうの言葉によって救われていく。

佐藤弁護士の目から、堰を切ったように涙が溢れた。

それは、14年越しに辿り着いた、親友との約束の涙だった。

けれど、不思議とその涙は、悲しいだけのものではなかった。

鍋の湯気はまだ温かく、誰かが「具、まだ残ってるぞ」と笑い、生徒たちの小さな笑い声が部屋に戻り始める。

張り詰めていた空気は、いつしか雨上がりの夜みたいに、静かで優しい熱を帯びていた。

ゆうは、みんなに囲まれながら、少し照れくさそうに笑っている。

その姿を見つめた佐藤は、涙を拭いながら、小さく息を吐いた。

……ああ。

ようやく、ここまで来れたんだな。

窓の外では、雨上がりの空に、淡い星明かりが滲んでいた。

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