表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼たちの聖域 〜最凶ヤンキー校に舞い降りた天使〜  作者: あやん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/49

雨上がりの晩餐 〜カミソリの鞘〜

1. 伝説への問いかけ

鍋の具材も少なくなってきた頃、それまで静かに話を聞いていた羽柴が、意を決したように眼鏡のブリッジを押し上げた。


「……佐藤さん。一つ、どうしても伺いたいことがあったんです」


その場の空気が、少しだけ引き締まる。


「『カミソリ佐藤』と呼ばれ、偏差値も底辺だったはずのヤンキーが、弱冠18歳にして最難関の司法試験を突破した……。それは盛トワでは知らない者がいない伝説です。でも、どうしてあなたが『弁護士』を目指すことになったのか。その本当の理由を知る者は、誰もいません」


俺は一瞬、きょとんとした顔をしたが、やがて可笑しそうに口角を上げた。


2. カミソリを捨てた理由

「……なんてことはねぇよ。向かってくる奴を返り討ちに、力でねじ伏せてただけさ。だがな……以前のような、誰に対しても心を閉ざした頑なな気持ちを捨てたら、不思議と俺の周りにも人が集まってきた。それを教えてくれたのは、やっぱり瀬戸だったんだ」


俺はグラスを置き、遠い目をして続けた。


「弁護士になろうと思ったきっかけは……高校に入ってすぐ、親父が知り合いの連帯保証人になっちまってな。家の中がメチャクチャで、途方に暮れてた時だ。一人の弁護士が、俺たちを助けてくれたんだよ」


俺が「弁護士になる」と言い出した時、周りは何を寝言言ってるんだと鼻で笑った。俺を一番知っているはずの親ですら、本気にはしなかった。


「……ただ一人を除いてな。あの時のあいつの言葉、表情……今でも、はっきり覚えてる。」


3. 世界で一人の理解者

俺の脳裏には、あの放課後の教室の光景が鮮明に浮かんでいた。瀬戸は、俺の突拍子もない夢を聞いて、自分のことのように目を輝かせて言ったんだ。

「すごい! 佐藤君は不良の子たちの気持ちもわかるし、優しいし正義感もある! 絶対に向いてるよ! 絶対になれるよ、大丈夫だよ!」


「……あいつだけは、本気で応援してくれたんだ。俺の中に正義感なんて欠片もねぇと思ってたのに、あいつは俺を信じ切ってた。……だから、決めたんだよ。こいつの想いに応えるために、死ぬ気で猛勉強してやるってな。狙いは一発合格。それ以外、俺には道はねぇって」


俺が本気で机に向かい始めると、最初は馬鹿にしてた周りの連中も、次第に応援してくれるようになった。俺を変えたのは、俺自身の努力じゃねぇ。俺を信じ抜いたあいつの「大丈夫」だったんだ。


4. 本当の正義漢

「でもな……」

俺は、ゆうを優しく見つめ直した。


「本当に優しくて、正義感があったのは、瀬戸……あいつの方だったんだ。俺はいつだって、あいつに助けてもらってばかりだったよ」


その言葉を聞いた瞬間、羽柴は何も答えなかった。

ただ、眼鏡の奥の瞳をわずかに揺らし、佐藤の歩んできた壮絶な努力と、その根底にある深い友情の重さに、深く、静かに感じ入っていた。言葉にするのも野暮だと言わんばかりの、敬意に満ちた沈黙。


阿久津は目元を真っ赤にしながら顔を背け、獅子堂は深く、深く頷いた。


「パパ……お父さん、本当にすごかったんだね。佐藤さんを、そんなに元気づけられるくらい……」


「ああ、最高に凄え男だったよ。……そして、その最高な男が最後に俺に託したのが、君なんだ」


5. 絆の熱気

鍋の湯気が、温かく部屋を満たしている。

伝説の裏側にあったのは、泥臭くて、けれど誰よりも真っ直ぐな男たちの約束。


「ゆう。……お前のお父さんは、俺たちの誇りだ」

大和が、噛み締めるように言った。窓の外では、夜の闇が少しずつ薄れ始めていた。

悲しい過去を語り終えたはずなのに、部屋の中には、かつてないほどの熱い「生」のエネルギーが満ち溢れていた。

鍋の湯気の向こうで、ゆうはみんなに囲まれながら、小さく笑っている。

その姿を見つめながら、佐藤弁護士は静かに目を細めた。

……誰かを信じ、誰かを救い、誰かの孤独に手を伸ばし続けた男。

だからこそ、あいつは誰かを愛し、帰る場所を作ったのだろう

そして今、その愛は確かにここに生きている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ