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狼たちの聖域 〜最凶ヤンキー校に舞い降りた天使〜  作者: あやん


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追憶の食卓 〜カミソリ佐藤の真実と、男たちの憤怒〜

1. 湯気の向こうの「沈黙」

リビングに漂う、出汁の温かな香り。張り詰めていた空気を破ったのは、ゆうくんの小さなお腹の音だった。

「……っ、あ」

顔を真っ赤にして俯くゆうくんに、阿久津がこらえきれず吹き出した。

「なんだよ、ゆうくん! 感動のシーンが台無しじゃねぇか! 獅子堂さん、材料はあるんすよね? 今日は佐藤さんも一緒に、みんなで鍋パーティーっすよ!」


「ああ、好きにしろ」

獅子堂がわずかに口角を上げると、居残っていた生徒たちも一斉に動き出した。

賑やかな音が響く中、男たちの胸の内には共通の、けれど容易には口に出せない「疑問」が渦巻いていた。

——ビデオの中のご両親は、あんなに元気で、幸福に満ちていたのに。なぜ、あんなに鮮やかに笑っていた二人が、今はもういないのか。


上下関係の厳しい盛トワの男たちは、空気を読むことに長けている。聞くべきは自分たちではない。その聖域に踏み込む権利は、自分たちにはない。そう確信して沈黙を守っていたその時、ゆうくんが静かに、けれど真っ直ぐに佐藤弁護士を見つめた。


「……あの、佐藤さん。お父さんとお母さんは、どうして亡くなったんですか? ビデオではあんなに元気そうだったのに……。親戚の人は、誰も教えてくれなかったから」


2. 遺された言葉と、届かなかった願い

佐藤弁護士は、静かに箸を置いた。

「そうか……君が覚えていないのは仕方ない。まだ二歳だったからな。……交通事故だったんだ」


佐藤は、あの日、親友の瀬戸が命の灯火を燃やし尽くそうとしていた、白い病院のベッドを思い出していた。

「りなちゃん……君のお母さんだが、彼女は即死だった。だけど瀬戸は、私が駆けつけるまで、その命を必死に繋ぎ止めていてくれたんだ」


ゆうくんは息を呑み、佐藤の言葉を一言も漏らさぬよう耳を傾ける。

「瀬戸は、弱りゆく意識の中で私の腕を掴み、真っ先にこう聞いたんだ。……『りなは……?』とな。私は、答えることができなかった。だが、彼はすべてを悟ったんだろう。最後の一言を絞り出した」


「ゆうを……ゆうを頼む。あの子を守ってほしい」


佐藤弁護士の拳が、テーブルの上で白くなるほど握られた。

「その言葉の通り、本来私は君を引き取るつもりだったんだ。何よりも2人の忘れ形見である君を、この手で大事に育てたかったんだ。……だが、現実は残酷だった」


佐藤の表情が、冷たい怒りに染まる。

「あの強欲な親戚どもが、一斉に私に牙を向いた。『君はまだ若い』『独立したばかりの弁護士に、何の面倒が見れる』……。結局、血の繋がりがない私は、法的に引き下がらざるを得なかったんだ」


3. 踏みにじられた愛、燃え上がる憤怒

佐藤は唇を噛み締め、何年も抱え続けてきた悔恨を吐き出した。

「せめて不自由のないようにと、私は君の誕生日、クリスマス、進級……節目ごとに、かなりの額のお金を送っていた。……だが、今の君を見る限り、その一円たりとも、ゆうくんの手元には届いていなかったようだがね」


その言葉が落ちた瞬間、リビングの空気が爆発した。

「……ふざけんなッ!!!」

阿久津がテーブルを叩き、立ち上がった。その拳は怒りで激しく震えている。

(あいつら……ゆうくんを、親父さんたちの想いを……ただの金としか見てなかったのかよ……!)


羽柴は眼鏡を外し、冷徹な殺気を孕んだ声で呟いた。

「……組織的な横領、そして卑劣な搾取。法的に、ただで済むと思わないことですね」


獅子堂は、隣に座るゆうくんの肩を、沈黙のまま強く引き寄せた。その指先には、血管が浮き出るほどの力がこもっている。


大和は地を這うような低い声で吐き捨てた。

「……その親戚のツラ、今すぐ拝みに行きたくなったぜ。ゆう、お前がどれだけ惨めな思いをしてきたか……今、やっと分かった」


4. 孤独の終わり、愛への確信

ゆうくんの瞳から、大粒の涙が溢れ出した。

ずっと、自分は独りだと思っていた。親戚の家で息を潜め、自分は誰にも望まれていない存在なのだと自分に言い聞かせて生きてきた。

けれど、事実は違った。


お父さんは最期まで自分を案じ、お母さんはあんなにも輝く笑顔で自分を呼んでいた。佐藤さんはずっと自分を助けようとしてくれていた。

そして今、目の前にいる男たちが、自分のためにこれほどまでに激しい怒りを燃やしてくれている。


自分は、愛されていた。

自分は、今もこんなに愛されている。


「……っ、…………ぅっ」

言葉にならない嗚咽が漏れる。それは悲しみではない。心の奥底で凍りついていた孤独が、みんなの熱い想いによって溶かされていく、再生の涙だった。


獅子堂は、無言のままゆうくんの頭を自分の胸に押し当てた。その力強い鼓動が、ゆうくんに「お前はもう独りじゃない」と告げていた。


二月の冷たい雨は完全に上がり、リビングには窓から祝福のような月明かりが差し込んでいた。

ゆうくんを囲む男たちの絆は、この夜、血の繋がりを越えた本物の「家族」へと昇華した。

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