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狼たちの聖域 〜最凶ヤンキー校に舞い降りた天使〜  作者: あやん


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遺された光

1. 伝説の帰還

深夜の静寂を切り裂くチャイム。阿久津が殺気を孕んで玄関を開けると、そこには冷徹な理知を纏った銀髪の男が、雨に濡れたコート姿で立っていた。


「夜分に失礼。私は弁護士の佐藤だが、瀬戸ゆうくんがこちらに居ると聞いてきたのだが」


「弁護士が何の用だ!」

阿久津が詰め寄ろうとしたその時、背後から羽柴が鋭い声を上げた。

「待て……。佐藤? まさか、あの盛トワの伝説と言われた、『カミソリ佐藤』か……!」


その名に、居合わせた生徒たちが息を呑む。かつてこの学校の頂点に立ち、今は法曹界でその名を轟かせる伝説の男。佐藤は眼鏡を指先で直し、低く、重みのある声で返した。


「古い通り名で呼ぶな。今はただ、親友との約束を果たしに来ただけの男だ」


佐藤はリビングへ通されると、獅子堂たちを真っ直ぐに見据えた。

「……親戚連中には、勝手に行方をくらましたと言われて探すのに時間がかかったが。……ようやく見つけた」



彼は鞄から、一本のビデオテープを取り出した。


2. 直筆の「ゆうへ」

寝室では、獅子堂がベッドの傍らで眠るゆうの手を握ったまま、壊れ物を扱うような手つきで揺り動かしていた。


「ゆう。……起きろ。お前が欲しがってた『答え』が届いたぞ」


ゆうは重い瞼を開け、ぼんやりと獅子堂を見つめた。獅子堂は何も言わず、ゆうの細い肩を抱き寄せ、立ち上がるのを支えた。

リビングへ向かう廊下、獅子堂の体温を感じながら、ゆうは一歩ずつ踏みしめる。

リビングに入ると、そこには鋭い眼光の中に慈愛を秘めた、銀髪の男が立っていた。

佐藤はゆうの前に立ち、静かに、けれど確かな重みを持って一本のビデオテープを差し出した。


「保険金などは事前に渡したが……これだけは、お前の手に直接渡して欲しいと瀬戸から……君のご両親から頼まれていたんだ。遅くなってすまない。やっと、約束が果たせる」


ゆうは、震える手でそれを受け取った。

ふと、ラベルに目を落とした瞬間、ゆうの息が止まる。


「ゆうへ」


そこには、写真でしか見たことのない、けれど血の繋がりを感じさせる温かな筆跡で、自分の名前が書かれていた。

その文字を見ただけで、ゆうの瞳から、堪えていた涙がポタポタとラベルの上に落ちた。


「……お父さん、お母さん……っ」


3. 瀬戸夫妻との約束

「……ビデオ?」

「俺、部室に古いデッキ持ってるっす! すぐ取ってきます!」

一人の生徒が雨の中を飛び出していった。彼が必死に持ち帰った年季の入ったデッキが、震える空気の中でセットされる。

佐藤はゆうの顔をじっと見つめ、心の中で呟いた。

(……ああ、やはり母親にそっくりだ。この真っ直ぐな瞳は、あの二人そのものだ)


4. 不安と希望のスイッチ

テレビの前に座るゆうの背中を、獅子堂が大きな掌で支えた。

ゆうの胸中には、嵐のような感情が渦巻いていた。


記憶にはない。けれど、このテープに書かれた自分の名前は、間違いなく自分が愛されていたという証拠だ。

自分はこの幸せを、手放さなくていいと言ってもらえるのか。


「……ゆう。大丈夫だ。」

獅子堂がゆうの手の上から、そっと手を重ねた。

阿久津は拳を握り、羽柴は眼鏡を曇らせ、大和は腕を組んで、全員が固唾を呑んで見守っている。


ゆうは獅子堂の温もりを力に変え、震える指先で再生ボタンを押し込んだ。


ガチャン、という重い駆動音。

砂嵐がゆっくりと晴れ——。

そこには、ゆうが心の底から望んでいた、太陽のような二人の笑顔と、自分を呼ぶ声が溢れ出した。

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