表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼たちの聖域 〜最凶ヤンキー校に舞い降りた天使〜  作者: あやん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/52

雨上がりの聖域 〜静寂の祈りと、来訪者の影〜

1. 氷解の帰還

豪雨の中、獅子堂の腕に抱かれて戻ったゆうは、指先まで氷のように冷え切っていた。

屋敷に戻るなり、阿久津は震える手ですぐさま湯を沸かし、羽柴は清潔なタオルと着替えを山のように用意した。


獅子堂は、意識の朦朧とするゆうをそのまま風呂場へ連れて行き、自らの手で温かな湯をかけた。

「……大丈夫だ、ゆう。…大丈夫だ。」

その声は、ゆうに言い聞かせているのか、自分自身に言い聞かせているのか分からないほどに揺れていた。


2. 祈りのような執着

獅子堂は、ベッドの傍らに座り込み、ゆうの白く細い手を片時も離さず握りしめていた。

微かに伝わる体温。それが、今の獅子堂にとって唯一の救いだった。


扉は開け放たれ、隣のリビングには阿久津、羽柴、そして険しい顔の大和が揃っている。

さらに、ゆうを心配して居残っていた数名の生徒たちも、いたたまれない表情で壁際に控えていた。


重苦しい沈黙が、屋敷全体を支配していた。

阿久津は、さっきまで温かかった料理の残骸をただ見つめ、拳を血が滲むほど握りしめている。

羽柴は、外した眼鏡を握りしめたまま、深く俯いていた。


愛していれば、守れると思っていた。

けれど、自分たちの注ぐ熱が、逆に彼を溶かして消してしまいそうになっていたのではないか。

獅子堂は、眠るゆうの横顔を見つめ、ただ祈るようにその手を強く握り直した。


3. 沈黙を破る、一人の生徒の言葉

その静寂の中、リビングの壁際にいた一人の生徒が、ぽつりと口を開いた。

「……あの、的外れかもしれないっすけど……」


全員の視線が、彼に集まる。寝室でゆうの手を握る獅子堂の耳にも、その声は静かに届いていた。


「俺の姉貴が、結婚する直前にいきなり家出したことがあったんすよ。……幸せすぎて、怖いって。……最悪なことは、これ以上悪くならないって思えるけど、幸せなことは、幸せすぎていつかバチが当たりそうで怖いんだって……」


「……バチが当たる……?」

阿久津が掠れた声で繰り返す。生徒は頷き、言葉を継いだ。


「でも、その時の旦那さんが言ったんすよ。『これくらいの幸せで怖がるな! これからもっと、もっと幸せになるんだからな』って。……無理やり連れ戻されて、姉貴、泣きながら笑ってやがったんす」


生徒の言葉が止まると、再び深い沈黙が降りた。

獅子堂は、握りしめたゆうの手の甲に、静かに額を寄せた。

何が正解なのかは分からない。けれど、この温もりだけは、何があっても守り抜くと、改めて心に誓うしかなかった。


4. 運命のチャイム

沈黙が、再び屋敷を支配しようとした、その時。


ピンポーン——! ピンポーン——!!


夜の静寂を切り裂くように、玄関のチャイムが激しく、執拗に打ち鳴らされた。

この時間、この張り詰めた空気の中で、訪れるはずのない来客。


「……誰だ、こんな時に」

阿久津が反射的に立ち上がる。大和も、鋭い眼光を玄関の方へと向けた。

獅子堂は、ゆうの手を離さないまま、鋭い視線だけを入口へと飛ばした。


それは、獅子堂たちが「力」や「愛」だけでは決して辿り着けなかった、ゆうの「過去」と「未来」を繋ぐ、最後のピースが扉を叩く音だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ