黄金の初春 〜託される意志と、重なる影〜
1. 獅子の手、天使の装い
元日の朝、獅子堂家の静かな離れ。
ゆうがゆっくりと目を覚ますと、そこには着流し姿の獅子堂が、重厚な光沢を放つ絹の着物を手に、静かに待っていた。
「……起きたか。今日はこれを着ろ。……じっとしていろ、俺が締めてやる」
獅子堂の大きな手が、ゆうの細い腰に帯を回す。至近距離で伝わる確かな体温と、真剣そのものの眼差し。
「……獅子堂くん、ありがとう。……着物を着ると、なんだか背筋が伸びるよ」
「……ああ。お前は、俺が思っていた以上に和装が似合う。……よく似合っているぞ、ゆう」
獅子堂の瞳に、深い満足感と、隠しきれない独占欲の滲む光が宿った。
2. 盛トワ工業、最強の布陣
玄関へ向かうと、そこには正装した阿久津と羽柴、そして門の前には、はなちゃんを肩車した大和先輩が立っていた。
「遅いぞ、獅子堂! ……おっ、ゆう。見違えたじゃねぇか。いい着物だ、似合ってるぜ!」
「大和先輩! はなちゃんも、あけましておめでとうございます!」
「ゆうおにいちゃん、きらきらしてる……! ほら、これあげる!」
はなちゃんが、小さな手で精一杯ゆうに手渡したのは、一生懸命折ったであろう折り紙の指輪だった。
3. 盛トワ生の道作り
参道を歩けば、そこかしこに初詣に来た盛トワ工業の生徒たちがいた。
「……お、頭だ! あけましておめでとうございます!」
「ゆうさんも、あけおめっす!」
普段は血気盛んな生徒たちが次々と足を止め、敬意を込めて深く頭を下げ、道を開けていく。
ゆうが気恥ずかしそうに、けれど丁寧に挨拶を返すと、殺気立っていたはずのヤンキーたちの顔が、一瞬で春の日差しのように和らいでいった。
4. 大和の背中と、卒業の予感
参拝を終え、甘い香りの屋台が並ぶ境内を歩いている時。ふと、大和先輩が足を止め、冬の澄み渡った空を見上げた。
「……なぁ、ゆう。……俺も、もうすぐ卒業だ。……このメンバーでこうして歩けるのも、あと少しかもしれねぇな」
その一言に、楽しそうにはしゃいでいた阿久津と羽柴の動きが止まる。
ゆうもまた、胸の奥がキュッと締め付けられるような、鋭い感覚を覚えた。
「……大和さん。卒業しても、俺たちの繋がりは変わりません」
獅子堂が静かに、断定するように告げると、大和先輩はニカッと笑って、ゆうの頭を乱暴に、けれど慈しむように撫でた。
「分かってるよ。……だがな、ゆう。もし俺がいなくなっても、獅子堂や阿久津たちがいる。……何かあったら、迷わずこいつらを頼れ。いいな?」
「……はい。大和先輩、ありがとうございます……」
それは、最強の守護者から託された、最後のリレーのような重みのある言葉だった。
5. 暮れなずむ空と、解けない不安
帰り道、獅子堂は隣を歩くゆうの手を、人混みに紛れてそっと握りしめた。
「……ゆう。来年も、その先も……ずっとこうして、俺たちが隣にいる。安心しろ」
「……うん、獅子堂くん」
ゆうは微笑んで頷いた。けれど、その指先はわずかに震えていた。
獅子堂の掌は、驚くほど温かい。けれど、その温もりを感じれば感じるほど、ゆうの瞳には、夕暮れに長く伸びる自分自身の影が、どこまでも孤独なものに見えてしまう。
(……卒業。……いつか、みんなも……)
賑やかな笑い声の隙間で、ゆうは無意識に、はなちゃんから貰った折り紙の指輪を強く握りしめた。
今この瞬間が、あまりにも鮮やかで、美しすぎて。
それがいつか「過去」という名の色褪せた記憶に変わってしまう日が来ることを、予感せずにはいられなかった。
ふと見上げた冬の空は、どこまでも高く、冷たい。
ゆうは自分をこの場所に繋ぎ止めるように、獅子堂の手のひらに、ほんの少しだけ力を込めた——。




