天使の枕元、上書きされる聖夜
1. 穏やかなイブの夜
獅子堂家の巨大な居間。天井まで届くような立派なツリーを、ゆうは少し不思議そうに見上げていた。
「……ししどうくん。クリスマスって、こんなにキラキラしてるんだね。……なんだか、見てるだけで胸がいっぱいになるよ」
「……ゆう。お前は、サンタに何をお願いするんだ?」
獅子堂の問いに、ゆうは困ったように、けれどふんわりと微笑んだ。
「……ううん、お願いなんて。僕、サンタさんに会ったことないし……きっと、僕のところまでは道が難しくて、来られないんだと思うんだ。……でも、今はこうして、みんなとケーキを食べられるだけで十分だよ。とっても幸せ」
「……道が、難しいだと?」
獅子堂の隣で、阿久津が食べていたチキンを落としそうになり、羽柴が持っていたティーカップを静かに、けれどミシリと音を立てて置いた。
ゆうは「あ、変なこと言っちゃったかな?」と小首を傾げるが、三人の心は、この瞬間、鋼鉄の決意で固まっていた。
2. 「不法侵入」作戦
ゆうが安心しきって眠りについた深夜。
獅子堂の屋敷の廊下を、忍び足で進む三つの影があった。
「……いいかっすか。ゆうくんは『道が難しい』なんて言ってたんすよ……! 地図なんて関係ねぇ、俺たちがここを『世界一見つけやすい場所』にしてやるんすよ!」
阿久津が鼻をすすり、涙で視界を滲ませながら、抱えきれないほどのプレゼントを抱えている。
「……ええ。サンタが道に迷ったというのなら、我々が道標を敷き詰めるまでです。……これだけの数があれば、空からも見えるでしょう」
羽柴が、ゆうの部屋の前に音を立てないよう厚手の絨毯を敷き詰め、完璧な隠密行動で準備を進める。
「……。……やるぞ。ゆうを起こすな。……だが、朝起きた時に、自分の目を疑うほどの光景を見せてやるんだ」
獅子堂の号令で、三人は「音を立てないプロ」として、ゆうの寝室へ潜入した。
3. 溢れ出す「初めて」の輝き
翌朝。窓から差し込む冬の柔らかな光で、ゆうは目を覚ました。
「……ふわぁ、……よく寝た……。……え?」
目を開けた瞬間、視界が「赤と金色」で埋め尽くされていた。
枕元には、抱きかかえるのも大変なほど大きな、手触りの良い白くまのぬいぐるみ。足元には、見たこともないような綺麗な箱が山積みになっている。
そして、昨日まで空っぽだった靴下には、溢れんばかりのお菓子と、キラキラしたリボンが結ばれていた。
「……う、うそ……。サンタさん、……迷わないで、来てくれたの……?」
ゆうが震える手で、そっとプレゼントの箱の角に触れる。その指先から伝わる確かな温もりに、ゆうの瞳から、ポロリと大粒の涙がこぼれ落ちた。
4. 騎士たちのメリークリスマス
「……起きたか、ゆう。……どうやらサンタの奴、お前の家を見つけるのに何年もかかったらしいな。その分、まとめて持ってきたようだ」
扉の外で一晩中様子を伺っていた獅子堂たちが、さも「今来ました」という落ち着いた顔をして入ってくる。
「……獅子堂くん! 見て、サンタさん……本当に、来てくれたんだね……っ。……僕、なんだか、すごく……大事にされてるみたいで……嬉しい……っ」
泣き笑いのような顔で、特大のぬいぐるみに顔を埋めるゆう。その言葉こそが、三人が一晩かけて用意したかった「答え」だった。
「……当たり前っすよ、ゆうくん! 世界で一番、サンタが会いたかった子なんすから!」
阿久津が堪えきれずに袖で目を拭い、羽柴が「……はい、ゆうくん。サンタさんからの、温かいココアです」と、湯気の立つカップを差し出した。
5. 賑やかな朝の訪問者
そこへ、屋敷の玄関から「メリークリスマスだ、コラァ!」と、トナカイの角をつけた大和先輩と、真っ赤なポンチョを着たはなちゃんが突入してきた。
「ゆう! ほら、はなが選んだんだ! ……って、なんだこのプレゼントの山は!? 獅子堂、てめぇ、在庫処分でもしたのか!?」
「……大和さん、声が大きい。……はな、ゆうと一緒に遊んでやれ」
はなちゃんがゆうの元へ駆け寄り、「ゆうおにいたん、プレゼント、いっしょにあけよ!」と袖を引く。
賑やかな笑い声と、包装紙を破る楽しい音。
ゆうにとっての「初めてのサンタさん」は、獅子堂たちの深い愛が形になった、最高に騒がしくて、最高に温かい朝を連れてきたのだった。




