鉄華の休日 〜天使と迷子とポシェットの群れ〜
1. 強襲、大和先輩と小さな天使
獅子堂の屋敷の、静まり返った玄関ホール。そこに、静寂を切り裂くような大型バイクの図太いエンジン音と、鈴を転がすような幼い少女の笑い声が響き渡った。
「おい獅子堂! 引きこもってねぇで、ゆうを連れて外に出るぞ! はなが遊園地に行きたいって聞かねぇんだよ!」
現れたのは、ライダースジャケットを荒々しく羽織った大和先輩。そして、その裾を小さな手でぎゅっと握りしめているのは、天使のような少女・はなちゃんだった。
「……大和さん。ゆうはまだ療養中だ。静養が必要なんだ」
「バカ言え! こんな広い屋敷に閉じ込めておくのが一番毒だろ。……ほら、はな。お兄ちゃんの友達の『ゆうくん』だ。ご挨拶しろ」
大和先輩に背中を押され、はなちゃんがトコトコと、不安そうに立つゆうの元へ駆け寄る。
「……ゆうおにいちゃん。……いっしょに、ゆうえんち、いこ……?」
「……っ! はなちゃん……。う、うん、行こうかな……っ!」
はなちゃんの潤んだ瞳に一瞬で射抜かれ、頬を赤らめるゆう。
獅子堂は「……チッ。阿久津、羽柴。護衛の準備だ。一分で支度しろ」と不機嫌そうに吐き捨てつつも、ゆうのパッと明るくなった顔を見て、即座に折れるのだった。
2. 遊園地に舞い降りた「異様な集団」
日曜日の遊園地。
可愛いカチューシャをつけた親子連れが溢れる平和な空間に、そこだけ不穏な殺気を放つ一団がいた。
先頭を行くのは、はなちゃんとしっかりと手を繋ぎ、ピンクのうさぎポシェットを下げたゆう。
その後ろを、「ゆうくんとはなちゃんに一ミリでも不審者が近づかないか」と眼光鋭く周囲をスキャンする獅子堂、阿久津、羽柴、そして大和先輩がガッチリと固めている。
「……おい阿久津。右前方10メートル、あの着ぐるみのパンダがゆうに近すぎる。……排除の対象か?」
「獅子堂さん、落ち着いてください! あれは仕事中っす! パンダに罪はないっすよ!」
「羽柴くん、見て! 観覧車、すっごく大きいよ! 太陽が当たってキラキラしてる!」
「……ええ、そうですね。ゆうくん、はなちゃん。はぐれないように僕の手を握ってください。迷子防止です」
羽柴はちゃっかりと空いた方の手をゆうに差し出し、背後から獅子堂の「執事の皮を被った嫉妬」という無言の圧力を涼しく受け流していた。
3. メリーゴーランドの奇跡と、不器用な愛
「ゆうおにいちゃん、おんまさん、のる! いっしょ!」
はなちゃんに袖を引かれ、ゆうはメリーゴーランドへ。
上下にゆっくりと揺れる白馬にまたがり、無邪気に手を振るゆうとはなちゃん。その光景は、あまりにも尊く、盛トワの猛者たちの荒んだ心を浄化する波動に満ちていた。
「……。なぁ獅子堂。……俺たちが拳を振るってまで守りたかったもんってのは、結局これだよな」
大和先輩が、キャラメルポップコーンをムシャムシャと頬張りながら、珍しく真面目な横顔で呟く。
「……ああ。……この笑顔を奪おうとする奴は、誰であれ容赦はしない。……たとえこの学園そのものを敵に回してもな」
獅子堂は、スマホのカメラでゆうの笑顔を狂ったように連写しながら(阿久津に「頭、撮りすぎっす! ストレージ爆発するっす!」と突っ込まれながら)、改めてその決意を心に刻んでいた。
4. 幸せの重み、そして影
夕暮れ時。
はなちゃんは獅子堂の背中で、ゆうは大和先輩の背中で、一日中遊び疲れて心地よい眠りについていた。
「……楽しかったね、阿久津くん、羽柴くん……。また、みんなで……」
寝ぼけ眼でふにゃりと呟くゆうに、阿久津が優しくポップコーンの余った袋を「宝物だもんな」と持たせてやる。
「おう、また来ような、ゆうくん。次はもっとデカいぬいぐるみ獲ってやるからよ」
獅子堂は、大和の背中で無防備に眠るゆうの柔らかな髪を、壊れ物に触れるようにそっと撫でた。
「……大和さん。ゆうを連れ出してくれて、礼を言う」
「……ふん。……はなが喜んだから、それでいいんだよ。お前のお礼なんていらねぇよ」
盛トワ工業の頂点に立つ二人のトップは、燃えるような夕焼け空を見上げながら、束の間の安らぎを噛み締めていた。
この穏やかな時間が、一分一秒でも長く続くことを。そして、この「家族」のような絆が、決して壊れないことを願いながら——。




