聖域の崩壊と、猛獅子の覚醒 〜盛トワ工業、深夜の総力戦〜
1. 胸騒ぎの的中
深夜2時半。獅子堂は自室で、一度も閉じることのない瞳で天井を見つめていた。
夕暮れ時にゆうが漏らした「寒気」。茶道の家元として研ぎ澄まされた彼の直感が、心臓を不自然に叩き続けていた。
「……やはり、一秒たりとも離すべきではなかった」
獅子堂はパジャマの上に革ジャンを羽織り、バイクに飛び乗った。深夜の静寂を切り裂く排気音。嫌な予感だけを抱えて辿り着いたゆうのアパートで、彼を待っていたのは、無残に蹴破られたドアだった。
2. 荒らされた聖域と、一通の汚れた手紙
室内は荒らされ、床にはゆうが何よりも大切にしていた「両親の写真」が、無残に割れたガラスと共に転がっていた。
「……ゆう……っ!」
獅子堂の指が震える。机の上には、殴り書きされた卑劣な果たし状。
『盛トワの頭。宝物を返してほしければ、一人で来い。……来なければ、このガキを売り飛ばす』
「俺が……俺の不徳だ。俺がそばにいれば……っ」
最強の名を欲しいままにしてきた獅子堂が、割れた写真立てを握りしめ、自らの無力さに打ちひしがれようとした、その時だった。
3. 仲間たちの集結と、大和先輩の「喝」
激しいエンジン音と共に、アパートの前に数台のバイクが滑り込んできた。
知らせを受けた阿久津、羽柴、そして深夜にも関わらずバイクを飛ばしてきた大和先輩がなだれ込んできた。
変わり果てた部屋の惨状と、そこで呆然と座り込む獅子堂の姿を見た瞬間、大和先輩の拳が唸りを上げた。
ドォォン!!
「がはっ……!」
吹き飛ぶ獅子堂。大和先輩は彼の胸ぐらを掴み上げ、至近距離で怒鳴りつけた。
「てめぇ、何してんだ獅子堂!! 絶望してる暇があるなら、一秒でも早くゆうを助けに行けよ!!」
「……大和、さん……。俺が、目を離したから……」
「うるせぇ!! ゆうが今、どれだけ怖い思いをしてると思ってんだ! 泣きながらお前の名前を呼んでるはずだろぉが!! お前が動かねぇなら、俺が一人で全員ブッ殺して連れ戻してやるよ!!」
大和の瞳には、獅子堂への怒り以上に、ゆうを想う「兄」としての激しい情熱と涙が光っていた。その熱が、獅子堂の瞳に再び、以前よりも深く、激しい「猛獅子の焔」を灯した。
4. 伝令、夜の街を呑み込む
「……阿久津。羽柴。……全学年に回せ」
「了解!!」
二人が即座にスマホを叩く。緊急事態を知らせる合図が、網の目のように張り巡らされた不良たちのネットワークを駆け巡った。
深夜3時。眠っていた1000人のヤンキーたちが、その一報で一斉に跳ね起きた。
『俺たちの「天使」がさらわれた。全員、家から飛び出せ。ゴミ共を一人残らず探し出せ』
学校に集まる時間すら惜しい。各自が自発的に、ゆうのアパート周辺、そして黒蓮高校の残党が潜みそうな廃ビルや倉庫街へと、網の目を絞るように集結し始める。
5. 闇を埋め尽くすヘッドライト
深夜の国道を、数え切れないほどのヘッドライトが埋め尽くしていく。
先頭を行くのは、殺気を帯びた獅子堂と、エンジンを咆哮させる大和先輩。
「……ゆう。待っていろ。今、助けに行く」
盛トワ工業の歴史上、最も長く、最も熱い「家族の奪還作戦」が、今、暗闇の中で始まった。




