聖域のティータイムと、忍び寄る「影」
1. 3年部室:伝説のソファにて
盛トワ工業の最上階、3年生の部室。そこはかつて血の雨が降った(と言われる)聖域ですが、今の光景はまるで幼稚園でした。
「ほら、ゆう。……これ、はな(妹)の好物の高級プリンだ。食え」
大和先輩が、ゴツい指でちんまりとスプーンを差し出します。
「あ、ありがとうございます……! 大和先輩、はなちゃんのこと本当に大好きなんですね」
「……おう。まぁ、あいつは特別だからな。……お前も、似たようなもんだ」
大和先輩が、ゆうの頭をわしゃわしゃと撫でる。その手つきは、完全に「3歳の妹をあやす」時のそれ。
獅子堂は隣で般若のような顔をしていましたが、ゆうが「ししどうくん! このプリン、あーん」とスプーンを差し出すと、一瞬で「……ああ」と溶け落ち、ドーンと構える(フリをする)トップの威厳を保っていました。
2. 「雲の上の人」への憧れ
「大和先輩って、やっぱり凄く強いんですよね? ……僕、中学生の時から、盛トワの3年生は鬼より怖いって聞いてて……」
ゆうが尊敬の眼差しで見つめると、大和先輩は鼻を高くします。
「はっ、鬼? 鬼なんて俺のデコピン一発だ。……安心しろ、ゆう。これからは、俺がこの学校の全部の『壁』になってやるからな」
獅子堂、阿久津、羽柴。そして3年生の猛者たち。
ゆうくんは今、人生で初めて「家族のような、大勢の頼もしい背中」に囲まれ、心の底から安心しきっていました。
……だが。その「安心」を、外から冷酷に見つめる目がいたのです。
3. 不穏:壁の向こうのハイエナ
学校の正門から数百メートル離れた路路地裏。
修学旅行で獅子堂たちに叩き潰された「黒蓮高校」の残党、そして、さらに質の悪い「外部の犯罪組織」と繋がっている半グレ集団が、スマホの画面を眺めていました。
「……見ろ。盛トワの2年だけじゃねぇ、3年まであのガキに骨抜きだ」
「獅子堂を潰すのは難しいが……あのガキを掠えば、盛トワは一瞬で崩れる。……あの獅子堂が、なりふり構わず土下座する姿が見てぇなぁ」
「……あの子、一人暮らしなんだろ? 親もいない、ガードもいない深夜……そこを狙えば、1分で済む」
彼らは、ゆうの住んでいるアパートの住所、そして帰宅時間をすべて把握していました。
獅子堂たちが「学校という城」でゆうを守れば守るほど、放課後の「一人になる時間」という空白が、最悪の標的となっていくのです。
4. 予兆
部室で楽しくお喋りをしていたゆうが、ふと、窓の外を見て肩を震わせました。
「……? どうした、ゆう」
獅子堂がすぐさま異変に気づきます。
「……ううん、なんでもないの。……なんだか、急に寒気がしただけで……」
「……風邪か? それとも、誰かに見られている気がしたか?」
羽柴が鋭く窓の外を確認しますが、そこにはオレンジ色の夕焼けが広がっているだけでした。
「……。阿久津。……今日から、ゆうの家まで俺たち全員で送るぞ。……いや、やはり俺の家に——」
「ししどうくん、大丈夫だよ! すぐそこなんだもん。みんな、部活とか会議あるんでしょ?」
ゆうは笑って手を振りますが、獅子堂の胸には、昨夜の「禁断のキス」の時よりも激しい、不吉な胸騒ぎが消えずに残っていました。




