屋上のデリバリー王と、3年生の闖入者
1. 4時間目終了、即・出撃
キーンコーンカーンコーン……。
4時間目のチャイムが鳴り終わるか終わらないかのうちに、2年校舎から1年校舎へ続く渡り廊下を、凄まじい足音が駆け抜けた。
「……阿久津! 箸を忘れてないだろうな! 羽柴、飲み物の温度は適温か!?」
「ウィッス、完璧っす! デザートの保冷剤もバッチリっすよ!」
「獅子堂さん、落ち着いてください。廊下を走ると1年生が怯えます」
獅子堂が両手で大事に抱えているのは、老舗料亭に特注したかのような豪華な三段重。
それを持って1年A組のドアを豪快に開け放った。
2. 教室が「高級レストラン」に
「ゆう! 昼飯だ! 俺が厳選した『天使のための滋養強壮メニュー』だ。さあ、俺の隣に座れ」
獅子堂が教室の机を三つ並べ、瞬く間に白いクロスを敷いてお重を広げる。
「わぁ……! すごい……これ、獅子堂くんが持ってきてくれたの?」
「当然だ。……さあ、あーんしろ。まずはこの、最高級和牛の時雨煮からだ」
クラスメイトたちが「……ここ、ヤンキー校の教室だよな? 銀座の料亭じゃないよな?」と遠巻きに眺める中、幸せなお弁当タイムが始まった……はずだった。
3. 3年生の降臨
「……おいおい。えらく賑やかじゃねぇか、2年のガキ共が」
教室の入り口に、巨大な影が差した。
現れたのは、3年生。すでに引退し、普段は部室や屋上で暇を潰しているはずの、盛トワ工業・前トップ一派の「大和先輩」。
ピリ……ッ! と教室の空気が凍りつく。獅子堂の瞳が、獲物を狙う獣のように細まった。
「……3年の大和さん。……何の用だ。ここは俺たちの『家族』の時間だ。邪魔をするなら、先輩だろうと容赦はせんぞ」
4. 伝説の先輩、骨抜きになる
大和先輩は、鋭い目つきで獅子堂を睨みつけた後、その視線をちょこんと座っているゆうへ移した。
「……こいつか。2年が修学旅行にまで連れてったっていう、例の『1年の守り神』ってのは」
大和がゆうの前にドカッと座る。ゆうはビクッと肩を震わせた。
「ひっ……、は、初めまして、大和先輩……っ。……あの、これ、タコさんウインナー……食べますか……?」
震える手で、ゆうがお重の中のタコさんウインナーを差し出す。
獅子堂が「貴様、俺のゆうに何をし——」と立ち上がろうとした、その瞬間。
「…………。……可愛いじゃねぇか、ちくしょう」
大和先輩が、ゴツい手で顔を覆ってしゃがみ込んだ。
「おい、お前ら! 3年の溜まり場にある最高級のソファと、俺の秘蔵のコーラを今すぐここに持ってこい! 1年の天使様に献上だ!!」
5. 3年生も「親戚」へ
結局、大和先輩をはじめとする3年生の猛者たちも、「おじさん」や「親戚の兄ちゃん」のような顔でゆうを囲み始めた。
「ゆう、だっけ? 獅子堂がうるさかったら俺に言え。3年の教室へいつでも逃げてこい。お菓子用意しといてやるからな」
「あ、ありがとうございます……大和先輩!」
「……おい。……勝手に『親戚』を増やすな」
獅子堂が嫉妬でギリギリと歯噛みする横で、羽柴が手帳に書き込む。
「……3年生も『ゆう君親衛隊』に加入、と。これで校内に敵はいなくなりましたね」




