語りかける声と、届かなかった「おやすみ」
1. 小さな祭壇、静かな朝の儀式
登校の準備が整い、家を出ようとしたその時。ゆうが少しだけ立ち止まって、棚の上に置かれた小さな写真立てに向き直った。そこには、若くして亡くなった、優しそうな両親の姿。
「……お父さん、お母さん。おはよう。……昨日はバタバタしちゃって、おやすみなさい言えなくてごめんね」
ゆうが小さく手を合わせ、静かに語りかける。
その様子を後ろで見ていた三人は、息を呑んだ。いつも賑やかな阿久津ですら、帽子を脱いで静かに頭を下げる。
2. 両親の「計画的な愛」
「……獅子堂くん。僕、お父さんとお母さんのこと、全然覚えてないんだ。でもね、このお金のことも、僕が一人で生きていけるようにって、悪い親戚に取られない場所に預けてくれてたんだって」
ゆうは愛おしそうに写真の縁をなぞる。
「だから、記憶はないけど……僕、きっと愛されてたんだと思う。だから、頑張らなきゃって」
その言葉に、獅子堂の胸に熱いものが込み上げた。
(……愛されていたどころではない。……お前の両親は、死してなお、お前をその腕で守り続けていたんだな)
3. 三人の「ご挨拶」
獅子堂はゆうの隣に並び、写真に向かって深々と、誰よりも美しい姿勢で礼をした。
「……お義父上、お義母上。……ゆうは、俺が命に代えても守り抜きます。……あなた方が繋いだこの命、二度と孤独にはさせません」
「……っ、お、俺も! ゆう君のことは、俺が立派な『兄貴』として面倒見るっすから! 安心してください!」
阿久津が涙を堪えながら叫ぶ。
「……ふふ。僕は『お姉ちゃん』として、彼が健やかに育つよう管理させていただきますね」
羽柴も穏やかに、けれど揺るぎない決意を込めて微笑んだ。
4. 幸せな「行ってきます」
ゆうは驚いたようにみんなを見つめ、それから今までで一番明るい笑顔で、写真に告げた。
「お父さん、お母さん。……僕、もう一人じゃないよ。……こんなに、あったかい家族ができたんだよ!」
その言葉に、獅子堂は鼻の奥がツンとするのを堪え、ゆうの背中をそっと押した。
「……さあ、行こう。……俺たちの、新しい一日の始まりだ」




