京都の夜、湯煙の攻防と静かなる誓い
1. 銭湯パニック:獅子堂の「混浴」理論
旅館の大浴場。獅子堂は入り口で腕を組み、仁王立ちしていた。
「……阿久津、羽柴。ゆうを一人で入れさせるなど言語道断だ。さっきの事件を忘れたか? 壁の向こうから、他校の刺客が潜んでいるかもしれん(※いません)」
「頭、いくらなんでもそれは無理があるっす! 男湯しかねーんだから、刺客も男だろ!」
「……だからこそ、俺がゆうを『物理的に』隠しながら洗う必要がある。これは、防衛任だ」
獅子堂の瞳は本気だ。本気で「自分がゆうくんの盾(兼、身体を洗う係)」になろうとしている。
結局、羽柴が「獅子堂さん、あなたが一番危険です」とバッサリ斬り捨て、阿久津と羽柴が脱衣所の前で仁王立ちして一般生徒を追い出し、ゆうくん一人のための「貸し切りタイム」が作られた。
獅子堂は、扉一枚隔てた脱衣所で、ゆうくんの「……あ、お湯、気持ちいい……」という声を聞きながら、鼻血を堪えて壁を拳で殴り続けていた。
2. 「一人で寝るのが怖いよ……」
消灯時間。
広い畳の部屋、四人の布団が並んでいる。
いつもならすぐ寝るゆうくんが、昼間の恐怖を思い出したのか、暗闇の中でガタガタと震え出した。
「……ひっ、だれ……? ……あ、獅子堂くん……?」
隣の布団にいた獅子堂が、すぐさまゆうの布団へ潜り込む。
「……ここにいる。……怖かったな。俺が、一晩中お前を離さない」
ゆうは、獅子堂の広い胸板に顔を埋め、その強い鼓動を聞いてようやく安堵のため息をついた。
「……獅子堂くん、あったかい。……ずっと、そばにいてね」
「ああ。……地獄まで一緒だ」
3. 深夜、二人だけの秘密
深夜2時。阿久津のいびきと、羽柴の静かな寝息が聞こえる中。
獅子堂は、腕の中でスヤスヤと眠るゆうを、月明かりの下で見つめていた。
(……愛おしい。……壊してしまいたいほど、守り抜きたい)
昼間の、泣き叫んでいたゆう。赤くなった細い手首。
獅子堂の胸に、激しい後悔と、それ以上の深い情熱が渦巻く。
このピュアな生き物に、今の自分は相応しいのだろうか。
獅子堂は、ゆうが起きないよう、呼吸を止めるほど静かに顔を近づけた。
そして、触れるか触れないかの、羽毛のような柔らかさで、ゆうの額……ではなく、桃色の唇に、そっと自分の唇を重ねた。
「…………っ」
ほんの一瞬。心臓が止まるような沈黙。
それは、獅子堂が初めて「紳士」の仮面を脱ぎ、一人の男としてゆうに触れた瞬間だった。
4. 決意の朝
「……んぅ……。ししどうくん……?」
ゆうが寝ぼけ眼で目を覚ますと、獅子堂はすでに1メートル離れた自分の布団に正座し、精神統一(という名の動揺隠し)をしていた。
「……おはよう、ゆう。……よく眠れたか?」
「うん! ……なんだか、すっごく優しい夢を見た気がするの」
その言葉に、獅子堂の顔が真っ赤に染まる。
後ろで薄目を開けていた羽柴が、「……獅子堂さん、耳まで赤いですよ?」と、すべてを察したような笑みを浮かべるが、獅子堂は無言で阿久津を叩き起こして誤魔化した。
「……もしバレたら、俺の命はないな」
獅子堂は、唇に残る微かな体温を反芻しながら、京都の朝日に誓った。
いつか、ゆうが自分の意志でその唇を差し出してくれるまで、この秘密は一生守り抜こうと。




