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【書籍発売中】転生令嬢は旅する編纂者  作者: 采火
第四部

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102/113

102.ウガール王国の人形工房

書籍版の発売日が近づいてきました。

GAノベル様のXにて連日、編纂者のキャラクター紹介をしていただいております。フェリシアを筆頭にイェオリやサンドイッチ伯爵のキャラクターデザインも公開されてますので、興味のある方はぜひ!

 平和な新婚生活もそう長くは続かない。

 社交界シーズンに入る前に、ヴィクトルは玄蒼国と国交を結ぶために再びハルウェスタ王国を旅立った。お忍びの視察だった前回とは違い、今回は正式な派遣となるので使節団を編成された。その責任者が全権大使であるヴィクトル。


 今回の使節団には、前回の視察の際にヴィクトルと同行していたマトヴェイさんも副使として任命された。総数として二十人ほどの規模。国交樹立を目的とした外交使節としては控えめな人数。私たちは国交樹立のための根回し部隊ってところかしら。正式に国交が開かれたら王族が派遣されるでしょうし。


「平和ね」

「そうですねー」


 船の甲板から日傘を片手に海を眺める。その隣で護衛騎士のオリガさんが相槌を打ってくれた。たっぷりある金髪を頭の高い位置でくくっている彼女は、とっても頼もしくて美人な女性騎士。一応、神樹の神子事件があったことを考慮されて、私に専属でつけられた。


 私を国外に出すことに対してひと悶着あったみたいだけど、玄蒼国の神子であるクーヤくんから個人的な招待状が私宛に届いているのもあり、私は同行許可をもぎ取った。ついでとばかりに玄蒼国語ができるので、通訳も兼ねている。おかしいわ、外交官じゃなくなったのに。


 そんなオリガさんとぼんやりと海を眺めていたら、背中から声がかかった。


「子爵夫人、あまり端に寄るんじゃない。オリガもどうして止めない」

「いいじゃないか、ニエストル。船室に籠りっぱなしも良くないだろ。たまにはお日様と海風をいっぱい浴びないと!」


 振り返れば、屈強な男性がいた。短く刈られた金髪がワイルドな雰囲気を醸している。オリガさんに渋面を向けているのは、護衛騎士をまとめる騎士隊長のニエストルさん。オリガさんとは腐れ縁らしく、自由奔放なオリガさんのストッパーとしてよく苦労しているらしい。……というのが、他の護衛騎士さんからの情報です。


「フェリシア。風が控えめだから、船足が少し遅くなっているらしい。ウガール王国の着港は夜になる見込みだ。宿が取れなかったら今夜は船舶になるけど、大丈夫かい」

「大丈夫ですよー。慣れました」


 ニエストルさんの後ろからヴィクトルが出てきた。体格のよいニエストルさんの後ろにいると、細身のヴィクトルはよく隠れてしまっている。最初はどこからヴィクトルの声がするのかとびっくりしていたけれど、しばらくの船旅でだんだん慣れました。


 それにしても、もし船舶になったら……と考えて、ついつい憐れみの視線を船室に向けてしまう。その視線に気づいたヴィクトルも苦笑した。


「マトヴェイは船舶になったら、水夫の小屋を貸してもらうつもりだよ」

「船酔いの薬、なかなか効きませんね」

「こればかりは体質だからね」


 ヴィクトル曰く、マトヴェイさんは前回も船酔いで苦労したらしい。そんなに船酔いするなら他の人を選ぶべきではと思ったものの、玄蒼国語ができる貴重な人物ということで半強制的に同行が決まったらしい。可哀想に。


 心の隅っこでマトヴェイさんにお祈りして、私はまた海を眺める。


 水平線の彼方で空の青と海の碧が混ざり合っている。潮の香りが鼻腔をくすぐって、熱をはらむ暑い風が肌を撫でた。


 いつか行ってみたいと思っていたウガール王国。

 そこで私は、確かめたいことがある。






 ガムラン連合王国を構成する島国の一つであるウガール王国。その港に着港したのは日が落ちてからだった。案の定全員分の宿は空いていない。マトヴェイさんを優先的に宿へと泊めて、私とヴィクトルもそれに便乗した。そして翌日から三日間、補給のために港に停泊する。


 一日目はヴィクトルと一緒にウガール王国の港を見て回った。このあたりは富裕層向けのリゾート地のようで、海岸は綺麗に整備されてレストランや土産物屋が多く建っていた。漁業が盛んなのは島の反対側だそう。ヴィクトルは明日、島の反対側まで足を伸ばすらしい。ヴィクトルに勧められマヒマヒという魚のフライを食べた。鱗ごと油でカリカリに揚げられていて、サクサクとした食感が新鮮で美味しい。


 お腹がくちくなると、その日は英気を養うために早く寝た。


 二日目。私は船で島の反対側に行くというヴィクトルに便乗して着いていった。そのまま市場を視察するヴィクトルと別れて、オリガさんと一緒に馬に乗り、内陸部へ。昨日、事前に聞き込み調査しておいた場所へと向かう。


「フェリシア様、ここのようですね」

「ありがとう、オリガさん」


 馬から降ろしてもらった私の前に立ちはだかるのは、一軒の人形工房。そう、前に仕事で資料整理をしていた時に見つけた、異世界風雛壇の人形を作っている工房!


 毎年、建国祭ではこの工房から建国当時を模した大型の飾り人形をウガール王家に献上しているらしい。お土産屋さんでもこの工房で作られたウガール初代女王の人形や、当代の女王人形が売られていた。ハルウェスタ王国でも王族の肖像画や平民向けの絵姿は出回っているけれど、ウガール王国は絵よりも人形のほうが人気が高いみたい。


 そんな人形工房へ私が足を向けた理由はただ一つ。

 建国祭を祝う雛壇を最初に作った人について、教えてもらうため。


 私は工房の扉を開く。


『こんにちは。どなたかいらっしゃいますか』


 扉を開くと、小さなお店のようになっていた。机と椅子が置かれていて、人形の展示スペースもある。奥にはカウンター。人は居ないけれど、扉に鍵はかかっていなかったので、カウンター奥の通路のほうにいるのかしら。


 ウガール王国はガムラン連合王国の一つ。ガムラン語が通じるそうなので、ガムラン語で声をかけながら、店の中に入ってみる。オリガさんも私と一緒に入って、展示されている人形を眺める。


「やっぱり見慣れないですね。この人形の肌、陶器なんですよね? ぬいぐるみと違って、触ったら壊しそうで遊べませんよ」

「そうね。でも飾るだけならとても綺麗な人形でしょう?」


 ビスクドールのような陶器製の人形を見て、オリガさんはおっかなびっくりした様子。私だってこれで人形遊びをするのはちょっと怖い。


 二人で人形を眺めていると、やがて店の奥からのっそりと壮年の男性がやってきた。


『客か。何用だね』

『こんにちは。私、人形を見に来ました。建国祭の人形を作っていると聞きましたので』

『あー、悪いな。あれはまだ時期じゃねぇからよ、今年のもんはまだ見せられないんだ』


 あら、残念。


『それなら、少しお話を聞かせてください。私、旅の途中なんですが、最初に建国祭でたくさんの人形を作った人の話を知りたくて、こちらに立ち寄ったんです』

『ほぅ、三代目の話か。人形じゃなくてそっちの話を聞かれたのは初めてだな。そこ座りな。弟子が呼びに来るまでで良ければ、少し話してやろう』


 お弟子さんがいるということは、男性は工房の親方かしら。私が椅子に腰かけると、男性もカウンターから出てきてどっこいせと向かいに腰かけた。


『三代目の何が知りたい』

『まずはお名前を聞いても?』

『三代目の名前はナラインだ』


 あの、あなたのお名前を知りたいんですが……?

 でもまぁ、お話を聞くだけなら名乗り合わなくても良いのかしら。ただのお客と店員という関係なら、名乗ることもないものね。


『えぇと、ナラインさんが最初にたくさんの人形を作った人ですか?』

『そうだ。俺たちは〝hinadan〟と呼んでいる形式の集団人形なんだが——』

「待っていま雛壇って言いました!?」


 思わず興奮して椅子をガタッと揺らしてしまった。前のめりになった私に、親方は驚いたように目を丸くする。


「フェリシア様、お顔が近いですよー」

「はっ、ごめんなさい。ちょっと興奮してしまったわ」

「ふぅん? ヒナダン、とやらにですか」


 オリガさんには分からないだろうけれど、これはもう確定したも同然。私の勘は正しかった。人形こそ違うものの、お雛様に似た配置だなと思ったのは間違いじゃなかった。良かった。気がついて良かった……!


『あんたどこの国の人だ? ガムラン語が上手いからてっきりガムランの人間かと』

『ありがとうございます。私はハルウェスタ王国で外交官をしていました。なのでガムラン語も話せるんです』

『はぁー、それはすごいな。そんな人がまた、なんでうちの人形なんかに』

『人形というよりはヒナダンとナラインさんのことを知りたいんです。どうやって発案したのか、とか、ナラインさんがどんな人だったのか、とか。なぜヒナダンと名付けたのか、とか』


 うんうん、と私の言葉に頷いていた親方が、途中で首を傾げる。


『名付け?』

『ええ。私、物の由来を調べるのが好きなんです。ヒナダンもどうして〝階段人形〟とかじゃなくて〝hinadan〟と呼んだのか、気になりませんか?』

『言われてみればそうだな。なんで〝hinadan〟なんだ?』


 逆に聞き返されてしまった。


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