夢心地
「ただいまぁ」
家に帰るとキッチンからは夕食のいい匂いが広がっていた。今日はどうやらカレーのようだ。
「お帰りなさい、悪いけどお風呂の用意しておいてちょうだい」
母の声だ。どうやらまだ父と弟は帰ってきていないらしい。
「はーい」
さっさと風呂の用意をして二人が帰ってくる前に入ってしまおう。そう考えてすぐに湯を張るボタンを押す。
機械音と共にお湯が出てくる。
それを見届けると自分の部屋に荷物を置くために2階へと上がる。荷物といっても今日は食べるかウィンドウショッピングがほとんどだったので特に荷物もない。あるのは方から下げた財布とスマホを入れたカバンだけだ。それでも肩から降ろしカバンをベットに放り投げるとなんだか方に乗っかっていた重しのようなものがスルッと落ちた気がして思わずため息が出た。
「明日からどうしよう」
ベットにカバンを放り投げたことも忘れその上に寝転ぶ。今日のことが走馬灯のように頭を駆け巡る。私は死ぬのか?という冗談はさておき今日のことを思い出す。とても楽しい時間だった。まるで夢のように。ただそれがお金を払って得た友情という引っ掛かりと学校の先輩だったということが喉の奥に引っかかった小骨のように気持ち悪さを残す。何よりあずにゃん先輩は謎が多すぎる。お金がいるのだろうか?わざわざ、アルバイトの中からあんな私のような人間相手に仕事をしているのだ。料金だって高かった。今回はほぼ払っていないが私ならというより社会人でもそうそう払う機会もない額ではないだろうか。かと言って彼女に嫌味や擦れたところも見ることはない。別に会っておしゃべりして、ご飯を食べて。それだけだ。それでも私以外とも、場合によっては男性とも・・・そんなことを考えてしまう自分がいやらしく、汚らしく思えて嫌になる。それでも彼女が好きだ。あの姿に惹かれている自分がいる。本当に友達になってくれるのだろうか。悶々としているうちに夕食の時間がきたようで下から母が呼ぶ声が聞こえる。リビングに入るとすでに風呂上がりの父と腹ペコと言わんばかりの弟が席に着いていた。どうやら悶々と考えている間に父に先に風呂に入られてしまったようだ。だが仕方がない。父はこの家の主だ。当然の権利だ。だが弟よ。お前だけにはおくれをとるわけには行かない。その部活で汚れ切った体、なんとしても先に入らせてもらう。
カレーの味はちょっといつもより辛く。風呂は結局、弟に先に入られてしまった。
どうやら私の今日の運はあずにゃん先輩とのデートで使い果たしていたようだ。それでもいい。明日のために残しておこう。でなければ隕石でも落ちてきてしまう。そのぐらい私は運のない人間だと思い込んでいる。そのぐらいどうしょうもなく卑屈なのだ。それでもスマホに登録された連絡先は大切な自分を守るお守りのように輝いて見えた。




