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-11- [第二章] 帝国 ルンヴィーク

総合評価が3桁を超えました、これも皆様のおかげです。


ブックマーク、感想、レビュー、ドンドンお待ちしております。

先週はディムさんとレンさんに角煮を振舞って喜んで貰えたユーは、次の土の日には何を作ろうかと頭を悩ませていた。

日本にいた時と見た目と味が一致しない野菜だらけで思った味が再現できるか心配だったからだ。


今週も5日間みっちりと稽古をして待ちに待った土の日が来た、早朝の稽古を終えて市場へ足を運び色々な野菜を1種類ずつ買い込み日本の野菜とのズレを修正する作業を行った。昼に治療を行い、治療を終えてからはまた市場へと足を運んだ。朝に買えなかった野菜を求めて足を運んだ。

日も傾き夕方になろうとしている頃、ユーは大量の野菜を抱えて帰路についていた。研究所まであと徒歩10分というところでユーの意識は刈り取られた―――



「おーおー、さすが魔法使い様の魔法はすげえや!対象を眠らすのも一発かよ」

「無駄口を叩くな、これを習得するのにどれだけの時間を費やしたと思ってるんだ。そんなことよりはやくズラからないと誰かに見られてしまうぞ」

「へーへー、魔法使い様は人使いが荒いこって」

「何を言うか、貴様も私もバレたらただじゃすまないのは分かっているだろう?」

「そりゃそうだ、んじゃさっさとズラかりますかね、これが終わったら俺らは金持ちだからなぁ。

 ・・・なあ、ちょっとくらいつまみ食い――」

「やめておけ、バレたら金が貰えないどころか、命すら消されかねんぞ」

「あの豚のこったぁ・・・有り得るな。あーあ、目の前に餌があるのに食えないったぁ、生殺しだぜ」


黒い服に身を包んだ男二人が他愛もない会話をしながらユーを布で包み、樽に押し込んで抱えるようにしてその場を去った。その現場を見た者は誰も居なかった―――



ユーが攫われてから2時間が経過した、樽に押し込まれていたユーが揺れで目を覚ました。


(ここ・・は?たしか買い物をしてて――、何だこれ!?動けないし暗い!もしかして誘拐・・!?)


ユーは自分の置かれた状況を瞬時に把握し、何者かに誘拐され何かに押し込まれているところまで推測した。

外からは男2人の会話する声が聞こえ、時より揺れて、馬の声が聞こえることから推測は確信へと変わった。

ここで暴れたら恐らく無事じゃすまなくなる、だからといってそのままでは何をされるか分からない。ユーは恐怖を心に押し込んで冷静に分析した、唯一の情報源である男2人の会話に全神経を集中させ、"誰"が、"どこ"へ、"何"の為に、ユーを連れ去ろうとしているのかを得ようとしていた。

そんなユーの状況などいざ知らず、帝国の関門を突破した2人は雇用主へと商品(ユー)を届ける作業を遂行していた。最大の難関だと思われた帝国の荷物検査を突破したとあり、2人は『任務成功だ、後は金をもらうだけだ』と気を緩めていた。



「いやぁ、今回の依頼は楽だったなあオイ!」

「楽・・、私の魔法があったからだろう?」

「そりゃそうだが、あんなメスガキを攫うだけでそれぞれに金貨5枚だぜ?どんなガキなんだよ」

「噂によるとハーフエルフらしいな、それで価値が上がってるんだろう」

「ほぉ・・・ハーフエルフか、肌が青いのも頷けるな。んでも、それだけじゃねえだろ?」

「ああ、容姿だろうな。何せあの豚は少女趣味(ロリコン)だからな、それでいてエルフは長命で長い間全盛期である姿を維持できる種族だ、それはハーフエルフにも該当する」

「なーるほどなぁ、自分の趣味の容姿の女が死ぬまでずっと同じ姿ってわけだ。そりゃ金貨10枚も出すもんだ」

「そういうことだ。まあ何にせよ送り届けなければその金貨も貰えないからな、あと半日といったところか・・・。今日はこのあたりで野営したほうがよさそうだな」

「あぁん?なんでわざわざ立ち止まるんだよ、まだまだいけるだろ?」

「ああ、確かにまだ行けないことはないがネージュ領に入ってから豚の屋敷の敷地内に入るまで馬がもたんだろう、それに夜の間走らせると逆に怪しいからな」

「なるほどな、そりゃそうか。夜に馬を走らせるなんざ怪しい者ですって言ってるようなもんだもんな。

 うし、そうと決まれば準備だな。あんたは薪を準備してくれ、俺は近くの川に水を汲みに行ってくらぁ」

「ほう、気が利くじゃないか。わかった、火はこちらで用意しよう」

「そりゃ俺は万が一の前衛だが、今回働いてねーからな、これくらいはするさ。んじゃ汲んで来るわ」



男はそう言い、馬車から何やら容器を取り出し川へ向かって姿を消した。

もう片方の男は「あいつもただの筋肉馬鹿じゃないんだな」とつぶやきながら薪にするための木片を馬車から取り出そうとしていた。

全神経を集中していたユーはこれを好機(チャンス)と捉え、魔法使いであろう男の足音が止まった瞬間に全身の力を解放した。



バガンッ!―――



樽が弾け飛ぶような音が響き、魔法使いの男は馬車の荷台へ視線を向けた。そこには樽から飛び出しているユーの姿があった。


「なっ!?魔法の効きが浅かったのか!?」


男がユーに使用した魔法は、昏睡の魔法で発動すれば魔法妨害(レジスト)されない限りは数日は眠ったままになるという妨害魔法だった。惜しむべくはユーがただのハーフエルフではなく混合獣(キメラ)であり、戦闘用として造られた肉体は魔法抵抗力が極めて高かったということだった。ユーは魔法妨害(レジスト)をしたわけではなく、モロに魔法を受けたが魔法抵抗力が高いが故に魔法の効力が切れるのも早かったのだ。

自分の魔法の効力が切れてしまっている事実に驚愕しながらも再度昏睡の魔法を唱えようとする魔法使い、帝国ではユーの行動パターンを分析して通る場所にあらかじめ魔法を設置することで詠唱することなくユーに魔法をかけることが出来たが、今は目の前にいるユーに向かって設置などしている暇はない、詠唱して直接当てるしか方法はなかった。

何故魔法使いはここで攻撃魔法ではなく、妨害魔法の昏睡魔法を選んだのか?

答えは簡単なことで、魔法使いを雇用した男が雇用する際に交わした約束だった。その内容は『傷をつけずにもってこい』というものであり、男がいう傷とは男女間での営みによって起こる傷だと魔法使いの男は理解していたが見た目を傷つけたとあっては褒賞が減ってしまうかもしれない、その慢心が魔法使いの最後だった。


(何されたかは知らないけど体は動く!なら逃げる?・・いや、ダメだ!あの男、魔法使いでこっちに向かって手を向けて何か言ってる、多分アレは詠唱・・!逃げたら殺られる・・!?

 ――なら!せめて!何かされるくらいなら!相打ち覚悟で!突っ切れぇええええ!)


ユーはこの3週間練習していた魔力操作を全身に行き渡らせるように巡らせ、めいっぱい力を込めて地面を蹴った。詠唱を邪魔するようにタックルをして倒してしまえば言葉は止まるだろうと願いを込めて―――

数秒後、そこにはタックルの衝撃により骨が粉砕し、内蔵は破裂し、穴という穴から体液を撒き散らして死んでいる魔法使いの姿があった。

ユーの見た目はエルフだが、中身は混合獣(キメラ)であるが故に、細腕からは想像も出来ない力が出る。そこに全身を覆うように魔力を巡らせてフルパワーで突進したのだ、ひ弱な魔法使いが自信の肉体だけで耐えれるものではなかった。


「・・・え?」


そのタックルをかました当の本人であるユーは困惑した、タックルしたら人が死ぬとは夢にも思っていなかったからである。何度も襲われているユーだが、人が死ぬ場面を見たことがあっても自分で人を殺したことはなかった、自分の腕の中で次第に冷たくなっていく身体がユーの思考を戦闘から現実へと引き戻した。



(死ん・・だ?え?ボク、タックルしたしただけだよね・・?なのに死んだ・・?ボクが殺した・・?ボクガコロシタ?)



『人を殺した』この現実を叩きつけられてユーの思考は停止した。

思考が停止しているユーの元へ、川へ水を汲みに行っていた男が戻ってきた。男はユーの姿を見つけ、魔法使いの成れの果てを見つけ、背負っていたロングソードを抜き放った。

ロングソードが抜かれる時の金属が擦って出る音で、ユーは男の接近に気づき我にかえった、誘拐犯は1人じゃないことに


「てめぇ!生かしておけねえ!」


男は地面を蹴り、袈裟斬りを繰り出した。

ユーはその動きに反応してバックステップをしたが間に合わず左腕を軽く斬られてしまう。

ユーが痛みで動きが鈍ったところを男が逃す訳もなく、男は袈裟斬りの勢いを生かして剣を横薙ぎに振った。

ユーは男の横薙ぎを何とか躱し、力を込めて剣を握る腕に向かって拳を振り下ろした。

ユーが振り下ろした拳は男の右腕に当たり、「ゴキンッ」と軽快な音をたてて骨を砕いた。

痛みで握力を失った右手では剣を握ることも出来ず、男は剣を地面に落としてしまった。しかし、唇を噛み痛みに耐えていた。

剣を落とす事に成功した事で気を緩めてしまったユーの頭に、男の左回し蹴りがモロに当たり、ユーは吹き飛ばされてしまった。


(何・・が、起こっ・・た?)


意識していない場所からの攻撃により、何をされたのかが分からない。吹き飛ばされた時に頭を地面に打ち付けた事により、ユーはまともに思考出来なくなっていた。


「ッガァ・・!クソが!商品だから、とか、言ってられねえ・・!あの豚には、悪いが、命の方が、大事、なんでな・・・!」


男は痛みで言葉が途切れ途切れになりながら、左手で剣を拾い、吹き飛ばしたユーの元へ足を運んだ。

男はユーの左足、右腕と次々に剣を突き刺した、それは殺す為ではなく鬱憤を晴らす為でしかない行為であった。


「ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」

「このっ、クソガキがっ!、俺様にっ!歯向かいやがって!」


痛みにより思考が覚醒したユーは自分の置かれた状況を瞬時に理解し、無我夢中で蹴りを放った。

男は再度突き刺そうとして左腕を上げており、下半身に意識がいっていない事が不運だった。

ユーの蹴りは男の膝を砕いて男を歩けなくした、男が痛みで悶えている間にユーは男から逃げるように距離を取った。

それを見た男はユーに向かって左手で持っている剣を投げつけた、惜しむべくは利き手では無かったという事だ、投げられた剣はユーから逸れて地面に刺さったのだ。

這いつくばりながら回収しようとする男を見て、ユーは刺さっている剣を急いで回収した。

そしてその剣を握り締め男の心臓目掛けて投げた。

投げた剣は心臓から外れたものの顔に吸い込まれるように突き刺さった、一瞬のうめき声を最後に男は沈黙した。



(痛い・・!痛いからっていつまでもここにいる訳にはいかない・・、早く帰らなきゃ・・・レンさん心配してくれてるかな・・?)


ユーは痛みを堪え、帝国に向かって歩こうとしたが足の傷は思ったよりも深手で満足に歩けるものではなかった。

だからといって馬に乗れる訳もなく、痛みに耐えながら馬車の轍を目印にして日が傾く中、牛歩のごとくゆっくりと研究所へ向かって歩を進めた。


------------


(おかしい、いつもならこの時間には帰ってくるのにまだユーが帰ってきてない・・。今日は市場に行くと言っていたはずだけど陽が落ちた後まで市場はやってない。ユーの身に何かあったんじゃ・・?)


ユーが陽が落ちても帰ってこないことに、レンは戸惑いを隠しきれていなかった。出会いから今までの一緒にいる中でユーがレンに言わずに姿を消したことはなかった、あるとすれば全てが襲われている時だけという事実がレンを不安にさせていた。


「どうしたんだスィールくん、そんなに慌てて・・・、ユーくんのことがそんなに心配かな?」

「そりゃ心配ですね、彼女にはまるで不幸を寄せ集めるかのように、悪いことばかり起きるのですよ。前にいなくなった時も男に襲われていましてね・・・、心配しないほうがおかしいです」

「心配しない方がおかしい・・か、スィールくんはもう少し冷たい人間だと思っていたのだが、いやはや熱い男だったとはね。前回この研究所を訪れた時に研究材料(モルモット)が逃げ出したときはそんな風にはならなかったじゃないか、、あるで今の君は遊びに行った娘が行方不明になって慌てている父親のようだよ」

「父親・・・」


「そんなに気張るものじゃないよ、すぐに帰ってくるんじゃないか?」といい、研究に戻るディム。レンはディムに言われた言葉を心の中で反芻した。

自分ではそうは思ってなかったけど、周りから見れば父親のように見えていたのか・・・と。

その後も時間は過ぎて行き、晩ご飯の時間になってもユーが帰ってくることはなく、さすがのディムも心配になり、2人で周りの住民にユーの目撃情報を聞きに回ったが目撃情報は無く時間だけが過ぎていった。


「レンくん・・これは人攫いの可能性があるね」

「そうですね、捜索隊の依頼を出しに行きます。冒険者ギルドならいけるでしょう」

「待ちなさいレンくん。もう夜だ、今出したところで集まるとは思えない、それに出発も出来やしないぞ」

「じゃあ黙って待てと言うのですか!?」

「そうは言っていない、せめて捜索願いを出すのは早朝にするべきだと言ってるんだ・・・、心配なのは分からんでもないが今動いても効果は薄い」

「ぐ・・」


レンは反論出来なかった、ディムの言うことが正しいからだ。

本当は今すぐに飛び出して探しに行きたいが手掛かりがない、それに1人で動ける程の戦闘力もない。レンは自分の弱さをここまで恨んだことは一度もなかった、それ程ユーの存在が大事だと、自分でも再認識できた。

どうにかならないか、と頭を悩ませていると研究所の扉を叩く音が聞こえた。


「夜分遅くに失礼します!帝国防衛隊に所属する者ですが、こちらにレン・スィール殿はご在宅でしょうか!」


帝国の門番や各所を防衛する騎士、帝国防衛隊の1人が研究所を訪れた。

レンは何事だ、と思い扉を開けた。


「私がレン・スィールですが、何用でしょうか?」

「ハッ!先程東門におきまして怪我をした少女を保護いたしまして、話によりますとレン・スィール殿にお世話になっている者だという事でして、その確認にーー」

「怪我!?その子は今どこに!?」

「ハッ、ハイ!今は東門の守衛室で保護させていただいておりますが・・・」

「案内をお願いします、私も向かいます!」

「レンくん、どうしたんだ?」

「東門で私にお世話になっている少女が保護されたらしいのです、今私と関わりのある少女など1人しかいませんから・・」

「ユーくんが見つかったということか!・・・分かった、私も行こう」


------------


ユーは痛みをこらえながら一歩、また一歩と歩いた。

土地勘はないが馬車が残した轍があるお陰で何とか迷子にはならずに済みそうだと内心ホッとしながら帝国に向かっていた。

帝国の姿が見えたのは歩き始めてから4時間が経過した頃だった。

ぼんやりとだが帝国の姿が目視出来た途端、身体の重さが増した気がした。気を抜いてしまってはダメだと気を引き締めて更に歩を進めた。門に辿り着いたときには既に満身創痍だった。

ボロボロになりながら歩いてくるユーを見た門番は駆け寄ろうとしてグッと堪えた、弱っている人間を餌に使い悪事を働こうとする輩は腐るほど居るからだ。

門番の近くまで辿り着いたユーは膝から崩れ落ちた。

流石の門番もその状況で無視するほど冷徹にはなりきれなかった。


「君!大丈夫か?」

「ここ・・は、帝国・・ですか?」

「そうだ、ここは帝国だが・・・君は何処から来たんだ?」

「元々、レンさん・・に、お世話に、なってた、のですが、いつの、間に、か、外に・・連れ去ら、れてて・・」

「レンさん・・フルネームは分かるかい?」

「レン・・・スィール・・です」

「あのレン・スィール殿か・・・分かった、スィール殿の元に部下を走らせよう、君は横になって休んでいるといい・・・」

「ありが、とう、ござい、ます・・・」


門番は休憩している部下に命令しレンの元へと走らせた。

門番がユーを休ませた理由は弱っているのを隠して襲う輩にしては疲弊し過ぎていた点と、レンと合わせれば全てわかると思ったからであった。

その事情から、回復薬(ポーション)が守衛室には常備されてたものの使えないでいた。

ユーを横にしてから10分程で部下とレン、ディムが守衛室を訪れた。門番がユー寝かせている部屋にレンを通すとユーを見るや否や飛ぶようにユーの元へ駆けつけた。


「ユー!大丈夫かい!?」

「あ・・、レンさん、すいま、せん、ご心配、を、おかけ、しま、した」

「そんな事、気にしないよ。それで・・何があったんだい?」

「それはーー」


ユーはレンとディム、それと部下と交代した門番に向かって話しをした。

気が付いたら誘拐されていた事。

話しを聞き耳たてた結果得られた情報は、人身売買、ネージュ領地に送られそうになった事、雇い主は豚と呼ばれていた事。

そして逃げてくる際に2人を殺してしまった事。


全てを話し切った後、ユーはレンに抱きかかえられていた。包み込むように、強くもなく弱くもない、しかし暖かみが感じられるような力加減で。


「もういいよユー。もういい・・、辛い思いをさせたね。大変な時に側にいてやれなくてごめんね、もう終わったんだ、我慢しなくてもいいんだ・・」


レンに抱きしめられ、緊張が解れた事により、ユーはレンに抱きついて、全てを出し切るかのように泣いた。


「ぅぁ・・ああっ・・・うわあああ、ああああああ、あああああ、あああ!怖かった!怖かった!死ぬかと、思った!怖かったぁあああああ!」


泣き叫ぶユーを前にして、抱きしめる事しか出来ないレンは自分の不甲斐なさを噛み締めた。泣き疲れて意識を手放したユーを素早く抱え門番の男に回復薬(ポーション)を譲ってもらいユーに使用した、身体に刻まれた傷はゆっくりと回復していき薄っすらと傷跡が見える程度にまで回復した、この傷跡も数日もすれば無くなるだろうとレンは一安心した。門番の男に礼をしてディムと共に研究所へと戻った。

ユーを抱えて歩く様は、父親の姿そのものであったーーー


レンはユーをベッドに寝かせて部屋の扉を閉め、ディムとユーが話した事を説明した。


「そうか・・・、ネージュ領に依頼主は"豚"か・・、つまりは――」

「ああ、ネージュ領領主のタンプルート・ドル・ネージュ公爵だろうね・・・」

「悪名高いタンプルート公爵か・・・、彼の性格からしてこれからも同じようなことが起こると私は思う、何か手を打たないといけないぞ?」

「そうですね・・・、何か手は・・・」


その時レンは閃いた、ただの小娘だから狙われるのだと、それならばただの小娘じゃなくなればよいのだと


「そうか・・、もしかしたら彼の手を鈍らせることが出来るかもしれません」

「ほう、流石はレンくんだ、もう対策を考えたのかね?」

「ええ、私的にはあまり使いたくない手ですがね・・・」

「それはどんな手なんだい?」

「ユーを私の養子にすることです、私としては貴族としての権威をあまり使いたくないのですが相手が相手です。流石の公爵と言えどスィールの名前を相手には手を焼くでしょうから。

 それに、ディムさんに言われて私気づいたんですよ、ユーの事を研究材料としてではなく娘のように思っているということを」

「なるほど!それなら確かに簡単には手出し出来ないな・・・」



レンは王都で研究家としての功績を認められ異例の昇進を果たした。

種族研究において、今まで謎とされていた魚人の絶滅とドラゴニュートの関係を解明し、ドラゴニュート族に対する配慮も行い種族間の争いを少なくすることに成功、これにより平民から男爵へと昇進を果たした。

その後魔族についての研究を進めていく中で魔族と魔物の違いを解明、その後各魔物の性質を研究、その情報を開示、それにより騎士、冒険者共に死亡者が激減。これにより男爵から子爵を飛ばし伯爵へ昇進を果たしている。

今やレンは研究者として名前が売れており、貴族としても伯爵の地位があるので、公爵といえど手を出し辛い存在になっている。そのレンの娘ともなれば手をかけた場合、レンの怒りを買うのは必至であり王都側の人間を敵に回すことになる為、今よりも狙われにくくなるのだ。



「私は明日にでも手続きをしようかと思います、この件は早ければ早いほうが良いので」

「では私はオグル殿とヴァーナくん、プリシラくんに事情を説明しておきましょう、ユーくんの方は多分数日かかるでしょうからな・・・」

「お手数おかけします、では私は休ませて頂きます。ディムさんも早めに休んでください」



次の日、レンは貴族領の役所を訪れた。そこで養子手続きを済ませ、王都にいる両親と親族に手紙を送った。届くのは早くても半年は先だが事情が事情なだけに連絡をしなければならない。

研究所を訪れたオグルとヴァーナとプリシラに事情を説明し、ユーが目覚めて調子が良くなるまで稽古は無しということにしておいた。

そしてユーが倒れてから3日後、長い眠りからユーが目覚めた。



「おはよう、ござい、ます」

「ユー!大丈夫か!?」

「あ、レンさん、大丈夫、とは?」

「えっと・・、先日攫われたことについてだ」

「あー・・、その件、ですが、ボクも、いろいろと、考えました。

 かなり、前に、起きてたの、ですが、その時、のことが、頭を、よぎった、ので、考えた、んです

 人を、殺したのは、怖かった、恐ろし、かった、人に、殺され、そうに、なった、のは、怖かっ、た

 でも、この、身体で、いる以上、避けられ、ないの、かなって、思いま、した・・、だったら、そんな、奴らが、来ても、粉砕、できるくらい、に、もっと、もっと、強く、なりたいと、思い、ました。

 自分が、したことが、消える、わけ、じゃない、でも、悪意に、対して、逃げ腰、だと、周りの、人に、迷惑を、かけて、しまう、そんなの、嫌だ、ボクを、狙うやつ、が、いるなら、真正面から、ねじ伏せれる、くらい、強く・・・なりたい、と・・・思った、んです」



ユーは真っ直ぐにレンの目を見て言った、もっと強くなりたいと、全て跳ね除けれるくらい強くなりたいと。

その発言にレンはおかしくなって笑ってしまった。レンが思っているよりもユーは強く成長していた、これでは自分のしたことはありがた迷惑になるのではないか?とふと思ったが、別に問題はないだろう、嫌がられたらその場で白紙にすればいいだけだと心の中で自己完結した。



次の日から稽古は再開され、オグルには無手の格闘技も教えて欲しいと頼み込み、ヴァーナには近接戦闘に活かせる魔法の使い方はないかと質問攻めをした。

この日より、ユーは強くなるための躊躇を一切捨て、無我夢中で稽古をするようになった。新しいものは取り入れ吸収し、基礎を怠ることなく休みの日である土の日も個人で朝練をするようになった。

混合獣(キメラ)の身体なので体力は無尽蔵にあり、休みなく稽古をすることで常人を何倍もの速さで力をつけていった。稽古の中で力の強弱を身につけることに成功し、周りの環境に合わせて力を調節出来るようになった。

呪いの方はというと、誘拐事件から1ヶ月経った日にようやく解除された。呪いが解除されたことによって流暢に言葉を話すことが出来るようになり、詠唱が出来るようになった。魔法の方はようやくスタート地点に立てるようになったのだった。



呪いが解けた週の土の日に、レンはユーを連れて貴族領まで足を運んだ。その日の前日に養子手続きの話をすると、ユーはレンの優しさに耐え切れなくなり泣いてしまった。レンは養子になるのは嫌だという涙か!?と身構えたがユーから出る言葉は感謝の言葉であり、嬉しさのあまり泣いてしまったということでレンも嬉しかった。

貴族領の役所へ足を運ぶ際、ユーは周りの人からの山のような視線を浴びたが視線なんてなんのそのと言わんばかりに胸を張り、しっかりとした足取りでレンの後をついて行った。そして役所で手続きを済ませ、ユーはレンの養子となった。

ユーの中に娘としての感情が芽生えたのはそれから半年程経った後になるが、レンが帝国から王都に帰る日が来るまでの間、血は繋がっていないがちゃんと心で結ばれている親子の姿が出来ていた。



帝国に着いて1年半、レンが王都へ帰る日がやってきた。


「今日でこの研究所ともおさらばか、次は何年後になるかな?」

「おいおい、レンくん。新しい発見があったらすぐに来て欲しいくらいだよ。ではまた、会える日を楽しみにしているよ、元気でな」

「ええ、ディムさんもお元気で。

 ユーはこれからどうするんだ?」

「ボクは冒険者をやろうと思うよ、研究所に居座るのも悪いしオグル先生とヴァーナ先生の稽古はやりきったしね。1年半培った経験を生かして外の世界へ足を伸ばしてみたいんだー」

「そうか、寂しくなるな・・」

「ボクの容姿だと王都には近づきにくいからね・・、また王都から離れるようなことがあったら教えて?会いにいくから」

「そのときは冒険者ギルドにでも伝えておくよ、じゃあ行ってくるよ、気をつけるんだぞ」


レンはそう言い残し帝国を後にした、その後ろ姿をユーは見えなくなるまで見つめていた。



「行ってらっしゃい、お父さん・・・」



ユー・スィール、独り立ちの瞬間であった――――


レンとユーが森で出会って帝国で別れるまで2年の歳月が経ってます。

途中の稽古の話はまた、回想などで挟んでいきたいなーと思っています。

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