第16話 スキル構成の確認や変更ってどうやるんだろう
「でも、スキル構成の確認や変更ってどうやるんだろう」
紙に書いて一覧を視覚化する事は出来ても、自分が今どういうスキル構成になっているのかを確認する手立ては無かった。
服を脱いだ時に魔力の高まりを感じるのだから、『鋼の筋肉』はセットされていそうだと思う。
「それと……魂の咆哮も、かな」
倉庫に誘拐された時の事だ。その中でユーリは無我夢中で叫んだ場面がある。その時に感じた魔力の高まりと倦怠感。あれはきっと、魂の咆哮を発動させようとして、『上半身未装備』の条件が揃っていなかったからうまく発動できなかった。
しかしその後服を脱がされ、条件が揃って効果を発揮したのではないだろうか。
「となると、少なくとも俺のレベルは8以上って事になるのか? それとも、生前にセットしていたスキルがそのまま適用? それとも……」
確かに生前のスキル構成は、上半身裸で強くなる『鋼の筋肉(1)』、扉などを壊せる『破壊の衝動(2)』、そして上半身裸の場合に使用すればとんでもないバフのかかる『魂の咆哮(7)』の構成だった。
それがそのまま適用されているという可能性が非常に高いのだが。
様々な可能性がある。しかし検証するにしても、大体は咆哮系のスキルであるし、自室でやるのは少し躊躇われる。
「今度どこかで検証はしなきゃだなあ。まさか、全部のスキルが使えるって事は……流石にないよな」
あり得ないとは思うが、そうならありがたいとは思いつつ、スキルについてはそれで考察を終える。
次に考えるべきは、武器防具などの装備である。
幸いな事に、バーバリアンである以上、上等な鎧は必要ない。
ただし、武器については斧を使う事を前提としたスキル一覧となるため、斧を手に入れる必要はありそうだ。
まあ、他のジョブでは武器を装備しない場合にメリットなど存在しないが、唯一バーバリアンのみ、装備無しで強化される『拳の心得』というスキルがあるにはある。
しかしこれは、攻撃スピードが上がるというレア効果のあるスキルとなっている反面、武器を装備しない事による火力不足が深刻過ぎて実用的ではないというものである。
やはり、現実的に考えれば斧を手に入れる事が必要だと思うのだが、この世界独特の理由で少々面倒な事にはなりそうだった。
斧を手に入れる事自体は可能だろう。寧ろこの世界の兵士は原則的に斧を好んで使う。
「貴族は剣、なんだよなあ」
そう、貴族は剣を使う事が通例だった。
斧で戦う事を禁じられている訳ではないが、この世界では貴族が剣と魔法以外で戦う事に対して、良い印象を持っていないらしい。
曰く、貴族らしくない。という事らしい。
モウガンとうまくやっていきたいと、今日改めて思ったユーリとしては、ここでまた貴族らしからぬ事を言い出すのは良くないかもしれないと思ったのだ。
「ま、いっか、とりま後にしよう」
そう呟いて、今は考えないようにする。
考えても分からない事は、考えるだけ無駄なのだ。だから、もうそうなればいっそ忘れてしまった方がいい。
考える事を放り投げたユーリは、そのままベッドに体も放り投げる。
そして、昨日までとは違って光りを感じる心に、気分を良くして掌を見つめた。
「そうか。俺、そうなんだよ。バーバリアンなんだ。あれこれ考えたってしょうがないじゃん。めんどくさい事は全部ぶん殴って解決すればいいんだよ。実際、モウガンとだって殴って解決したじゃないか」
幾分極論ではある。それに、モウガンの件も別段殴りかかったからうまくいったという訳でもないだろう。
それでもユーリは、前に進みたかった。ここで立ち止まるなんて御免だった。
だから、無理やりにでも心を明るくして、笑おうと思った。
○○○
翌朝。
ハーシェル家の廊下を元気よく歩くユーリが、モウガンの姿を見つけた時に、それは始まった。
「モウガン! 治安を良くしよう!」
「……おはようございます。ユーリ様」
「おはよう! ところで治安を良くしよう!」
「……今日はいい天気ですな」
「そうだね! だから治安を良くしよう!」
「……」
ついに押し黙ってしまったモウガン。
何かに耐えるように、いや、何かと戦うように身を震わせ、そしてその何かとの戦いに勝ったのだろう。観念してユーリの言葉に反応する。
「治安とは、どういう事ですかな?」
モウガンの内なる戦いは辛勝だったのだろう。朝だというのにその声には、既に労働を終えた後のような疲労感が感じられた。
しかし、そんな事に気付くユーリではない。
「この前、町を歩いていて思ったんだ。治安を守る為に巡回警備する人間が一人もいないって」
「それはそうでしょうな。領民も忙しいので」
「なんで領民? 治安を守るのは領主の仕事じゃないの?」
モウガンは変な顔になった。
顔にタイトルをつけるとしたら、「何を言ってるんだ」だろうか。
「治安を良くする意味でも、土地を豊かにするのは領主の仕事です。後は、裏から手を回して悪人を排除したり、厄介ものに制裁をするという事もありますが、直接的に治安を守るという事でしたら、それは領民自身が行うものです」
「え? じゃあ犯罪者とかが出たらどうするの?」
「領民が捕まえます。彼らも自警団を組織していますからな。それを治安官が引き取って裁判を行います。まあ、大きな都市であれば教会の私兵である騎士団が治安維持に貢献していたり、領主側も傭兵を巡回させたりしているという話ですが、我々にはあまり関係ないでしょう」
価値観の違い。文化の違い。それは相当に厄介なものだと、ユーリは改めて認識した。
この話だと、余程大きな町でない限り、普通の町や村での治安は自浄作用に頼っているという事になる。
村で起きた事は村で解決しなさい。ただし裁くという部分では同じ立場の人間では難しいから、貴族が行う。
やや放任主義だが、確かにそれはそれで正しいような気もする。寧ろそれを聞いた今では、前世が過度な管理を敷いていたように感じなくもない。
ただそれは、貴族にとって領民の暮らす場所の治安を、他人事として扱っているように感じるのである。
もっとお互いに寄り添って、協力し合う事はできないだろうか。
領民だけで行うのではなく、かといって貴族だけが一方的に行うでなく。
ただただ、犯罪で泣く人を減らす為に。例えば、ハリーのような人間をこれ以上増やさないように。
それには犯罪に立ち向かう武力も必要だ。そして農業の傍らというよりも、専任で行ってもらう方がいい。
「ねえモウガン、そう言えばうちに兵隊って居るのかな。居たとしたら、普段なにしてるんだろう」
「わかりました。今日はそのお勉強をしましょう。部屋にまいりましょうか」
モウガンの提案を受け、二人は勉強部屋に移動した。
木造の落ち着いた部屋。本棚が並び、隙間なく本が並んでいる様は心地いい。
ユーリは別に本が好きという訳でもないのだが、それでも整理されている本を見ると、安心感がある。
そして、そんな落ち着いた場所でのユーリの第一声は。
「兵士がいない!?」
だった。
モウガンは頷く。
「正規兵という意味ではおりません。私兵という事でしたら、囲っているP.M.Cがあります。有事の際にはそこから傭兵団を雇います」
「P.M.Cって……あんまりいい印象ないなあ」
P.M.C、プライベート・ミリタリー・カンパニーの略である。民間軍事会社、つまるところ、傭兵を商品にしている会社という事だ。
前世でも殺伐とした世界観のFPSゲームなどでよくその名前を聞いたのだが、大体強い。ゲームのデザインとして、流石プロの傭兵だ、と思わせるような強さを持っている事が多かった記憶がある。
もっとも、この世界での傭兵はどんなものかはわからないのだが。
モウガンがぴっと人差し指を立て、会話を続ける。
「あとは、都市や村の防衛となれば、ストリートギャングも戦力を寄越してきます。彼らは犯罪を行う事もありますが、逆に自分たち以外の犯罪を抑止する行動をとります。何より自分たちの縄張りを守る意識が高いので、よそ者に侵略されるのを嫌がりますからな」
「それは意外だね、ギャングが犯罪を抑止する事もあるんだ?」
「自警団に武器を流しているのは殆どストリートギャングです。それに、窃盗や食い逃げ、大きなものでは暴動や殺人など、犯罪が起きた時に彼らは真っ先に動きます。勿論、そうなったら貴族はそのギャングに報奨金を幾ばくか支払う事にはなりますが」
「……なるほど」
「そういう意味でも、ギャングは市民にとって嫌われ役になっているのです。ギャングは市民にとって恐ろしい存在です。その存在がいるから、下手な事はできない。犯罪を犯すとギャングに何をされるかわからない。そしてギャング自身が行う犯罪に関しては、貴族が目を光らせていて、あまりにひどければ傭兵を使って制裁する。これが先程申しておりました、貴族が行っている治安維持、裏から手を回して悪人を排除、厄介者を制裁、という事でございます」
「……うーん、そうかぁ」
よく出来たシステムなのかもしれない。実際にそれで世界が回っているなら、それでいいのかもしれない。
けれど、暗い印象がある。恐怖だとか、畏怖だとか、そういう暗さだ。
治安を維持する上で暴力というか、武力というのは切っても切り離せない部分になってくるだろうとは思う。
だけれど、もっと、もっと、自分が関わる場所だけでも、みんなが笑って、みんなが参加できる明るい仕組みになって欲しいと願うのだ。
その考えが顔に出ていたのだろうか。モウガンがすっと目を細めて口を開く。
「ユーリ様。貴族主導で何か手を出そうとしておりますかな?」
「あ、いや、貴族主導って考えたわけじゃないけど、もっとこう、前向きで明るい治安維持の仕組みは無いかなあって」
一瞬の沈黙。ユーリの言い訳じみた言葉に、モウガンは何かを考え、諦めたように息を吐いた。
「どういう事を考えているのかわかりませんが、この件で貴族が責任を持って何かをするという仕組みはお辞めください」
「なんで?」
「批判の対象になるからです。例えば一人で何百人に匹敵するような圧倒的に強い個が存在するのですから、それが犯罪を行ったとして、取り押さえる事などできますまい。ギャングが失敗しても、ギャングの評判が落ちるだけですが、貴族が失敗したとなると信用に関わります。それ以外でも、今なら治安が悪いのは領民自身のせいで、治安が良くなるように貴族は手を貸しているというスタンスですが、貴族が管理するとなると話がかわります。領民が治安を悪くすれば、それは貴族のせいだと批判する材料になってしまうのですぞ? そういった事も踏まえてお考え下さい」
「う……ん。わかった、ちょっと待って」
ユーリは顎に手を当てて考える。
あまり熟考する事は得意ではないのだが、それでもきっと、前世という異なる視点があるからこそ出せる答えがあるかもしれない。
ハリーなら、どういう事を考えるだろうか。
(そういえば、兄さんは自分が優秀なのに、誰かに頼むのが上手かった気がする。自分がやった方が早い事でも、誰かに頼んでたな。俺にも代官を頼むっていつも言ってくれてたし、誰かを巻き込むのが上手かった)
「そうだ、冒険者っているの?」
「おります。それがどうかしたのですかな?」
冒険者。それは数々の物語で登場する、主役の活躍する場所である。
ダークファンタジーなどでは汚い仕事などもやる事があるが、それは例外的というか、世界観に沿う在り方であって、その他の物語では基本的に良い組織として描かれる事が多い。
ゲームの中でも人助けのクエストなどを中心に取り扱っており、善か悪かで言うと、善だと思う。
「よし! 今日は冒険者に会いに行こう! 案内してくれ、モウガン!」




