第12話 最初から全力で行くよ!
ユーリ・ハーシェルは、自分でもなぜこうなったのか分かっていなかった。
気付けば、服を脱いでいたと言ってもいい。いや、それはそれで意味が分からない事ではあるのだが。
かねてより、モウガンとは腹を割って話しをしたいと思っていた。
それは救いを求める行為に近かったのかもしれない。なにせ、前世とこの世界では、価値観が違い過ぎるのだ。
といって、根本的な所は似ている気もするし、よくわからない。
例えば前世で良い貴族といえば、庶民的で気さくだとか、困っている民が居るなら真剣に向き合うだとか、何となくイメージとしては、民の前でふんぞり返るんじゃなくて、膝をついて目線を合わせる感じが良い貴族なのだろうと思っていた。
けれど、実際にそれを語ると怒られるのである。優しい両親ですら顔を顰める程だ。
ふんぞり返る理由があるならふんぞり返る事も必要ですよ、と母のオリビアに言われたが、人生でふんぞり返る事が必要な時などあるのだろうかと疑問に思うのだ。
よくわからない事ばかりだ。実力主義の帝国では血筋を重視しないので、貴族と言っても成り上がりも多らしいが、それでも由緒ある貴族や、隣国である王国の貴族は神の血筋だとか、ドラゴンの血筋だとからしい。設定がまるで洋ゲーだ。同じ人間で、同じものが見えていると思うのに、文化的な価値観が違い過ぎて所々共感できない。
それにユーリだってふざけて生きている訳ではなかった。
周りから見れば足りないと思われるかもしれないが、これでも将来を見据えて懸命に生きているつもりだし、文句があるなら言って欲しかった。
言ってくれればちゃんと出来るかもしれないのに、勝手に諦めて、勝手に怒って、勝手に話を進めようとする。
今回のモウガンだって、話をしに来たと言っていたが、一方的に要望を伝えて、それを飲むにせよ飲まないにせよ、勝手に対策を立てて進めようという魂胆が見え隠れしていた。
ユーリは、そうやって自分の人生なのに、自分を無視して進められる事に苛立ってはいたのだ。
だからこそ、今、裸になっている。
いや、それと裸になっている事は繋がっていないのかもしれないという思いはあるが。
ともあれ、吐いた唾を飲み込まないように、脱いだ服も着るつもりはなかった。
(そう言えば、やっぱりモウガンは俺の事馬鹿だと思ってたんだな……)
先程のモウガンに、結構はっきりと馬鹿だと言われてしまった。その事実に憤りもあるが、悲しい気分にもなる。
憤るのは分かる。馬鹿だと言われているのだから当然だ。じゃあ何故悲しいのかと言われると、どうしてなのだろうか。
それはきっと、自分がこれでも頑張って生きてきた事を理解してくれていなかった、それが事実として浮き彫りになったからかもしれなかった。
そう考えると、悲しみで寒々しい色だった心が、オレンジから赤色に変わっていく。
ユーリは、前世の対戦格闘ゲームで見た構えをとって口を開く。
「最初から全力で行くよ!」
だが、モウガンは構える事すらしない。睨みつけるような目をしてはいるが、背をピンと伸ばし、まるでどこからでもかかってこいと言わんばかりだ。
その態度が、ユーリには腹立たしい。
もっとこちらと同じ目線で居て欲しい。こちらが熱くなったなら、同じく熱くなって欲しい。
欲を言えば、対立するんじゃなくて、傍にいて一緒に進んで欲しい。
後ろでも前でもなくて、横に居て欲しい。
そんな仲間が、ユーリは欲しかった。
世話役にそれを望むのはお門違いなのだとわかっていても、それでも、そう思ってしまうくらいに、疎外感と共に生きてきたのである。
その思いは、言葉になった。
「もっとさ! もっと俺の事をちゃんと相手してくれよ! 勝手に諦めてさあ! こっちだってしんどいんだよ! 兄さんの事とか、俺のせいなんじゃないかって思うと苦しくて! でもエマに会うとそんな事で苦しんでる顔を見せちゃいけないって思って! 誰も味方いないじゃん! モウガンくらいはさあ! 味方で居てくれよ!」
ユーリの生の感情を受けたモウガンは、今まで見た事がないくらいに顔を歪める。
「はっ! それがお望みか!? 舐めてんじゃねえぞクソガキ! 味方が欲しいなら勝手に作れ! それとも何か? 馬鹿なクソガキにただ味方する、滑稽な人形が欲しいのか!? 誰が与えてくれるんだそんなもん! いいか! 人間は意思ある存在だ! てめえのもんじゃねえ! それに味方ってのはお前が勝手に決める色分けでしかねえ! 誰もお前の為に生きてねえんだよ! みんな自分の為に生きてんだ! 味方っていう存在を問答無用で信用できる人形みたいに考えてるだろ! 人間をなめんな!」
「……っな、なんだよ! 味方じゃなくて……仲間だよ! 仲間が欲しいの!」
「じゃあ作れよ! クソガキ! 金でも示せばすぐ集まるだろ!」
「お金じゃなくてさあ! 心! 心で集めたいの!」
「お前、本当に馬鹿だな! 何で集まったかは重要だろ! 心で集まった奴らは、心で離れるし、心で裏切ったって文句言えねえだろ! そんな不確かな存在集めても、いざって時に心変わりしましたって言われたらどうやってそれを止めるんだ!?」
「それは……説得とか!」
「金なら金を与えりゃそれで解決なんだよ! 金って言うから忌避感があるのか? お前は昔からそうだが、なんでだ。この国で金に忌避感覚える奴なんかいないぞ。金が嫌なら夢でもなんでも構わない。心みたいなコロコロ変わるもんじゃなくて、不動の何かで集めろつってんだ!」
「……目的とかって事?」
「一定の期間で考えるなら、それでいいだろうな」
「なるほど」
「……」
ユーリの心に、今、ストンと何かが落ちた気がする。
もっと優しく教えて欲しかったが、やはりモウガンの知見は得難いものだと実感した瞬間だった。
しかし。
「それはそれとして」
途中からユーリは、顎に手を当ててモウガンの言葉を咀嚼していたのだが、足に力を入れ直した。
そして。
「改めて……ぶん殴る!」
声と同時に、弾丸のようにモウガンに向かって駆け出した。




