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白兎と始めるアポカリプス世界冒険譚(闘神と仙術スキルを携えて)  作者: クラント


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8話 虫


 成り上がりは無理かもしれない。


 町に着いてからすでに4、5時間は経過している。


 まず、最初に得られた情報は『やはり言葉は通じる』ということ。


 俺に白兎をくれた男性や、死んでしまった老人だけではなく、

 街の人々が話している言葉は全て日本語。

 少しばかり意味の分からない単語が出てくるものの、内容そのものは理解できる。


 しかし、勇気をもって幾人かの通行人に話しかけてみたが、皆、舌打ちとともに追い払われたか、忙しいからと会話を拒否されただけだった。


 話しかけた人選を間違えていたのだろうか?

 もっと話しかける人数を増やせば、そのうち親切な人に出会えるかもしれない。


 だが、すでに自分の心は折れてしまっており、それ以上の聞き込み継続は精神的に難しい。


 あきらかに外国人っぽい人に話しかけるのは、たとえ言葉が通じるとしても、プレッシャーが大きい。

 すでに精神力の残量はゼロに近い。


 話しかけるのを諦めて、周りの人間の行動を観察することにした。

 交通量の多い辺りをうろつき、会話に耳を傾け、分かったことがいくつかある。




『マテリアル』

 どうやらお金の単位らしい。

 支払いの際に買い手が革袋から取り出したのは、1cmくらいの黒いサイコロのような物体だった。

 それをジャラジャラと店に備え付けの皿に入れて支払いをしていた。

 また、カード払いもあるようだ。電子マネー支払いのようにカードを店先の機械に押し当てて支払いをしていた場面を見ることができた。




『機械種』

 どうやら辺りにいるロボット全般を『機械種』と呼んでいる様子。

 あの男性も白兎のことを『機械種ラビット』と言っていた。

 つまり、この異世界でのロボットの総称なのであろう。

 いくつも種類があるようで、耳に入ってくる種類だけでも「ワーカー」、「ソルジャー」、「ナイト」、「ウルフ」、「インセクト」、「メイド」等があるらしいことが分かった。


 また、この町で動いているロボット=機械種は、白兎と同じように、全て目に当たる部分が青く光っていることに気が付く。

 あの敵対したメカ熊(この世界では機械種グリズリーとでもいうのだろうか?)の目が赤く光っていたこととは対照的だ。

 また、ボディに当たる部分も血が混じったような赤黒い色をしたものは一体もいない。


 「敵対する機械種」=赤く光る目、赤黒いボディ

 「味方である機械種」=青く光る目、赤黒いボディ以外の色


 という分かりやすい法則でもあるのだろうか?




『ブロック』

 この町では食料品のことを「ブロック」というらしい。

 これも色々種類があるようで、「シリアルブロック」、「ミートブロック」、「ビーンズブロック」等が売られており、購入した人が文字通りブロック状の固形食をそのまま齧っている姿をよく見かけた。


 ミートブロックってなんか旨そうだな。


 1日半全く食事をしていない中、普通は感じるはずの強烈な空腹感はないが、お腹のあたりがやや物足りないと訴えてきている気がする。


 まあ、無一文だから何一つ買えないのだけれど。




『車』

 元の世界でよくみる形状の車が往来を行き来している。

 それほど数が多い訳ではないようだが、1時間のうちに2,3台は走っているところを見ることができた。


 車種は軽トラックが一番多く、次に装甲車。

 中型のコンテナを積んだトラックもあった。

 また、1台だけ、明らかに高級車っぽい車を見かけた。

 元の世界でいう大型のミニバンで思わず「ア○ファード」を連想しまった。

 黒塗り+スモークガラスがいかにも近づきたくない印象を与える。

 さらにボディに銃口のようなものがいくつも張り出しており、絶対にこの車をあおる奴はいないだろうなと思った。




『文字』

 一応、文字を読めることが確認できた。

 店先の看板に書いてあるメニューも読むことができる。

 なぜなら書いてある文字も日本語だから。


 これについては理解不能。

 先ほどの「マテリアル」や、「ソルジャー」、「ブロック」等の単語は元々英語のはずだ。

 それがカタカナで日本語と混じって文字として書かれてある。

 どういう理屈なのだろう?


 これについてしばらく考えてみたが、「過去、日本人が転移して広めた」、「実は日本で作られたゲームの世界に入り込んでいる」くらいしか思いつかなかった。


 まあ、自分にとって不利なことではないので、これ以上考えることはやめておこう。




 以上、会話を拾ったり、周りを観察して分かったのはこれだけだ。



 ネット小説では序盤に親切な人と友好的な接触をすることで、元の世界とのギャップを早期に埋める展開が多かったように思う。


 しかし、この街ではそのような人と出会うことができなかった。

 この世界が周りの人に親切にするだけの余裕がないのか、それとも今の自分の服装に問題があり、不審者と思われて敬遠されているのか。


 あの男性を助けられなかったことが今更に悔やまれる。

 もし、あの男性が生きていれば、俺に恩を感じてくれていただろうから、色々と支援してくれていたはずなのだ。

 もうどうしようもないことだけど。






 すでに日は暮れかけており、本来であれば今日の寝床を探さないといけない時間帯。


 でも金はない。

 だから野宿しかない。

 さあ、どこで野宿しよう?


 すでに丸一日寝ていないが、徹夜による疲労はあまり感じていない。

 あの時のような立ち眩みも起こっていないから、あの原因は寝不足ではなかったのであろう。


 しかし、疲労が少ないからといって、寝ないというわけにはいかない。

 『闘神』スキルによってそのあたりの耐久力が上がっているかもしれないが、疲労は溜まっていくものだ。

 特に睡眠不足による判断力の低下は防ぎたい。


 この人通りの多い辺りはやめておいた方が良いだろう。

 あの治安の良い日本でも、夜中の繁華街で寝っ転がっている酔っ払いが盗難等の被害に遭うことだってある。


 この町に入ったところにあったあの廃墟辺りなら人は少なそうだし、探せば寝床になる建物もあるだろう。

 白兎にもう一度見張りをしてもらって、夜はぐっすり寝ることにしよう。




 白兎と合流する為に、元来た方向へ足を向ける。

 20分も歩けばあの廃墟にたどり着くはずだ。


 進んでいけばいくほど人通りが少なくなる。

 人の流れは自分とは逆方向に動いているようだ。

 人とすれ違う度、なぜか自分を見て怪訝な表情をされることが多いのが気にかかるが。

 


「あの坊主、こんなに時間に街の外に出たら虫に食われるぞ」



 誰かがボソっと言った言葉が耳に入る。


 

 虫がいるのか? 全く見かけないのに。

 夜になったら沸いてでてくるのだろうか。

 いやだなあ……噛まれるのは。

 虫除けやかゆみ止めなんか無いし。


 

 

 若干の不安を覚えつつも街から出る。


 そして、廃墟へと戻り、白兎を呼ぶ。

 すると、すぐさま白兎が近くの地面からモグラのようにピョコンと顔を出した。



「地面の中に潜っていたのか? それなら誰にも見つからないな」



 嬉しそうに俺へと駆け寄ってくる白兎。

 軽く頭を撫でてから、手で機体についた土を払ってあげる。



「今日の所はこれでお終い。寝床を探すぞ」



 白兎を連れて、手ごろな建物を探す。

 辺りは無人で人っ子一人の気配すらない。


 夜が近づいてきていることから、だんだん暗さが増してきている。

 早めに見つけないと、真夜中の廃墟を彷徨うことになりそう。



 とりあえず屋根と壁があればいいか。

 あと、できれば布団の代わりになりそうなものを探そう。



 しばらく散策し、白兎がテントの残骸らしき布を発見。

 また、少しは夜露をしのげそうな小屋を見つけた。


 扉がなかったので、転がっていた板を何枚か重ねて扉代わりにする。


 小屋の中は襤褸切れや瓦礫が少し散乱していたので、寝床のスペース分だけ確保するために簡単に掃除。

 白兎と一緒になって、瓦礫を撤去し、散らばるゴミを片付ける。


 テントの残骸をマット代わりに敷き詰め、パーカーを脱いで、タオルケット代わり。

 

 ちょっとしたサバイバルキャンプな気分。

 今がそんなに寒く無くてよかった。



「じゃあ、見張りは頼んだぞ」



 白兎を出入口へと配置。

 ウサギだけあって、耳が良いだろうから、見張り役には最適であろう。



「よっこらせ……」



 横になって天井を見上げる。

 天井には穴が開いており、夜空に輝く星明りが垣間見える。



 森の中では星を眺める余裕もなかった。

 当然、異世界だけに星々の配置は異なるだろうけど、どこか懐かしいモノを感じてしまう。

 

 

 まるで、今、この瞬間だけ、元の世界に戻ってきたような……

 

 

 だけど、そんなことはあり得ない。

 ここは、地球でもなく、日本でもなく、異世界なのだ。

 なぜか言語も文字も日本語だけど、ロボットがあちこちにいるSF世界……

 いや、この廃墟の様子を見れば、アポカリプス世界のようにも思えてくる。



 ゆっくりと目を閉じて、これからのことを考える。



 俺はこの世界でやっていけるのだろうか?

 『闘神』と『仙術』スキルがあるといっても、本当に役に立つのであろうか?

 

 ああ、そう言えば、スキルの確認もやらなければ………

 どうすれば「仙術」が発動するのだろうか?


 明日はもっと町を見回ろう。

 何かしら出会いがあるかもしれない。

 見知らぬ人に話しかけるのは苦手だけど、もっと積極的に立ち回らなくては。


 あのロボット……機械種を手に入れるにはどうすれば良いのだろうか?

 白兎にやったように目を合わせて『白の契約云々……』を唱えたら、仲間にすることができるのだろうか?



 取り留めもなく、疑問や課題が浮かんでは消えていく。

 しかし、そのうち、だんだんと思考が曖昧になり、眠気が襲ってくるようになる。

 

 やはり疲れていたのだろう。

 しばらくすると、自然と意識が薄くなり、深い眠りへと沈んでいった。







 バタバタッ!!



 何やら騒ぐ音が聞こえる。



 バタンッ! バタンッ!



 うるさいなあ。気持ちよく眠っているのに……



 ピョンッ! ピョンッ!



 んん? これって、もしかして………



「…………白兎か? もう朝なのか……」



 目を開けて、体を起こす。

 どうやら白兎に起こされた様子。


 しかし、朝には程遠く、まだ時間帯は夜。辺りは真っ暗。

 だが、俺の目は暗視機能がついているらしく、

 昼と変わらない視界が確保できる……



「うわ!! なんだ、こいつら!」



 目に入った光景に、俺の眠気は吹っ飛んだ。

 辺りを見渡せば、5cm~10cm程度の小さな虫が壁や窓、扉の隙間から這い出てきている。


 その数、数十……

 今尚部屋を埋め尽くさんばかりに増え続け、そのうち百を超えそうな数に……



「ひいいいいいいいいいぃぃぃっ!!!」



 恐怖のあまり悲鳴をあげる。

 起きたら部屋中に虫が溢れていたなんて恐怖以外の何物でもあるまい。



 ビシッ! バシッ!



 白兎が這い出てくる虫を前脚で叩き潰しているようだが焼け石に水。

 どれだけ潰しても部屋に入り込んでくる虫の方が多い。



「コ、コイツ等も、ロボットか? 虫型ロボットかよ!!」



 白兎に潰された虫の残骸を見ればそれは明らか。

 金属製の破片や細かいネジ、極小の部品が辺りに散らばる。


 この世界の言葉で言うなら、『機械種インセクト』とでも呼ばれているのだろうか?

 これが普通の虫なら皮膚を噛まれるぐらいだろうが、

 金属製の歯や爪を持つなら、肉や骨ごと齧られてもおかしくはない。




「だ、駄目だ! 白兎、外に出よう!」



 こんな虫に塗れた部屋になんていられない。

 深く考えず、恐怖に背中を押されながら、白兎と共に外へと飛び出すと………




 外には虫の集団が飛び交っていた。

 もう数百・数千とかのレベルではない。


 見渡す限りの虫があちこちで飛び回っている。

 少なく見ても数万匹以上であろう。


 一体どこから湧いてきたのか?

 昼の間は姿を見せなかったくせに、夜だけ湧いて出るとは……


 まあ、虫の習性と言われたら納得するしかないのだけれど。



「もしかして、『外に出たら虫に……』というのは、このことか?」



 単に虫に噛まれるくらいを想像していたが、あの大群に襲われたら命に係わる。

 あの全てが金属製の虫型ロボットなら俺の柔い肉体など数分のうちに挽肉にされそう。



「白兎! 逃げるぞ!」



 せっかく異世界転移したというのに、虫に食われてバッドエンドは御免。

 『外に出たら虫に……』であるなら、街に戻れば何とかなる可能性が高い。



「街へ戻ろう!」



 ダッ!



 白兎へと声をかけてから走り出す。

 おそらく街の方……、遠目に明かりが見える方向へとダッシュ。



 タタッ!



 俺が走り出せば白兎も追走。

 俺の後ろから白兎の軽快な足音が聞こえてくる。



 だが、虫が飛び交い視界が悪いこともあって全速力というわけにはいかない。

 走る地面は凸凹しており、足元が見えにくく、下手をすればすっ転びそうになる。



 また、虫達が俺達を散発的に襲い、街への帰還を妨害。

 服やズボンにビシバシと体当たり。

 むき出しとなる顔や髪にもへばりつこうとしてくる。



「クソッ! うっとおしい!」



 必死に手で払い除け、顔や髪に引っ付く虫達を引きはがす。

 

 虫自体の強度は感覚的に薄いプラスチック以下。

 元の世界の昆虫程度の固さしかない。

 少し力を入れただけで俺の手の中でボロボロと崩れ去るくらい。


 しかし、それでも、この数は脅威。

 プラスチックだって先を尖らせれば怪我だってする。

 極小の虫だって噛まれたら血が出るのだ。

 油断をすれば、皮膚を裂かれ、肉を削られるかもしれない。

 

 幸いにもまだ牙や爪を突き立てられたような痛みは無い。

 あちこちに虫達がへばりつく感触があるだけ。


 だが、それもこのままでは時間の問題。

 それまでに街に辿り着かなくては………




「あともう少しで街に………」



 街の明かりを目指して走り続ける俺と白兎。

 足場の悪い中、必死で生を掴むために足を動かす。



 しかし、そんな俺達をあざ笑うように、

 辺りを飛び交う虫達の数がドンドンと増え始め………




「うあわっ!」




 思わず足を止めて立ち止まる。


 突如、街への帰途を妨げるように、虫の大群が集結。

 今にも俺達を飲み込まんばかりの黒い津波と化して、俺たちの前に立ち塞がった。



 まるで黒い壁のよう。

 一体何千万、何億の虫が集まれば、このような高さと厚みになるのだろうか。

 完全に視線が遮られ、向こうを見通すことは不可能。

 高さは10メートルを超え、俺達を囲むように左右に展開。


 そして、俺と白兎を包み込むかのごとくジワリジワリと迫りくる………




「そ、そんな………、後ろも!」




 後ろを振り返れば、同じような虫達が集まった黒い壁が形成。

 俺たちの退路を断つように聳え立つ。


 完全に囲まれてしまった様子。

 もう逃げる場所などどこにもない。


 一匹一匹は脆い虫でも、あれだけの数に襲われたら骨も残るまい。

 辺り一帯に飛び交う虫達は、数えることが馬鹿馬鹿しくなるくらいの数。


 あともう少しで街に辿り着くというのに。

 進むことも引くこともできず、

 ただ、迫りくる虫の大群に怯えることしかできなくなった。




「こ、こんな所で終わりなのか? 俺の物語は………」




 身近に迫った死の恐怖に足がガクガク震える。

 今にも倒れ込み泣き出したくなるくらいの悲壮感が溢れ出す。


 これからワクワクするような冒険をするはずだったのに。

 これからモテモテでハッピーな異世界生活をするはずだったのに。


 こんな廃墟で虫に食われて死亡。

 物語としては最悪な形のバッドエンド。



 なんで?

 どうして?


 何が悪かった?

 街の外に出たのが駄目だったのか?


 だったら、きちんと事前に説明してくれ!

 街に着いたら親切な説明キャラを出せよ!



 心の中でどこの誰かもわからない相手へとクレームを申し立てる。


 だが、今更何を言ってもどうしようもない。

 この場に救助の手が訪れない限り、俺の命はここまでだ。


 これがハッピーエンドを前提とした物語なら、主人公の危機に対して唐突に誰かが助けに入ってくれる所だろうが、残念ながらこれは現実。

 

 今まで生きてきて、そんな都合の良い展開になった試しがない。

 俺の人生はここで虫に食われて終了するのは避けられない模様。




「ああ………、ああ………」




 絶望のあまり呻き声しか出ない。

 相手が知性のある存在なら命乞いをしただろうが、知性の欠片もありそうにない虫相手だとどうすることもできない。


 虫達の包囲網が徐々に狭くなっていく。

 まるで俺の恐怖を煽るように少しずつ。


 そして、俺は虫の大群に飲み込まれるその時まで、

 ただ、震えながら立ち尽くすしかできない………





 ピョンッ!!!





 そんな中、白兎が後ろ足で立ち上がり、

 俺を庇うように前に立った。


 主人である俺を守るために。

 耳をピンと立て、仁王立ちの構えで前方の虫の大群へと向かい合う。



「白兎?」



 思わず呼びかけると、白兎はチラリと一瞬こちらを振り返る。

 だが、すぐに前を向いて虫の大群と対峙する構えを見せた。


 よく見れば、白兎の機体は傷だらけだ。

 飛び交う虫達は俺の後を追走する白兎へと容赦なくその牙や爪を突き立ててきたらしい。


 見るからに満身創痍。

 勝てるはずもない物量。

 しかし、白兎は恐れる素振りすら見せず、

 絶対に適わない敵へと挑もうとしている

 

 俺の5分の1にも満たない小さな機体なのに。

 その身に秘める勇気は俺と比べ物にならないくらいに大きい。




 あんな小さな白兎が勇気を振り絞っているのに、

 その主人である俺が怯えたままで良いのか?



 白兎の雄姿に、俺に僅かばかり残る矜持が顔を覗かせる。

 恐怖が薄れ、冷静に何をすべきかと考える余裕が生まれる。



 今、俺がとるべき行動は何だ?

 今、俺ができることは何だ?



 俺は『闘神』スキルと『仙術』スキルを保有しているはず。

 『仙術』スキルについては、今もってその効力は不明だが、『闘神』スキルは俺の力を何倍にも強化してくれているのは間違いない。


 何せ三国志最強の呂布の武勇なのだ。

 並みいる雑兵を蹴散らす戦力があるはず。

 ならば、あの虫の壁くらい突破できるのではないだろうか?

 

 街まであと百メートルと少し……希望的観測だけど。

 そこまで走り抜けば、あの虫達も追ってこられない………はず。 



 であるなら、俺がすべきことは………



 悲観的な考えを廃し、僅かばかりの希望を拡大解釈。

 ベストを尽くすことだけを一念に、

 俺は生を掴むために足掻くことを決めた。





 ガバッ!!



 目の前の白兎を後ろから抱え上げる。



 ピコピコピコッ!


「いいから! じっとしてろ!」



 腕の中で耳をピコピコ、機体をよじって抜け出そうとする白兎へと一喝。

 ギュッと腕に力を籠め、絶対に離さないぞとアピール。

 さらに、着こむパーカーの前を開けて、白兎の全身を覆うように包み込む。



「白兎! お前のおかげで覚悟を決めることができた。だから後は俺が頑張るだけだ!」



 この場から抜け出すにしても白兎は一緒。

 

 この、可愛くて、強くて、健気で、

 俺が従属させて、まだ、たった一晩だけど、

 間違いなく、俺の仲間なのだ!


 確かに、この状況に至っては、俺が助かることだけを考えれば、白兎を抱えて逃げるメリットは薄い。

 むしろ、ここで白兎を置き去りに、囮にして逃げるのが最も賢い選択なのかもしれない。


 だが、ここで白兎を見捨てることなんてできない。


 見知らぬ人は見殺しにした俺だが、

 一度仲間にしたモノを………、たとえそれがロボットでも、

 わが身可愛さに見捨ててしまったら、俺は絶対に後悔する!


 もう闇墜ち一直線だ!


 こんな物語の序盤で仲間を失うなんて……

 それも、自分だけが助かるために……


 もう最悪であろう。

 自分で自分を許せなくなる。


 だから、俺は俺の為にリスクを承知で行動する!

 こんな虫達に俺の物語を終わらせられて溜まるか!!



 フードを目深に被り、無防備な顔をカバー。

 前は見えにくいが、真っすぐダッシュするだけなら何とかなる。


 パーカーの中に入れた白兎を胸の前で抱えながら、前傾態勢を取り、足に力を籠める。


 あの虫の大群に飛び込むという恐怖を無理やり押さえつけ、

 心の中で、わが身に宿っていると思われる『闘神』スキルへと呼びかける。



 頼むぞ! 『闘神』スキル!

 お前の力を見せてくれ!




「だあああああああっ!!!」




 喉が張り裂けんばかりの雄叫びを上げ、

俺は黒く蠢く虫の壁に向かって全速力で駈け出した。



 そして、虫達の壁に飛び込む間際、

 虫が入らないよう目や口を閉じ、

 左手でしっかりと白兎を抱きしめ、

 ただ、力一杯、壁をぶち破る勢いを以って、

 右の拳を思い切り前へと突き出す!



 次の瞬間…………



 俺が突き出した拳の先で何かが爆発。


 雷が落ちたような轟音が鳴り響き、

 俺の身体を中心に、暴風が吹き荒れたような衝撃が走る。

 

 まるで至近距離で爆弾が破裂したごとく。

 凄まじいエネルギーの奔流が辺りに撒き散らされたかのように。




 何だ?

 何が起こった?


 もしかして、虫の中に爆発物があったのか?

 そりゃあ、機械なのだから、そういった仕組みあってもおかしくないけど。



 突如起こった怪現象に一瞬、戸惑い。

 その原因について思考を巡らす。



 だが、爆弾にしては威力に乏しい。

 音は派手だが、俺の体が吹き飛ばされることも、衝撃で傷ついた様子もない。

 

 当たり前だが視界不良で周りの状況は分からない。

 かといってこの場でじっくり確認している余裕もない。


 そもそも立ち止まっている時間などない。

 今はこのまま走り抜けるしかないのだ。



 思わず足が止まりそうになるのをグッと堪えて走り続ける。

 白兎を抱え、ただひたすらに足を動かす。


 か細い希望を繋ぐため。

 俺と白兎の未来を紡ぐため。

 

 真っ暗闇の中を、全速力で駆け抜けて………





 躓いた。





「ぐえっ!」





 横倒しにひっくり返り、勢いのままゴロゴロと10メートル以上地面を転がる。

 



「く、くっそ………、あ! 白兎?」




 ピョンピョンッ!

 

 慌てて起き上がると、

 俺の目の前で白兎が跳ねていた。



 転んだ拍子に白兎を放り出してしまったものの、

 白兎は器用に空中で態勢を整え、無事着地した模様。



「ここは………街か? 虫は?」



 辺りを見渡せば、外れではあるが街に辿り着いた様子。

 


「虫が………いない。そうか………、助かったのか………」



 周りに虫がいないことを確認。

 安全地帯に逃げ込むことができた模様。


 安堵のあまり、そのまま地面へと座り込み、



「どんな理屈なのかは知らないが、あの虫の大群もここまでは追って来られないようだな……………、あれ? 虫がいなくなった?」


 

 元来た道であろう方向を眺めてみれば、

 黒い津波のごとき虫の大群が、その数を著しく減らしていた。


 高さ10メートル以上にもなろうかという黒い虫の壁は消え失せ、夜の闇だけがそこに残っているような状態。



「え? 何で?」



 疑問を口にするが、当然ながら答えを返してくれる者などいない。

 


 未だそこそこの数が飛び交っているようだが、あれだけ凝縮された虫の壁が消え去ったのは腑に落ちない。


 明らかに億を超える大群だ。

 それがまるで夜の闇に溶けてしまったかのよういなくなった。



「もしかして、さっきの爆発で吹き飛んだ? でも、俺の身体に影響は無いし………」



 自分の拳をじっと見るも、全く傷ついた様子もない。

 あれだけの数の虫を吹き飛ばす威力なら、拳どころか俺の身体なんてボロ雑巾であろう。

 これも『闘神』スキルの効果だろうか?

 力が強くなるだけじゃなく、身体が頑丈になっているとか……



「本当に怪我をしていないのか?」



 念のため、顔や頭をペタペタと手で触り、

 身体をまさぐって、痛みが無いかどうかを確認したが、

火傷どころか、ひっかき傷一つ見当たらない………



「うわ……、服に虫の破片がめっちゃ付いてる……」



 身体をまさぐると、手の平に感じる尖った小枝のようなチクチクとした感触。

 服全体に虫の残骸がへばりついている模様。



「くそっ!」



 今更ながら虫への嫌悪感が湧いてくる。

 虫の残骸が服に着いたままなんて耐えられない。

 本当の虫ではないだけマシだが、それでもずっと虫塗れの状態は御免。


 服をパタパタと手で払い、それでも取れない残骸は指で抓んで取り除く。

 袖やフードにも手を伸ばして、へばりつく残骸をむしり取っていると、



「痛!」



 人差し指の先にチクッとした痛み。

 どうやら残骸のトゲトゲした部分を強く握り込んでしまったらしい。


 思わず痛みを感じた部分を覗き込めば、

 指の腹からみるみる血が滲んできているのが見える。

 


「こんなことで負傷かよ……」



 熊ロボとの戦場を潜り抜け、虫の大群を突破して、

 未だ怪我らしい怪我がなかったのに、こんなつまらないことで怪我。

 俺らしいと言えば俺らしいのだけれど。

 


「あ~、いてぇ~、マズったなあ……」



 こんな病院に通えるかどうかも分からない異世界で化膿でもしたら大変。

 消毒液があれば良いのだが、そんなの手持ちにあるはずもなく、

 とりあえず、血が滲んだ指先を口に含んで消毒。



 結構深く刺さったなあ。

 なかなか血が止まらないぞ。



 口に広がる血の味に、俺が顔を顰めていると、





「んん? 白兎、どうした?」



 俺の足元で白兎が何か言いたげに見上げてくる。

 その青い光を灯す目は、じっと俺の指先を注視しているようで……



「あ、俺が怪我をしたのが気になるのか? 大丈夫だぞ、ちょっと血が出ただけ」



 そっと血が滲む指を見せながら白兎へと近づけてみる。

 

 白兎は鼻を近づけフンフンと匂いを嗅ぐような仕草を見せた後、

 犬や猫がするように、ペロペロと血が滲む俺の指先の傷を舐め始めた。


 白兎の舌はゴム製のようで、くすぐったい感触が指に伝わる。

 白兎はロボットのはずなのに、こんな所は本当に動物らしい動作。



「ハハハハ、心配してくれたのか? ………あれ?」



 ふと感じた違和感。

 急に目の前の白兎の気配が変わったような感じ。



「んん?」



 目を凝らして見つめるも、白兎の外観自体に変化が見られるわけではない。



 俺の指を舐めるのを止め、白兎がじっと俺を見上げている。

 

 全長40cmくらいのウサギ型の機体。

 ロボットにしては決して大きいとは言えないサイズ。

 

 初めて会った時から特に変わることのない大きさではあるが、

 なぜか俺の目には急に白兎の存在感が増したように思えた。


 この世界の技術で作られ、金属で構成されたボディであるはずなのに、

 決して人の手では成し得ない不確かな要素が宿ったような気配が混じる。


 と言っても言語化できないくらいの僅かなモノ。

 俺の勘違いと言われたら納得する程度。



「う~ん………、まあ、いいか。白兎が可愛いことに変わりはないし……」



 しゃがみこんで白兎の頭を撫でてやる。

 

 すると、今度は白兎がくすぐったそうに目を細めた。

 耳をペタンと倒して、気持ち良さそうに大人しく撫でられるまま。


 そんな姿は昔触ったことのあるウサギの仕草を思い出させる。



「お前のおかげで助かった。これからも不甲斐ない俺を助けてくれよな」



 愛情を込めながら白兎の頭を撫で上げ、



「頼むぞ、白兎」



 万感の思いを込めてそう話しかける。


 すると、白兎は機体をブルッと震わせ、

 両目の青い光を一瞬、キラリと瞬かせる。


 白兎の気配がまたも変化したのを感じた。


 先ほど増した存在感………具体的な方向を持たなかった『ナニカ』に、

 一定の方向性が与えられ、しっかりと白兎に根付いたような………



「白兎?」



 唐突の連続した変化に、

 俺は戸惑いを隠せず、

 ただ白兎の名を口にすると、



 白兎は耳をピコピコと振るわせ、

 自信ありげに俺をまっすぐ見返し、

 後ろ脚で立ち上がりながら腕捲りするような仕草と共に、




 ピコピコッ!

『任せといて!』




 と、ウサギらしからぬポーズで力強く宣言。




 ………いや、白兎の声が聞こえたわけではないのだが、

 なぜか、俺の耳には白兎がそう言っているような気がした。



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