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白兎と始めるアポカリプス世界冒険譚(闘神と仙術スキルを携えて)  作者: クラント


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49話 勝負




「ヒロッ! 駄目だ!」



 ジュードが鋭い声で俺の名を呼ぶ。

 そして、なぜか血相を変えてアデットに向けて……、頭を下げた。



「アデット……、ごめん! ヒロも悪気があったわけじゃ無くて……」



 あれだけアデットの誘いをけんもほろろに断っていたジュード。

 しかし、この件に関しては、いきなり謝罪から入る。


 まるでアデットを怒らせるのを恐れているかのように。

 

 だが、元々、俺の顔やセンス云々を言ってきたのは向こうが先。

 こちらから謝罪するのもおかしな話ではないか?


 つい、そんな顔でジュードを見てしまう。



 そんな俺の内心を知ってか知らずか、

 アデットは冷静さを保ちながらジュードへと返事。



「ジュードさん。私が彼を許すかどうかは、彼の態度次第ですよ」



 突き放したような言葉を言い放った後、

 俺へと振り向き、冷たい目を向けてきた。



「ヒロ、と言いましたね」



 アデットが不敵な笑みを浮かべ、

 まるで出来の悪い生徒を指導するかのような口調で話す。



「見るからに凡俗で、物を知らぬ愚かな貴方にも分かるように説明してあげましょう」



 顔は笑顔だが、俺へと向けられる目は極寒とも言えるレベル。

 もはや俺を誅すべき害悪とでも捉えていそう。


 目に見えて分かるくらいの敵意を全身で発しつつ、

 上から目線で俺へと言いたいことを言ってくる。



「ここは街の法から外れた場所。力が全てと言っても良い無法の地。そんな所で格上に喧嘩を売るという行為が、どれほど危険なことか理解していますか?」


「格上………ねえ? それは何を基準にそう思うんだ? 会ったばっかりの奴に格下認定されたくはないね」



 丁寧に世間の常識を諭してくれているのは分かる。

 俺を馬鹿にしつつ、最低限の筋は通そうという意図も。


 ここで俺がアデットと争う意味はない。

 しかし、ここまで上から目線で一方的に言われたら、

 俺だって反抗心がムクムクと湧いてくる。



 顔じゃ負けているけど、腕っぷしなら………、

 俺には『闘神』スキルがあるんだぞ!

 お前なんかに負けるもんか!



 他力本願ながら、負けじと睨み返す俺に対し、

 アデットはより笑みを深くして言葉を続ける。



「ふむ………、これは教育が必要ですね。身の程を弁えないとスラムでは長生きできませんよ」


「お前には関係ないだろ」


「そうですか………、ちなみに先ほどの暴言、取り消すおつもりはありますか?」


「知るか」


「ほう? でしたら遠慮はいりませんね………」



 アデットが微笑みながら宣う。

 端正な顔に、どこか野獣が獲物を前に舌なめずりしているかのような、そんな凶暴さが浮かび上がる。


 物騒な気配を感じて俺も警戒態勢。

 いつでも戦闘に移れるよう、抱えた荷物を下ろして構えを取る。



 いつ争いが始まってもおかしくない鉄火場。


 しかし、そんな中に飛び込んでくるジュードの声。




「ヒロ! それ以上挑発するのは危険だ! そのアデットはこの街全体でも……」



 一触即発の状況に、ジュードが鋭い声で警告。

 思わず声の方向へと俺の注意が移った、次の瞬間………




 ゴツンッ!!!



 ふと、気が付いたときにはアデットの拳が、

 俺の頬へと叩き込まれていた。



 僅か1秒にも満たない視線の移動。

 そんな隙をついての真正面からの攻撃。


 俺とアデットの距離は、

 少なくとも5mは開いていたように思う。


 その距離を俺に覚られず、ほぼノータイムで詰めてきて、

 俺の顔面へとストレートで殴りつけてきた。


 恐るべきスピードと反射神経。

 移動ながら殴りつけるという行為は意外と難しい。

 しかも、目に止まらぬ速度となればさらに。

 血のにじむような訓練で培った技術と、

 生まれ持っての格闘センスがなくては不可能な所業。


 そんなスピードと技術が合わさった一撃。


 常人なら、見るも無残に血反吐を吐きながらぶっ飛ばされ、

 地面に転がり昏倒していたであろうが……



 だが、俺は『闘神』スキルを持つ人類最強。


 アデットの一撃も、頬に軽く拳を押し当てられた程度しか感じない。

 殴られた痛みどころか衝撃さえ皮膚一枚も越えられない。



「なっ!」



 小動もしない俺に驚き、

 素早い動作で滑るように後ろへと下がるアデット。

 


 そして、俺に打ち込んだ右拳を左手で抑えながら、

 俺を鋭い目で睨みつけ、憎々し気に言葉を叩きつけてくる。



「……………騙しましたね。貴方、やはり感応士でしょう?」


「またかよ! そんなの知らん!」


「嘘をおっしゃい。常人なら私の『錬き』が乗った拳を受けて、平然としていられませんよ。かといって、貴方は『強化人間(ブーステッダー)』でもなく、機械義肢を装備した『改造人間(サイボーグ)』でもない。防御系の『発掘品(アーティファクト)』が発動した様子も無く、その面相から『機人(マシノイド)』でもない。噂に聞く『赤能者(レッドキャップ)』ではないでしょうし……、まさか、こんな見るからに平凡で容姿に劣る人間が、超高位機種の『現象制御』による『加護』か、『虚数制御』の『呪痕』を受けているわけがない」



 いきなり異世界用語を連打するのは止めろ!

 絶対に一度では覚えきれないから!

 あと、俺を地味に貶してきたのは忘れないからな!




 という俺の心の叫びにも、アデットは気にする様子も無く(当たり前だが…)言葉を続ける。



「私の拳を防いだのは『念動防膜(サイコバリア)』と考えるのが一番自然です。どうですか? ぐうの音もでないでしょう?」


「だから知るか! 勝手に決めつけんな!」



 どうやらアデットはスイッチが入ると人の言うことを聞かなくなるタイプらしい。

 俺の抗議にも関わらず、アデットはその端正な顔にニヤリとした笑みを浮かべて、



「ですが、感応士の『念動防膜(サイコバリア)』と言えど、無敵ではありません。私が修める『錬き術』には、対感応士用の技もあるのですよ」


「いい加減にしろ! 人の言うこと素直に聞け!」


「フフフ……、久しぶりに強敵を前に、心が躍りますね」



 俺の言葉を完全無視。

 アデットは好戦的な顔を覗かせてやる気満々。



「やめろ! アデット! これ以上ヒロにつっかかるなら俺が相手だ!」



 ジュードが流石に見かねて割って入ろうとするも、



「ジュードさん! これは私と彼の勝負です! 手出しは無用に願いたい!」



 アデットは止まる様子を見せず、

 手出し無用とジュードに言い放ち、

 背後にいる仲間らしい大男に指示を飛ばす。



「マッソ! ジュードさんを抑えていなさい。ただし怪我はさせないように」


「はい」



 アデットの指示を受けて、前に出てくるマッソと呼ばれた大男。

 ジュードの前に立ち塞がり、先へと進ませないよう壁となる。


 ジュードも自身の背丈を頭1つ分以上上回る大男を相手に苦渋の表情。

 流石に俺の救援は無理だと分かる。



 どうやらアデットの望み通り、俺との一騎打ちになる模様。




「………これで貴方とは邪魔されずに勝負ができそうですね」


「別に俺はお前と勝負がしたいわけじゃないんだけど?」


「それはつれない。では、貴方のモチベーションが上がるよう、何か賭けますか?」


「賭けるって何を?」


「もし、私が勝ったら、私のチームに入ってもらいましょう。感応士は貴重ですからね」



 だから『感応士』では無いって言っているだろうが!



 と、心の中ではそう叫ぶも、

 どうせ今のコイツに何を言っても無駄だと口には出さず。



「では、俺が勝ったら?」


「ふむ? …………どうやら貴方の手持ちの武器は鉄パイプようだ。それはあまりに寂しいでしょう。代わりの武器を差し上げるというのはいかがですか?」


「代わりの武器って?」



 アデットにぶん殴られる前に、地面に置いた袋をチラリ。

 その中からはみ出る鉄パイプを一瞥しながら返事。




「私が昔使っていた伸縮性の短棒です。伸ばせば鉄鞭としても使えますよ。材質は黄靱銅6、蒼剛鉄3、絶錬鋼1の合金。たとえ重量級機械種と打ち合っても折れず曲がらずの一品です。売れば一財産になるでしょう」


「む………」



 なんかよくわからんけど、

 強くて凄そうな武器らしい。


 アデットのお古と言うのは気になるが、

 もし気に入らなくても、高く売れるというのだから、

 貰っておいて損は無いか………



 もうすでに勝ったような気分でいるが、

 決して俺が調子に乗っているわけではない。



 先ほどアデットにぶん殴られても無傷。

 これはアデットが俺の防御力を突破できなかった証。

 『闘神』スキルによって最強武将の戦闘力を持つに至った俺は人類最強。

 ただの恰好つけたがりのハンサム野郎に負けるわけがない。

 少しばかり武術を嗜んでいるようだが、呂布には勝てまい。



 何が『気』が乗った拳だ?

 気合いが乗ったくらいでパンチ力が上がったら世話はないぞ。


 

 結論。

 負けるはずの無い勝利確定、ドロップ率100%のイベント戦。

 リターンも十分なら挑まない手はない。



「いいぜ。その賭け、乗った」


「フフフフ………、貴方のその目、全く負けることを想定していない目ですね?」


「そうだよ、悪いか?」


「いえ………、私もそんな時期がありましたから………」



 俺の返事にアデットは少しばかり遠い目で答える。

 

 そして、不意に相好を崩し、優しい笑みを浮かべ、



「そういった少年の自惚れを正してあげるのも、年長者としての役目でしょう」



 まるで自分に言い聞かせるように独白。


 そう一人で結論を出すと同時に、

 

 両足を肩幅より少し広めに広げ、


 深く息を吸い込み、全身に力を漲らせるような動作を見せる。


 そして、俺を一際強く睨みつけ、



「行きますよ」



 ただ、一言呟いたと思ったら………




 アデットの身体が一瞬視界から消えた。




「え?」



 と、思ったら、俺の目の前にいた。

 まるで瞬間移動かと思うほどの速度。

 

 しかし、アデットの体勢を見るに、

 どうやら瞬時に地に伏すかと思う程の低い体勢で突っ込んできた様子。


 俺がアデットの顔に視界の焦点を当てていたが故に、

 素早い上下運動を捕らえられず、見逃してしまったのではないだろうか。


 あとは……、俺が瞬きした瞬間を狙われたとか?

 本当に、コイツ、達人だな。


 

 俺の思考は素早く回転するも、

 すでにアデットは攻撃体勢であり、回避は困難。

 その左手が俺の腹に当てられた状態。



「掌破『波濤』」



 アデットが短く技名らしきモノを呟いたと思ったら、



 ビシィィィィ!!!



 俺の腹に当てられたアデットの左手を中心に、

 辺りの空気をも揺るがす衝撃が発生。


 それと同時に俺の身体の表面をピリピリした振動が突き抜ける。

 まるで電気風呂に入ったかのような感触。




「どうですか? 直接衝撃を体に流された気分は?」




 アデットがこれで勝負は決まったとばかりに、

 余裕が感じられる声で尋ねてくる。




「息ができないでしょう? 体も動かない。これが『錬き術』を修めた者の力です。機械種の装甲すら貫き、感応士の『念動防膜(サイコバリア)』でも止められない」



 つらつらと自身の武を誇るアデット。

 その顔には勝ち誇ったような表情が浮かぶ。



「万物に宿る『き』を媒介とし、共鳴させて内部からダメージを与えます。人も機械種も等しく破壊する『波濤』………、もはや、立っているのがやっとでしょう。さあ、降参しなさい。そうすれば、すぐに治療してあげましょう………」


「いらねえ」


「え?」



 俺が短くきっぱりと断ると、

 アデットは一瞬呆けたような顔を見せる。


 俺が平然と返事をしたことに驚いたようだが………




「驚くのはこれからだぞ!」




 腹に当てられたアデットの左手をムンズッと掴み、


 そのまま投げ釣りするような勢いで、アデットの身体を壁の方向へとぶん投げた。




 ドカンッ!!




 砲弾のごとく壁に激突するアデットの身体。


 ガラガラと壁表面が崩れ去り、

 粉塵が舞い散り、砂煙が濛々と立ち込める。



「ありゃ? やり過ぎた……」



 割と勢い良く投げてしまった。

 一応、力を抜いていたつもりだが、

 どうみてもオーバーキル過ぎる惨状。


 良くて全身骨折。

 悪くて轢死体になったかも………



 殴りかかってきたのは向こうからだが、流石に殺すのはやり過ぎ。

 力加減をミスって死なせてしまうのは申し訳ないから、

 最悪、仙丹を使うことも考えてしまうが………




「アデット様! ………貴様! よくも!」




 アデットの仲間の一人、小柄な少年が怒りの形相で俺に向かってくる。


 黄土色の髪に、女の子にも見える可愛らしい顔。

 けれど今は眉を逆立て、その目に激しい敵意を漲らせている状態。


 首には長めのマフラー。

 ソレを走りながら解き、

 何を思ったか、まるで鞭のようにしならせ、

 俺に向かって投げつけてきた。



 投げられたマフラーはまるで生きているかのように動き、

 螺旋を描きながらスルスルと俺の身体に絡みつく。



「絞め殺せ! グルング!」



 少年がそう叫ぶと、マフラーは俺の首や胴体をギュッと強く締め付ける。

 

 だが、マフラーで人間を絞め殺すというのは少し無理がある。

 

 蛇のような動きで俺の身体に巻き付くが、

 その力は真綿で絞められている程度でしかない。



「何これ?」



 振りほどこうとマフラーを手で掴むと、

 掌から感じるその感触は決して布や綿ではなく、

 金属のように固い鱗で覆われた蛇のような………



「ぎゃあああ! 蛇だああああ!!」



 マフラーだと思っていた物体は、

 いつの間にか金属で構成された蛇へと変換。

 

 驚きのあまり叫び声をあげる俺。

 そして、身体に絡みつく蛇を力業で引き剥がし、



「ていっ!」



 地面へと投げ捨てた。



「ひいいっ! まだ、動いてるううう!」



 地面へと放り出された蛇の長さは2m近く。

 それがニョロニョロ動くのだから、気色の悪いことこの上ない。


 ヌラヌラと光る金属製の鱗。

 目に当たる部分は白兎と同じように青く光る。


 どうやらマフラーに擬態していたようだが、これも機械種である様子。

 あの少年が従属させているのであろう。




「グルングまで………、このっ!」




 少年が怒りの声と共に銃を引き抜く。


 投げつけたマフラー……蛇があっさり振り解かれ、

 今度は銃を以ってアデットの仇を討つつもりなのだろう。


 まるで女の子のように小柄で鍛えている風でもないが、

 その構えは素人目の俺が見ても堂に入ったもの。



「ちょ、ちょ、ちょ………、銃は勘弁!」



 銃を向けられ、流石の『闘神』の俺も慌ててしまう。


 銃で撃たれたら、最強武将の呂布だって危ない。

 人間はどれだけ鍛えても銃に勝てるようにできていないのだ。


 俺の手元に銃があれば、対抗できるかもしれないが、

 あいにく銃を入れた袋は少し離れた所に置きっぱなし。


 今から飛びついても、銃を撃たれる隙を作るだけ。

 身に纏った『仙衣』の防御力を信じて縮こまるしかない。




 しかし、その少年が構えた銃は、銃声を轟かせることなく、




「ピレ、お待ちなさい」


「アデット様!」




 その声は、壁に投げつけられ、重傷を負ったはずのアデットから。


 土埃の中から悠然と現れ、ピレの行動を掣肘。




「これはヒロさんと私の勝負事。手出しは許しません」


「しかし………」


「『魔弾の射手』の武名に関わります。貴方は引っ込んでいなさい」


「はい………」



 アデットに窘められ、ピレと呼ばれた少年は銃を仕舞い、

 気落ちした表情でスゴスゴと後ろに下がる。



 そして、改めて俺と向かい合うアデットであったが……



「この度の勝負、私の負けです」



 あっさりと負けを認め、



「先ほどまでの貴方を小馬鹿にするような発言、謝罪しましょう。申し訳ありません。貴方の実力を見抜けなかった、私の目を恥じるばかりです」



 なんと今までの非礼を詫びてくる始末。

 今までの俺へと態度は何だったんだ?と言いたい。



 まあ、俺の実力を認めたということだろう。


 このアデットと言う人間は、自身が取るに足らないと思う相手には酷く冷たいが、

 相手に相応の実力があるなら素直にソレを認め、受け入れる度量はあるらしい。



 しかし、あれだけの勢いで壁に叩きつけられたのに、

 目の前のアデットは全くの無傷であるように見える。


 少なくとも、目に見える範囲で怪我はしていない。

 おそらくはダンプカーに引かれた程度のダメージを負っても不思議ではないはずなのに………


 もしかして、ダメージを軽減するような装備を持っているとか?

 あの古臭いコートが、俺が着込む『仙衣』のような防御力を秘めているとか?


 原因は不明だが、アデットが特に怪我をしている様子が無いのは事実。

 足を引きずることも無く、こちらへとスタスタと歩いて近づいてくる。



「さて、ヒロさん。こちらが賭けの品になります。お受け取りを」


「え……、あ……、はい」



 アデットから差し出された品を受け取る。

 それは長さ30cm程度の金色に光る警棒。



 あれ? コイツ、今どこからコレを取り出した?


 アデットのコートのポケットからいきなり出てきたようにも見えた。

 

 しかし、ポケットに収まる長さでは無いのだが………



 手の中の警棒を見つめる。


 黄金色に輝くソレは、アデットの言うように、それなりの値打ち品あるように思える。

 持ち手部分を掴み、引っ張ればスルスルと伸びて倍以上の長さに。

 

 これ一本でロボット相手に立ち向かうには心許ないが、

 対人・護身用としては申し分なさそう。


 鉄パイプだけを武器に、ダンジョンに向かおうとしていた俺が言えることではないのだけれど。


 俺のメインウェポンは莫邪宝剣だが、あれはあまりに目立ちすぎる。

 人目を気にせず光の剣を振り回していたら、絶対に厄介事を引き寄せてしまう。


 だが、この警棒であれば、そこまで目立つことはない。

 普段使いするにはもってこいと言える。



 

 それに、もしかしたら、これは宝貝にできるかもしれないな……

 この世界でもそれなりの価値があるような一品。

 宝貝の材料とするには相応しいはず。



 手に入った意外なお宝を前に、思わず笑みが零れそうになる。



 すると、そんな俺の様子を見たアデットが嬉しそうに声をかけてくる。



「ふむ………、どうやら気に入っていただけようですね?」


「………はい。気に入りました」



 アデットが礼を尽くしてくれているようなので、

 こちらも口調を変えて返事。


 元々、傍目からはアデットの方が年上なのだ。

 俺の身体が15歳くらいなのだから、喧嘩さえ売られなければ、年上には敬意を以って接するのが当然。



「それは良かった………、私が幼少の頃に使っていた品でして、『発掘品(アーティファクト)』ではありませんが、熟練の職人が制作した1級の『手工品(ハンドクラフト)』です。大事に使ってください」



 また、変な単語が出てきた。


 『発掘品(アーティファクト)』?

 『手工品(ハンドクラフト)』?


 何となく意味合いは伝わるけど………



「…………ヒロさん。こちらからの品を気に入っていただけたようで何よりですが………、一つ、お願いをよろしいでしょうか?」


「え? 何ですか?」



 アデットの口から唐突なお願い。

 表情こそ穏やかだが、俺に向けられるのは真剣な眼差し。


 一体何をお願いされるのかと思いきや、



「私が今、着ているコートは、実は亡くなった父の形見でして………、ソレを悪く言われるのは、私にとって心情的に受け入れ難いのです。散々貴方のことを扱き下ろしていながら、こんなこと言うのは心苦しいのですが……」


「む……」



 ここまで言われると、お願いことの内容が何となくわかる。


 俺の実力を認めてはしても、『父の形見』を悪く言われたままでは、平常に付き合うことに抵抗があるということか………



 『売り言葉に買い言葉』なやり取りの中での俺の発言だったが、そう言われると弱い。

 アデットにとってそれだけ大事なモノであるのだろう。

 

 そこに俺の拘りは無く、賭けの品とはいえ、こんな良品を譲ってくれたことを思えば、発言を訂正するくらいなんでもない。



「先ほどの俺の発言は取り消しましょう」


「ありがとうございます、ヒロさん。貴方とはこれからも仲良くしていきたいですね」



 そう言って差し出される右手。

 少しばかり照れそうなアデットの顔が印象に残る。


 当然ながら彼も二十歳前の未成人。

 俺の中身からすれば年下の年相応の青年でしかない。

 態度を改めた彼を見ていると、特にそう思う。


 最初はいけ好かない奴であったが、

 こうも素直に好意を全面に示されると、

 こちらとしても悪感情を持ち続けるのは難しい。

 

 

「ああ、よろしく」



 アデットの手を握り返す。


 向こうはスラムチームとは言え集団のボス。

 であれば、仲良くなっておくことに損はあるまい。



 こうして仲直りした俺とアデット。


 その光景に、ジュードはあからさまにホッとした表情を浮かべ、

 ジュードと向かい合っていたマッソという大男も安堵した様子でこちらを見守る。


 また、後方ではピレと呼ばれていた少年がムッとした表情で俺を睨んでいた。

 こちらはまだ嫌われているらしい。


 まあ、関わり合った全ての人と仲良くなれるわけではないので、これは仕方がない。








「では、ジュードさん、ヒロさん。私たちはこれで失礼します」



 アデット達とはここで別れる。

 どうやら、彼等は本当にジュードと会うためだけにここまで来ていた様子。



「ヒロさん、もし、今度お時間がありましたら、一度私たちのアジトに来てくれませんか。綺麗所を用意して歓待しますよ」



 別れ際、アデットからのお誘いを受ける。

 彼としては有能な人員はいつでも取り込みたい考えなのだろう。


 綺麗所にはちょっと心惹かれるが……、それだけ。

 俺はいずれチームトルネラを離れるつもりだから、

 行ってもいいんじゃないか、とも思わなくもないが……


 しかし、アデットはどう見ても、規律にうるさいタイプ。

 そんな彼が頭を張るチームなんて、絶対に超厳しい軍隊のような雰囲気のチームに決まっている。


 今更ビシバシと指導されたり、アレコレと命令されるのは御免だ!




「アハハ……、まあ、時間があったらで………」



 暗に態度で消極的なことを表明しつつ、

 曖昧な返事で笑って誤魔化す。



「おや? ヒロ君は綺麗所にも興味は無いと。仕方ありませんね………」



 アデットは特に残念そうな様子も見せずに、

 ヒョイと肩を竦めてみせた。





 これで『魔弾の射手』アデット達との邂逅は終了。


 俺とジュードは彼らが立ち去るのを見えなくなるまで見送った後、





「行こうか、ヒロ………って! 怪我は無い?」



 今更ながらジュードから心配されるが、

 当然のごとく俺は無傷。



「大丈夫。どこも怪我なんてしていないよ」



 ジュードの心配に笑顔で応える。

 少々腕が立つだけの人間にやられるほど、『闘神』は弱くはないのだ。



「そっか……、本当にヒロは強いんだね。あのアデットを簡単にあしらうなんて」


「そうだぞ。だからダンジョンでも戦闘は任せとけ」


「ハハハハ、頼もしいね。じゃあ、頼らせてもらうことにするよ」




 ダンジョン突入前に、いきなり予想外のトラブルに見合われたが、

 情報を色々仕入れることができた上、貴重なアイテムをゲットできた。


 だが、これからが本番のダンジョン攻略。

 まだ見ぬ敵と素晴らしいお宝が俺を待っているはずだ!




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いつも楽しく見ています。アデット、ここで引けるのは強いですね。すごく驚いてるはずなのに。
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