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白兎と始めるアポカリプス世界冒険譚(闘神と仙術スキルを携えて)  作者: クラント


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閑話 サラヤ1


<サラヤ視点>(47話目の直後)



 応接間の扉がパタンと閉められる。


 今からでも出て行ったヒロを追いかけるべきかと考えたけど、結局、私はその場から動くことができなかった。


 チームのことを考えれば、あの場は嘘でもヒロを好きだと言ってしまった方が良かったかもしれない。

 でも、それはジュードへの裏切りだし、ヒロだって、それを素直に信じるほどお人よしとは思えない。



「はあ……、どうすれば良かったのかな」



 応接間に私の独り言が漂って、

 誰にぶつかることも無く消えていく。


 ここは応接間って呼んでいるけど、ほとんど私の事務作業の場と化してしまっている。

 あとは、たまに誰かの報告を聞くときに使うくらい。

 


 3階の私の部屋は、ナルやカランもいるので、あまり人に見せたくない資料を触ることも多い事務作業には向かない。


 だから、私は日中、ほとんどの時間を応接間で1人事務作業をしている。


 簡単なものだったらナルでもできるけど、商会へ卸す晶石や晶冠の量、逆に商会から仕入れる食料、生活用品の価格、そういった細かい数字関係は私でないと難しい。


 ………いや、つい一週間ほど前の資料はとても他の人に見せられるようなものではなかった。

 元々、チームトルネラは私が就任した頃から非常に経営が厳しかったのだ。




 原因は2年前、ロップがチームの若手とともに離脱してしまったこと。

 これから稼いでもらうはずの若手が4人も抜けて、狩人になるというロップに付いていってしまった。


 その後、色々とゴタゴタが起きてしまい、バーナー商会から当時のリーダーが交代を強要されてしまった経緯もある。


 あの時、バーナー商会から私がリーダーをやるように要請が来て、それを受けてしまったことで、元リーダーと、私の先輩だった女性3人も一緒に離脱してしまった。


 元々、リーダーを含めた私より先輩だった女性陣と、私、ナル、カランの面々は仲が良いとはとても言えない関係だった。

 狩りにいそしむ男性陣に隠れて火花を散らしていたのだ。

 先輩では唯一仲が良かったマリエル姉さんを除いて。


 その私がリーダーになるなんて、先輩方にとって絶対に許せないことだったのだろう。





 でも、2年近くかけてなんとか立て直すメドが付いたところで、今度は稼ぎ頭だったディックが負傷し、狩りができなくなった。


 ディックが草原でラビットを探し始めたのはカランが狩りに行けなくなったから。


 ジュード、ディック、カランの3人でのダンジョン探索がチームトルネラの大きな収入源となっていた。

 しかし、カランが狩りに出られなくなり、ジュードとディックだけでは今まで通りの稼ぎを維持するのが難しくなってきたのだ。



 そこで、ディックは草原に活路を求めた。

 ジュードとのダンジョン探索を終えた後、1人草原に向かって狩りを繰り返していた。


 初めはラビットを獲物として狩ってきてくれるディックは非常にありがたかった。

 私たちはその危険性も認識できず、ただ、ディックが稼いできてくれるということだけしか目に入っていなかった。


 そして、ディックが負傷し、足を失ってしまった。

 この原因は、当然、止められなかった私達にもあるはずだ。




 そこから転げ落ちるように状況が悪化する。

 元々がギリギリの綱渡りだったのだ。

 2本の綱で渡っていたところを一本が切れてしまった。


 当然、負担はもう一本の綱、ジュードへと集中する。

 狩りの稼ぎは『砂さらい』や『草むしり』ではどうにもならない。

 カランやマリエル姉さんへの依頼もそう頻繁にある訳じゃない。


 ジュードは、どうにもならなくなった現状を打破する為、実入りの良いラビットを求めて草原を散策し始めた。

 私がどれだけ言ってもやめてくれない。

 ジュードがディックと同じように事故に遭うのは時間の問題だった。




 そこへ現れたのはヒロ。


 初めて会った時は、あまり期待していなかった。


 鍛えられているわけでもなく、なにか技術を持っていそうもない。

 でも、彼の目線は私の胸辺りに集中していたから、操縦するのは簡単そうだと思っただけだった。


 必要なのは男であるということと、

ある程度の体力、健康的な肉体があること、

そして、機械種を狩ることのできる度胸。


 それさえあれば、狩りで稼いできてもらえる。


 逆に機械種を狩ることのできる度胸がなければ、

このチームの負担が増えるだけだ。


 私の手は短い。

今のこのチームメンバーを守るだけで精一杯だった。


 だから、虫取りの指導をデップ達にお願いした。

 もし、彼が虫を怖がって手を出せないようなら置いてくるように。

 そして、もし、大怪我をしても助けたりしないようにと言い含めておく。

 

 この指導を乗り越えられるなら、鍛える価値があるということ。

 鍛えていけばある程度はものになってくれて、今すぐじゃないにしても、ジュードと一緒にダンジョンに潜って、ジュードの補佐をしてくれるようになる。

 そうすればジュードの負荷も少なくなり獲物も増えるだろうし、ジュードが危険な草原に行かなくてもよくなると、そう思った。





 でも、ヒロの活躍は私が思っていた以上のものだった。


 挟み虫を狩ってきたことについては、それほど驚いたわけではなかった。

 他のチームでもヒロと同じ年くらいの狩猟メンバーは挟み虫をメインのターゲットとしている。

 人並みの能力はありそうだということが分かったくらいだ。


 しかし、その時のヒロとの会話で、ヒロが思った以上に頭が回り、どこかの商会の丁稚でもやっていたのかと思った程に優秀だということが分かった。



 これは思っていた以上に拾い物だったのかも。



 スラムに来る子供と若者の3分の2は開拓村からの逃亡者。

 残りはこの街出身で、何らかの理由でスラムに来た者という2つに分かれる。


 このスラムにおいて、ある程度知識がある者は貴重だ。


 この頭の良さと、育ちの良さから、おそらくヒロは他の街から来た裕福な商人かなにかの家族ではないかというのが、トールの推察だった。




 ヒロが入ってきた日の夜に、私はトールと彼の素性について話をしていた。


 ヒロが他のチームの密偵、若しくは、他の商会からの工作員の可能性の有無について。



「話した限りでは、ヒロが他からの密偵や工作員って線は薄いかな。多分、ヒロは富裕層の出身だと思うね」



 トールは理由として、『あまりに常識を知らないこと』を挙げた。



「僕がシャワー室を『浴室』って言い換えて説明したら、ヒロは『風呂があるのか』って驚いていたんだ。このスラムに風呂なんてあるわけないし、この街にだって風呂がある家なんて、数えるほどだろう。そもそも、このスラムに風呂っていう存在を知っている人は非常に少ないと思うね」



 確かに、この街は大型の水瓶があることから水は大量にある。

 しかし、風呂にするためには水をお湯に沸かす必要があるが、そんな無駄なエネルギーをどうやってひねり出すのか。体を洗うのであれば水で十分。


 前にバーナー商会の商館で風呂に入らせてもらったことがあるが、ヒロはあれほどの無駄遣いができる家の出身ということになる。



「もちろん、単に知っているだけだったという可能性もあるよ。でもね、他にも根拠として、ヒロの手とか肌とか全く荒れていないっていうのもある」



 トールに言われて、自分の手を眺めてみる。


 手荒れ一つない年相応の肌艶だと思う。

 ちょっと前まで手荒れが酷かったが、それをバーナー商会の人に見つかり、経費節減の為、化粧品関係を抑えめにしていたのがバレてしまった。

 それ以降、化粧品自体を直接渡されるようになり、その分の費用はこちらの卸値から自動で引かれてしまうこととなってしまった。

 もし、次に自分の商品価値を落とすような真似をしたら許されないだろう。





「ヒロについては当分、僕が様子を見ておくよ」



 トールは男子メンバーの情報を私に流してくれている。


 ジュードはこういった情報を流す行為を嫌がるし、普段、拠点にいることも少ない。

 どうしても男子側に中の調整役をやってくれる人がいる。


 それがトールだった。

 こうやって短い時間であるが、情報のやり取りを行い、男女間での揉め事やトラブルの事前防止に一役買ってもらっている。

 


 トールが私を好いてくれているのは知っている。

 彼が指を落としたとき、チームから追い出されそうになったところを庇ったのが私だ。


 彼は行商人の丁稚でこの街に訪れ、この街に置いていかれてしまった。

 途方に暮れているところを拾ったのも私なのだ。


 だから彼は私には絶対に逆らわない。

 でも、逆らわないからといって、一方的に命令して意に反することを強要していくのは良くない。

 これは、このチームの女性の先輩方から習った男子の操縦方法。



 命令ではなく、お願いする。

 達成できたらご褒美を。



 彼に少しの時間だけだが、ご褒美をあげる。

 あんまり時間は取れない。この後はジュードに会わないといけないから。



 でも、これだけで、彼は自分の役割をこなしていってくれる。

 全てはこのチームの存続の為、そして、チームに所属するみんなの為だ。








 次にヒロに驚かされたのはヒロがチームに入った2日目の夜。


 いつまでたっても帰って来ないヒロにひどく落胆したのを覚えている。


 よくいるのだ。調子に乗って格上の機械種に挑んで帰って来ない子が。

 ヒロはその辺りのリスクを十分に分かった上で行動してくれると思っていたが。



 飛び出そうとするジュードを何とか引き留めている時に、ヒロは帰ってきた。

 それも飛び切りの獲物を抱えて。



 初めは狩人の獲物を横取りしたのかと肝を冷やした。

 でも、ジュードが後から言っていたが、狩人相手に獲物を盗むのは、ハイエナと直接戦うより難しいらしい。


 もちろん、狩人だって人間である以上、絶対ではない。

 しかし、狩人は獲物を狩ったらすぐに晶石と晶冠を取ってしまう。

 だから、晶石と晶冠のついているハイエナの頭を盗もうと思うと、狩った直後くらいしかチャンスが無く、遮蔽物の無い草原ではそれは不可能だということらしい。



 ヒロの拾ったという理由は到底納得のいくものではなかったが、獲物としてここにある以上、それで納得するしかない。


 これ以上の情報をヒロから聞き出すには、私の体を使う必要があるかもしれない。


 どうせヒロは報酬に私の体を求めてくるはずだ。

 精々寝物語で語ってもらうことにしよう。







 そう思っていたが、意外なことにヒロの求めた報酬はゼロだった。


 このハイエナの頭をバーナー商会に降ろせば6000Mにはなるだろう。

 これはチーム全体の収入の1ヶ月半~2ヶ月分に相当する。


 ヒロがマテリアルで報酬を求めてきたら渡せるのは2000Mくらいだろうか。


 3分の2が手数料なんて、酷い搾取のように思えるが、通常、機械種の素材からマテリアルに交換してくれる秤屋は個人からの新規の取引を受け入れることはほとんどない。

 だから、取引のある団体を通す必要があるが、これの手数料は、一般的なもので、3分の2から5分の4くらいが多いらしい。

 もっとひどい所だと10分の9持っていくところもあると聞く。



 ヒロはそこまでの報酬を返上してチームの為に使ってくれと言い出した。



 何を考えているのだろう? この人は………



 まず最初に私の中で生まれたのは彼に対する不信だった。


 彼は明らかに私に欲情しているように見える。

 ここで私の体を要求しても、誰も文句を言わないだろう。

 ジュードだって渋々ながら納得するしかない。



 次に考えたのは、彼の狙いがボスではないかということだ。

 

 このチームにおいて、最も価値があるのが、何十年も稼働している源種ドワーフの機械種であるボスだ。

 機体こそボロボロだが、未だにそのスキルは有用であり、戦闘力ではこのスラムにおいては最上位だろう。

 雪姫のウルフやキキーモラにだって負けはしない。



 ヒロは初めからボスに会うことを目的にしてきたのかと疑いの目を持ったが、それと同時にそうではないことも願った。


 もし、本当に狙いがボスでもなく、彼が言うようにチームの為と思って報酬を返上したのであれば、彼は非常にお人よしだということになる。


 そうだとしたら、チームにとって本当にありがたいことだ。

 たとえ報酬が低くても、これからもチームの為に働いてくれるだろうから。


 私の体だったらいくらでも報酬として払うつもり。

 今更純情を気取るつもりはないし、体を差し出すことで、チームメンバーが美味しい物を食べられるようになり、自分の将来について考えられる余裕が生まれるなら安い物。


 しかし、こういう時に自分から体を報酬として言い出すのは良くない。

 それは自分から価値を下げることになってしまう。

 先輩からの教えでは、男から求めてきて、女が恥じらいながら差し出すことで、初めて意味を持つそうだ。

 



 これがなかなか上手くいかなかった。


 報酬の話をしている時に何度かアピールしてみるも、目線は釘付けになるが、それ以上手を出してこない。

 どうやら胸に興味があるようなので、際どいポーズを取ってみるが、やはり目だけで手をださない。

 ひょっとして不能? それとも自信がないのかな?



 ここまでくると私の方も意地になってしまう。

 最後は直接的に胸を触らせようとしたが、振りほどかれ、体よく断られてしまう。


 おまけにおかしいと思われたようで、気遣いの言葉までかけられた。

 これには非常にショックを受けてしまった。



 え、私がおかしいの?



 呆然としている私を他所に応接間を出ていくヒロ。



 なんなの? この人。



 私はヒロのことが理解できず、しばらくしてジュードが応接間に入ってくるまで立ち尽くしてしまった。


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