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白兎と始めるアポカリプス世界冒険譚(闘神と仙術スキルを携えて)  作者: クラント


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42話 訓練



 ほら、やっぱりこうなった。



 目の前には木刀を構えたカラン。

 そして、同じく木刀を構えて対峙している俺。



 なぜ、こうなってしまったか経緯を言うと




「あのー、カランさん」


「ん、ヒロか、いつから居たんだ?」


「いえ、さっきからずっとここに居ました」


「よし。じゃあ、私と訓練しようか」




 以上、ダイジェスト版でまとめました。

 まあ、もう少しやりとりがあったが、だいたいこんなもんだ。



 そもそも、この銃やロボ溢れるアポカリプス世界で、剣術なんて役に立つのか?

 俺には莫邪宝剣があるから剣術は必要になるだろうが、ロボ相手に剣を振るったって装甲の表面を傷つけるのが精いっぱい。


 漫画やアニメのように剣で金属を真っ二つなんて夢物語。

 剣の練習をするくらいなら銃を練習した方が良いに決まっている。



 そんな疑問が顔に出ていたのであろう。

 カランが俺へと声をかけてくる。



「役に立たないわけじゃないよ。剣術はむしろ狩人には必須の技能と言える」



 え? お、俺の考えてることを読んだ?



 吃驚して大きく目を見開く俺に、カランは男であればニヒルと言っても良いくらいの渋い笑みを浮かべて言葉を続ける。



「私がチームに入ってきた奴を剣の訓練に誘うと、皆思うことは同じだからだよ、ヒロ。そして……」



 カランは持っている木刀を片手でビュンッと振り下ろす。



「男が私を見た時に思うこともだいたい分かる」


「ハ、ハ、ハ、ハハハハ……」



 思わず乾いた笑いが零れだしてしまう。なんかヤバい。

 


 対峙するカランの笑みが深くなる。

 まるで猛獣が爪をとぎ始めているかのような獰猛さを感じてしまう。

 なんだろこの圧力は………一目散に逃げたくなるぞ。


 あれは、パルデアとバカやった時のカランの目だ。


 いや、アイツが風呂を覗こうって持ち掛けてきたから……

 俺は覗いてなんかいないって!

 ただ、アイツを止めなかっただけ!

 本当なの、信じて!



 って、また変な記憶が混線している。

 全く、俺の頭の中は一体どうなっているのか……



 まあ、それはともかく、今のカランを止めようがないのは事実。


 色々失礼なことを考えた天罰かもしれない。

 貧乳とか、顔面偏差値とか、ルートはないとか、告白されても受けるかどうか悩むレベルとか思っちゃって………


 ああ、話しかけたのは失敗だったか。

セーブしてやり直せないかな?



「どうせ、私のことを男女とか、可愛げが無いとか思っていたんだろう?」



 いえ、もっとヒドイこと考えていました。

 バレたら多分殺されそう。



「そう怯えなくていいよ。自分の容姿くらい心得ているさ。それに自分の役割もね」


「役割?」


「ああ、女の子だって、全員サラヤやナルみたいに可愛いわけじゃない。私みたいに容姿に劣る子だっているし、機械種に顔を傷つけられてしまうことだってある。そういう子は娼館でも最低レベルの所にしか配属されないんだ。もちろん待遇も最低レベルだ」


「はあ」


「私はバーナー商会の護衛として配属される予定だ。主に幹部の奥さんや愛人、その子供なんかのね。たとえ容姿が劣っても特技があればそういった道もあるってことを知ってもらうのが私の役割さ」


「なるほど。容姿に劣る子への剣の指導なんかも行っているんですね」


「まあね。教え子は2人くらいだけど」



 そう話すカランはちょっとだけ自慢げな表情を見せる。


 本当に女武芸者なんだな。

 剣術の師範もしているのか。

 意外に教えるのが好きなのかもしれないな。

 俺もこの機会に色々聞いてみることにしよう。



「では、剣術が狩人に必須の技能というのはどういうことなんですか?」



 カランは振り下ろしていた木刀を肩に担ぎなおし俺の質問に答えてくれる。



「ふむ? おそらくヒロは機械種相手に銃があれば、剣は要らないだろうと思っているだろうが、まず、それが間違っている。理由は3つ。1つ目は機械種用の近接用武器が存在していること。機械種の装甲を破壊できるような武器だ。ほとんどが巣から見つかる発掘品だが、中量級以下なら『金床』から作られた武器でも十分通用するものがある。まあ、メイスやハンマー等の打撃武器になるだろうけどね。装甲を切断できるような剣のたぐいはほとんどが発掘品さ」



 なるほど。発掘品か。

 マジックアイテムみたいなものかな?

 これはぜひ集めてみたいな。


 それと『金床』ね。ニュアンス的に鍛冶屋で作られたものという意味だろうか?

 この辺りは後で調べる必要があるな。



「2つ目は機械種を破壊するだけなら銃で事足りるだろうが、捕獲して従属させるなら、まず四肢を破壊して動きを止める必要がある。動き回っている機械種相手に蒼石を投げても当たらないからな。そして、機械種の四肢を破壊するなら近接武器の方が効率的だ」


「銃でも機械種の手や足やらを吹き飛ばせるのでは?」



 話の途中だが、つい疑問に思ったことを口にしてしまった。

 イカンな。悪い癖だ。


 案の定、ジロっとカランに睨まれる。

 う……、すみません。この世界に来てもなかなか治らないんです。



「ヒロ、従属させる為に機械種を捕獲するということは、その機械種はできるだけ破壊する部分を少なくして捕獲する必要があるということだ。そうでないと修理代が高くついてしまうからな。さて、四肢を銃で吹き飛ばすのと、剣で切断するのとではどちらが修理しやすいと思う? それに銃は常に誤射する危険性がある。四肢を狙って、頭部を撃ち抜いてしまい、晶石を粉砕してしまったら意味が無くなってしまう」



 あ、確かに、その通りだ。

 経済的合理性ということか。



「3つ目は銃が効きにくい、又は全く効かない機械種の存在だ。まあ、別に機械種に限ったことではなくて、発掘品の中にも銃を防ぐ効果のある防具が存在しているから、相手が人間でも銃を無効化してくる可能性があるということだ」



 げ、マジか。

 どういう理屈で銃を無効化してくるんだ。



「銃の弾丸はマテリアルが変化したものだが、それを分解する力場を発生させるらしい。詳しい仕組みは知らないがな」


「ということは、剣は分解されないということですか?」


「同じマテリアルから生成されたものでも、『金床』という『マテリアル精錬器』から作られた物は分解されにくいらしい。これも話に聞いただけだが」



 うーん。色々と情報が多すぎてまとめきれないぞ。

 また、新しい単語が出てきたし。





「さて、授業はこれくらいにしておこうか。これからは実技の時間だ」



 また、片手で木刀を振り下ろすカラン。

 切っ先を下の方向、俺の腰より下辺りに向けている。

 片手下段の構えというのだろうか?

 剣道には詳しくないからよくわからないが。



 俺も一歩後退して間合いを測る。

 構えはオーソドックスに両手で正眼の構えを取っておこう。

 剣道なんて中学の授業以来だ。



「ふうん? 構えだけはしっかりしているな。誰かに教わったのかい?」



 何気なく俺に話しかけるカランだが、目はきっちり俺の挙動を見据えている。

 隙を見せたら打ちかかってくるだろう。



「さあて、誰だったかな? そういうカランは誰かに習ったの?」



 敬語は辞めだ。

 今は試合中だから気合だけでも飲まれるわけにはいかない。


 負けるとは思わないが、身体能力はこちらが上でも、技術は全く敵わないであろう。

 頭以外なら木刀で殴られても痛くはないだろうが、それでは訓練の意味が無い。



「へえ? 随分余裕じゃないか…………まあいい。私の両親はキャラバンの護衛をする猟兵団だったんだ。小さい頃から剣術を叩き込まれている。知っているかい? この辺りを移動するキャラバンに襲いかかってくるのは大抵、ラビットやウルフなんかの軽量級なんだよ。軽量級相手だと銃より剣の方が戦いやすいんだ」



 コイツ、人に教えるの大好きだな。

 先生気質ってやつか。


 確かに的が小さくて動きまわるラビットやウルフなんて、銃で命中させるのは困難だろう。



「もちろん、銃を扱えないわけじゃないんだけどね。ああ、もう一つ剣の利点があった。銃は撃つ度にマテリアルを消費する。装甲の厚い機械種に通用する銃はマテリアルの消費も激しい。コストパフォーマンスで言ったら剣が一番……」



 カランが急に左へ動いたかと思えば、

 一瞬で方向を変え、滑るように俺に接近してきた。 

 


 セリフの途中で襲いかかるなんて、

 相変わらず狡い手を使ってきやがる!



 カランとは初対戦のはずなのに、

 なぜか何十回と対峙したことがあるような感覚。


 それ故に、俺も落ち着いて彼女の攻撃を見極めることができる。

 



 下に構えた木刀を左切上に振るってくるカランの斬撃。

 もしかして下半身狙い?と見せかけたフェイントであるとすぐさま判断。


 視線が下に行きすぎよう気を配りながら、

 一歩後ろに引いて斬撃を躱し……




 ブンッ!!




 カランの木刀が下から上へと目の前を通り過ぎる。

 

 切り上げられた風圧が俺の前髪を僅かばかり揺らす。


 その瞬間、俺の目に、剣を躱されたカランが薄っすら笑みを浮かべたのが見えた。



 やっぱりか!



 カランはそのまま一歩踏み込み、

 振り上げた木刀をそのまま俺の肩口へ振り下ろしてくる。


 速さを優先させた力の乗らない一撃。

 一応、俺に大怪我させないよう一定の配慮が見られる。


 そりゃそうだ。

 このチームの稼ぎ頭になるかもしれない金の卵を、

 訓練で潰すわけにもいかないだろうから。


 ただし、この状態で躱すのは困難。

 剣で受け取るのもやっとであろう。



 しかし、何となくカランの攻撃を予想していた今の俺ならば……




 ビシッ!!!



 2本の指で挟んで止めるぐらい余裕。

 これぞ、真剣白刃取り!




「な!」




 カランにとっては必殺の躱されようのない一撃なのであったのだろう。

 初めてみるカランの狼狽した表情から驚きの声が漏れた。


 木刀を抓んでいる2本の指を凝視するカラン。

 細い目が大きく見開かれ、いつも固く結ばれている口がポカンと半開き。



 ああ、その顔は、何度も見たような気がする。

 


 君はいつも冷静沈着で、

 顔に表情を出さないようにしているつもりだろうけど、

 突拍子もない出来事に遭遇すると、すぐに仮面が剝がれてしまう。


 その瞬間だけが、素の彼女を見ることができる。

 ほんの少しだけ、可愛いかも? とも思わなくもない。



 さて、剣道では竹刀を掴むのはルール違反だったな。

 いつまでも指で抓んでいるわけにもいかない。



 パッと木刀から手を放した瞬間、カランは何か恐ろしいものから離れるかのように、素早く4、5歩後退する。



 自分の木刀の状態をマジマジと確認。

 信じられないような物を見るような目を俺に向けてくる。



 え、何かやっちゃいました? 俺。



「………………木刀を指で止められたのは初めてだよ」



 カランからの絞り出すような苦い声。

 随分とショックを受けていることが良く分かる。



「全力ではなかったが………、こうも簡単に止められると、自信を失ってしまうな」


「あ………、ごめん」


「謝るな。余計、惨めになる」


「…………………」



 真剣に武道に打ち込んでいるカラン相手に、

 少々ふざけ過ぎた真似だったかもしれない。



 俺がバツの悪そうな顔をすると、

 カランは強張っていた表情を幾分和らげ、



「そんな顔をするな。武人はもっと技を誇るものだぞ。堂々としろ」


「う、うん……、分かった」



 カランに忠告されて素直に頷く。


 そんな俺の態度にカランは少しばかり苦笑を浮かべながら言葉を続ける。



「ヒロがトンデモナイ奴だということは良くわかったよ。皆から聞いていた話とちょっと違うな」


「え、何それ? ちょっとに気になるんですけど?」



「いや、どうでもいい話さ。さて、続きをしようか。次は剣を掴まれるようなことはしないぞ」



 と言いながら、今度はレイピアを使うかのように片手で切っ先を俺に向けて構えてくる。



 待て待て! それって突きの構えか! 

 突きは中学の剣道では禁止されているんだぞ!



 慌てる俺に構わず突きかかってくるカラン。

 


 斬撃と違って点で攻撃してくる突きは防御しにくい。

 とにかく右に左に動いて躱そうとする俺。


 体の中心辺りに木刀を縦に構えて、中心線を捉えそうな突きだけ、木刀ではじき、それ以外は体さばきで躱していく。


 俺が剣術に長けていたら、もっとカッコよく攻撃を捌けるんだが、如何せん、失敗するとかなり恰好悪くなってしまう。

 今は身体能力のゴリ押しで回避する方が確実だ。




 カランは長い黒髪を振り乱しながら連続して突きを放ってくる。


 それを木刀で防御しながら、右左とステップで躱し続ける俺。

 

 しばらくカランの猛攻をそうやって防いでいると、



「ハァ、ハァ、ハァ。ヒロ、いい加減に攻撃して来い。いつまで受けに回っている?」



 息を切らし始めたカランが俺に注文を付けてくる。

 

 その顔から自分の研鑽した武技が通用しないことへと苛立ちが見て取れる。



 とは言いましても、流石に男勝りとは言え女性に木刀で殴りかかるのは抵抗が………


 俺の言いたいことが分かったのか、カランが急に機嫌を悪くして俺を睨みつける。



「私が女だから遠慮しているのか! それは剣に生きるものにとっては侮辱だぞ」



 やめてよ! その、腕に自信があって気が強い女剣士か女騎士でありそうなパターン。

 その場合、俺が勝ったら惚れられてしまうじゃないか。


 でも、ここで攻撃しないとかなり恨まれそうだな………仕方が無い。

 とりあえず木刀に当てて弾き飛ばせばいいか。




 重心を落として右手の木刀を鞘に納めるかのように構える。

 男の子なら一度は憧れる抜刀術っぱい構えだ。特に意味はない。



 カランは俺の構えを見て木刀を体の前に斜めにして構える。



 俺とカランの間は5メートル程。

 狙うはダッシュしての抜刀術モドキからの一撃。


 俺の瞬発力と神速の抜刀術を組み合わせた攻撃だ。

 カランの構えた木刀を弾き飛ばすなら十分な威力だろう。



 ん………、

 そういえば神速というと、

 確か漫画でそういう術というか歩法があったような。



 俺の頭に浮かぶ、数々の格闘技や剣術を題材とした漫画やアニメ。


 その中にて抜刀術つながりで浮かんできた言葉が……




『縮地』




 前に足を一歩踏み出す。

 向かうは5メートル先のカランの前。




 その瞬間、俺の体はカランの目の前にあった。


 俺とカランの間に合った5mの空間がいきなり縮んでしまったように。

 まるで空間を飛び越えてしまったかのように…………

 


「なっ!」



 目を大きく見開いて驚きながらも、とっさに後ろに飛び下がろうとするカラン。


 その前に腰の位置に置いた木刀が三日月を描くかのように、

 カランの持つ木刀目がけてビュンと振り抜く。





 ザクッ


 あ、ヤバい。





 カタン、カン、カン、カン





 切断されたカランの木刀の上半分が駐車場の床に落ちて、音を立てる。



 俺の木刀はカランの首の触れるか触れないか辺りで止まっている。


 いや、正確にはギリギリ止めることができた。

 木刀を狙った斬撃は、弾き飛ばすのではなく、何の抵抗もなく切断してしまい、危うくカランの首まで飛ばしてしまうところだった。




 やらかしてしまった。


 なんで『縮地』を使っちまったんだよ!

 さっき隠そうって決めたじゃないか!


 いや、使うつもりはなかった。

 でも、その直前に『縮地』のことを思い出してしまって………

 

 縮地なら一瞬だなと思って、一歩踏み出したら勝手に移動していた。


 確か『縮地』は仙人が使ったという中国由来の術だったか。

 これはどうすべきか。どうやれば誤魔化せるのか。




 ゴクリ


 


 カランが唾を飲み込むを音が聞こえた。


 その音に釣られて、ついカランの顔を見てしまう。


 驚きのあまり完全に固まってしまった顔。

 

 そして、その目は何を映しているのだろう?


 『驚き』か、『恐怖』か、それとも……



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