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白兎と始めるアポカリプス世界冒険譚(闘神と仙術スキルを携えて)  作者: クラント


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30/55

30話 宝剣



 うわぁぁぁ! 怖えええぇぇぇ!



 無色の暴風が俺の周りを取り巻いている。

 

 ウルフ達が飛びかかってくると、風が黒味を帯び、物理的な障害となって、ウルフ達を吹き飛ばす。

 しかし、足で描いた陣が俺を中心として半径1m未満の円しかできなかった為か、俺に爪や牙が届く直前まで黒い風が発動せず、かなりギリギリまでウルフ達に接近を許してしまっているのだ。



 もう少し大きな円を描ければ良かったが…………



 そもそも、十絶陣は封神演義に出てくる敵役である截教の高弟、十天君が使用する『陣』だ。

 陣とは一定の場所に自分の有利な空間を作り出すことのできる術で、このように相手を誘い込んで殲滅する罠のような能力を持たせることもできる。


 十絶陣はその中でも特に攻撃性が高く、俺が使用した風吼陣は本来であれば、黒い風と共に何万本もの刀剣が相手を切り刻んだり、炎をも生み出したりと、もっと派手なものになるはずだ。


 通常、陣を作り出すためには、地面に大きな円を描いたり、旗を立てたり、力を注いだりと事前に色々と準備をする必要があるが、今回はその準備をすっ飛ばした為、範囲も威力もショボいものとなってしまったのだろう。


 一応、黒い風はウルフ達を弾き飛ばした際に、装甲に傷をつけているようだが。


 まあ、この短縮版は防御用と割り切っておこう。


 ちなみに十絶陣の中で、この風吼陣を選んだのは、万が一、陣の効果が自分に及んでしまった場合、一番被害がマシだろうと思ったからだ。


 他の十絶陣は、体を溶解させたり、魂魄を消し飛ばしたり、血水と化してしまったりとえげつない効果を発揮する。

 風や刀剣で切り刻まれたなら仙丹で直せる可能性が高く、あとは俺が白兎を抱えて庇えばほとんど被害無く済ませただろう。

 まあ、その心配は杞憂だったけど………






 フルフル

『この中にいれば安全なんだね』


「まあ、そうだけど、こちらから取れる手段が少ないのがネックだな」



 風吼陣の中から外の様子を眺める俺と白兎。



 ウルフ達は弾き飛ばされた後も、何度も飛びかかってきて跳ね返されている。


 当然、ウルフ達の攻撃ではこの風吼陣は全くビクともしない。

 しかし、このままでは俺達も動きづらい。


 ウルフ達にとっては弾き飛ばされる風の壁のようだが、俺の出入りは自由。

 中から攻撃することも可能だが、いかんせんパンチ、キックは届かないし、そもそも攻撃が届く前に黒い風が弾き飛ばしてしまう。



 しばらくするとウルフ達は風の障壁を突破するのはあきらめたようで、黒い風が発動せず、俺の攻撃が届かないギリギリの線を探るように、陣の周りを回りながら近づいたり離れたりを繰り返す。


 攻撃を一時中断して陣の有効範囲を見極めているようだ。

 俺がもし迂闊に動いて、少しでも有効範囲から体の一部を出そうものなら一瞬で食いついてくるだろう。


 危機的状況は脱したものの、こちらも向こうもお互い手を出せなくなってしまっている状態だ。

 俺としてはこのままウルフ達が諦めて去ってくれれば何の問題もない……




「いや、せめて一体くらいは狩りたいな」


 パタパタ

『マスター……、助かったと思ったら欲が出てきたね』


「でも、ここまで苦労したんだから……、あ! 銃なら……」


 フリフリ

『……マスターが持ってたナップサック、向こうにあるよ』


「げっ! 落としてたのか!」



 白兎に言われて、向こうを見ると、

 ここから20mくらいの所に落ちているのが分かる。


 サラヤから貰った銃はナップサックの中。

 銃を収納するホルダーとか持っていないから仕方ないね。



「なんとかこっちに持ってくる方法はないかなあ? 物を移動させる仙術とか……」



 割と適当な方法で陣が作成できたので、思いつきで念動力とかで動かせないかと思い、ナップサックに意識を集中して、動け、動けと念じてみる。



 パタッ?

『どう?』


「うーん。無理。そもそも念動力はサイキックで、仙術とは関係がないぞ」



 そこまで仙術スキルはファジーではなさそうだ。



「こうなると向こうが根負けするまで待つしかないか」


 フルフル

『時間がかかりそうだね』


「仕方ない。俺が飲食不要、排泄不要で良かったよ」



 おかげで何十時間でも籠城できる。

 もし、俺が普通の人間だったら、渇き死にか飢え死にのピンチ。

 また、この狭い空間で小も大も済まさずにはいられず、酷い状態になっていたであろう。

 

 周りのウルフ達に排泄する姿を公開するというオマケ付。

 もう最悪な状況に違いない。



 まあ、こんなバカなことを考えていられるのも

 さっきまでの俺とは違い、心の余裕が大分できてきているから。

 やはりこちらの体が傷つく心配が無いということが一番大きい。


 逆にこちらが怪我をする可能性がある場合は非常に脆いと言わざるを得ない。

 また、この場に白兎がいなかったら

 自分でも情けないと思うが。




 そんなことを考えていると、俺を包囲していたウルフ達の一頭が離れていき、俺のナップサックに近づいていく。



 え? 何する気だ。アイツ。



 その一頭は他のウルフより一回り大きい個体で、赤く光る目からは一層強い悪意のようなものが感じられた。




「ひょっとして、アイツがこのウルフ達のボスか?」


 フリフリ

『多分そうじゃないかな? ………大きいし、なんか模様もちょっと違うし』


「え? 模様? どの辺?」


 ピコピコ

『ホラ、背中から前脚にかけて橙色のラインが入っているでしょ』


「んん~、そう言われるとそんな気も………」



 ウルフ達は黒一色だから、多少の色が混じっても見えにくい。

 でも、白兎の言う通り、アイツがボスで間違いなさそうだ。




 そのウルフボスは俺のナップサックの所に着くと

 前足で押さえてガブリと袋を食い破り、器用に中身を取り出す。

 

 ナップサックに入っているのは、銃、水筒、兎の頭、

 そして、あの3人にもらった大振りのナイフ。


 それをこちらに分かるように見せつけてきた。




「クソッ! せっかく新しい袋を貰ったばっかりなのに! アイツ、どういうつもりだ?」



 折角貰ったナップサックを破られて怒り心頭。

 俺は憤りを隠せず、ウルフボスを睨みつける


 だが、ウルフボスは俺を馬鹿にしたように見返し、

 挑発しているような仕草を見せる。


 そして、俺が確保した成果物である兎の頭に噛みつき、そのまま咀嚼を始めた。



「ああ! 俺の獲物!」


 ピコピコ

『どうやらこっちを挑発しているみたいだねえ』


「あの野郎!」



 風吼陣の中で地団駄踏む俺。

 だが、ウルフボスの挑発はソレで終わらなかった。



 その次は銃。

 かみ砕かれるのは一瞬。



「あああああっ!! 1,000Mもするんだぞ!それ!」



 思わず声が出る。

 しかし、止めようが無い。

 この風吼陣から出たら他のウルフ達が殺到してくるだろう。

 



 そして、水筒が食い破られた。


 次はデップ達3人から貰った大型ナイフの番だ。



「やめろおおおおぉぉ!!」



 大型ナイフは彼等からの想いが籠ったプレゼントだ。

 俺は声を上げずにはいられなかった。


 しかし、声を上げただけで向こうが止まるはずもない。

 風吼陣から飛び出していかねば止められない。



 どうする?



 そんなの決まっている。

 命には代えられないだろう。残念だが大型ナイフのことは諦めるしかない。

 分かってくれるさ、あの3人も…………


 だってウルフの集団だぞ。大型ナイフは犠牲になったんだ。

 そう、そのおかげで助かったっていうことにしとけばいいんじゃないか。


 銃も、水筒も、あの大型ナイフもしょうがない。

 諦めるしかないよ。だって守れる力が無かったんだから。


 このアポカリプス世界はそうなんだ。

 弱い奴はああやって『奪われる』しかない…………




 ドクンッ!




 俺の心臓が強く跳ねた。

 腹の底から、強い憤りを抱えたナニカが蠢き出す。



 フル?

『マスター?』



 白兎が訝し気に俺を見上げる。

 だが、俺にそれを気にする余裕もない。




 ソウ、ウバワレル。


 ウバワレル、ウバワレル、ウバワレル、ウバワレル、ウバワレル、

 ウバワレル、ウバワレル、ウバワレル、ウバワレル、ウバワレル、

 ウバワレル、ウバワレル、ウバワレル、ウバワレル、ウバワレル、

 


 俺の耳に入って来る呪詛めいた響きを持つ言葉の羅列。

 その度に俺の心はナニカによって塗り替えられていく………




 バキ!



 

 その時、響く軽い破砕音。


 ウルフボスによって、あの3人からもらったナイフは刀身を根元から折られてしまった。


 そのままボリボリとウルフボスは刀身を食らっている。口元からは柄の部分がポロリと落ちる。



 それを見た瞬間、頭の中が真っ白になる。


 そして、心の中のナニカが叫び声を上げた。




 アアアアアアアアアアアアア! 

 ウバッタナ! オレカラウバッタナ!!!!





 抑えきれない衝動に突き動かされるまま、俺は陣から飛び出した。

 そのまま一直線にウルフボスへと駈け出す。


 おかしなことに、周りのウルフ達は動かなかった。

 一斉に襲い掛かられると思っていたが、なぜか機体を硬直させ、驚き戸惑っているようにも見える。

 しかし、ウルフボスに辿り着こうと思うと、何機かが邪魔。

 進行上に立ち塞がっており、これを排除せねば先へと進めない……



「ジャマダ!!」



 もう腕が傷つくことは気にせず、

 立ち尽くすウルフ数機に向けて、思い切り両腕を振るう。


 走りながら妨害物をかき分けるように。

 壁となっているウルフ達をまとめて一気に弾き飛ばす。


 俺の手が当たったウルフ達は機体が一瞬で粉々。

 砂糖菓子よりも簡単に粉砕。


 さらには俺の腕の一振りで衝撃波が発生。

 周りにいたウルフ達が吹き飛ばされて宙を舞う。


 これでアイツへの道筋は作れた!



 俺から奪ったことへの報いをくれてやる!



 ウルフボスとの距離、約20mを一気に詰める為、

 地面を大きく蹴ろうとする。


 その反動で飛びかかろうとした瞬間、




 ブシュウウウウウウウ!!!




 ウルフボスから眩い光が放たれた。



 一瞬だけ目が眩む。

 思わず目を瞑ってしまう。



 数秒後に目を開けた時、

 俺の周囲に熱気が溢れ、

 何かが焼け焦げる臭いが鼻を通り抜けた。



 なんだ! 何が起こった?

 ひょっとして、レーザーだろうか?


 もしかして俺の身体に命中した?



 思わず、胸や腹を擦ってみるが、

 特に自分の体や装備に被害はなさそうだ。


 ウルフボスを見ると俺に向けて、大きく口を開けていた。


 

 その口から薄い煙が棚引く。

 たった今、超高熱のナニカが発射されたかのように………




「ダカラドウシタアアアアアア!!! ヨクモオレカラウバッテクレタナアア!!」




 構わず、俺は雄叫びを上げて全速力で突進。

 右手を腰に構え、ウルフボスに向かって再度駆け出す。


 ウルフボスは背を向けて慌てて逃げようとするが、

 なぜかその動きはぎこちなく、足取りも鈍い。


 俺はそんなウルフボスの背中へ、

 速度を乗せた正拳突きをお見舞いした。

 



 グシャッ!!!!




 たった一撃で胴体部分を粉砕。

 ウルフボスは真っ二つになって、地面に転がった。


 しばらく頭の部分は動いていたが、数秒も経たないうちに目から赤い光が消え、動かなくなった。







 フルフルッ!

『マスター! 大丈夫!』


「あ、白兎………、あれ?」



 衝動に突き動かされるままウルフボスを倒し、ふと、我に返ると、

 白兎が駆けつけてきて俺の身体を心配していた。



 ピコピコ!

『レーザーを撃たれたみたいだけど? 怪我は無い?』


「え? あれはやっぱりレーザーだったのか?」



 どうやら、やはりレーザーであった様子。

 この街に来る前に遭遇した、あのメカ熊が口から放っていたモノと同じであろう。

 遠距離攻撃手段も持っているなんて、なんて厄介な敵だ。


 しかし、俺に何の被害もなかったところをみると、

 どうやらレーザーを放ったが、俺には当たらなかったようだ。



 危なかった。

 もし直撃していたらどうなっていたか。

 

 いや、もしかしたら直撃していて、

 俺の仙衣で防いだだけなのかもしれないけど。




 ピコピコ

『さっきはちょっとびっくりしちゃって動けなかった。一体何? さっきの?』


「何って………あれ?」



 あれだけ俺の中で暴れまわっていた怒気がいつの間にか消え失せた。

 その元凶を打倒したからであろうか………


 白兎の言う『さっきの』は、俺がいきなり激高して特攻したことであろう。


 完全に我を忘れるくらいに怒り狂っていたおかげで、

 恐れることなくウルフボスに立ち向かうことができた。

 

 そうでなければ、一歩も足を踏み出せなかったに違いない。

 しかし、臆病な俺が怒った程度で死の恐怖に打ち勝てるとは思えない。

 

 アレは俺の怒りと言うより、俺の中にいるナニカが………




 フリフリ!

『マスター! ウルフ達がこっちに来るよ』


「お? お、おう……」



 思考の途中だが、まだ敵が残っている。

 戦力で換算すれば、これからが本番だとも言える。



 隊列を組みこちらに近づくウルフ達に目をやる。

 どうやら俺が苦も無くウルフボスを倒したことを警戒している様子。


 それでも、あと30秒もしないうちに接敵するのは間違いない。


 機械種ウルフが約20機弱。

 対してこちらの戦力は素手の俺と白兎だけ。


 せめて銃があれば、とも思うが、ウルフボスに壊されて粉々。

 残っているのは刃の部分をかみ砕かれた大型ナイフの柄の部分のみ。

 



 ソッと足元に落ちている大型ナイフの柄を拾い上げる。

 せめてこれくらい持って帰らないとデップ達3人に申し訳が立たない。



 残された柄の部分を握りしめ、

 これから俺達が立ち向かわなくてはならない戦場へと目を向ける。



 さて、どうするか。

 もう一度陣に閉じこもることも考えたが、この距離では陣を描く時間もない。

 白兎の『太陽兎拳』も二度目となると、対処される可能性が高い。


 そうなると、ここで対決する以外に選択肢が無いであろう。



 しかし、あの数は流石に厄介だ。

 さっき陣から飛び出した時は、幸いなことに向こうが動かなかったが、2度目の幸運を当てにするわけにもいかない。


 俺の攻撃力はウルフを一撃で倒すには十分。

 だが、あの数に一斉に襲われたら、攻撃を全て躱すことは難しい。

 白兎のフォローもあの数が相手では捌ききれないだろう。

 もし、一度でも傷つけられてしまったら動きも鈍ってくるし、そもそも痛みに弱い俺が、痛みに耐えながら戦闘を続行するのは難しいだろう。


 怪我を負わないようにする為には、できるだけ早く数を減らさないといけないが、こちらのリーチが短すぎてどうにも命中率が悪い。

 元々腰より下の背の低い相手は拳ではなかなか狙いにくい。

 かといって蹴りを使えば、相手は軸足を狙ってくるだろう。



 ああ……、武器が欲しい。

 振り回せるくらいの武器が。


 金属バットくらいがちょうどいいか。

 いや、それよりもハンマーの方が、威力が高いかも。


 しかし、重量のある打撃武器であの俊敏なウルフに命中させることができるだろうか。

 できれば使いやすい刃物の方がいいかもしれない。


 鋭く、一撃でウルフ達の首を刎ね飛ばせるような。

 しかし、金属のボディ相手に刃物が通じるのか。

 ロボット相手ならアニメによくあるビー○サーベルみたいなのが有効なのだろうが。




 そう、柄から湧き出す光の刀身。

 一閃する度に光の残像を生み出す……



 その時、俺は光の剣を幻視した。



 その剣は輝く光を刃に変え、幾人もの敵の首を刎ねた宝貝。

 封神演義に出てくる黄天化。

 俺の好きだった登場人物の愛剣。




 右手の中の刃の部分が無くなったナイフの柄をぐっと握りしめる。

 そして、俺は自然とその剣の名を口にした。




「宝貝 莫邪宝剣」





 柄から光が噴き出した。

 始めは噴水のごとく光が湧き出し、その奔流は10m先まで届くほどであったが、ゆっくりと勢いが収まっていき、やがて青白い光を放つ1.5m程の一本の剣身のみが姿を現した。 



 ブンっと右手で剣を振るう。

 何となく星戦争のライト○ーバーのような「ブオン」という音を期待していたが、全くの無音だ。

 剣身が空気を切る音さえ聞こえない。



 ピコピコ?!

『マスター、その剣は?』



 足元の白兎が驚いて俺を見上げてくる。

 俺が不敵とも言える笑みを浮かべ、

 その問いに答えてやった。



「莫邪宝剣だ」







 イケる。

 この剣の前にはウルフ達等塵芥に等しい。

 一瞬で全てを蹂躙できる。


 宝貝から感じる圧倒的な力が俺を戦闘へと駆り立てる。

 


 俺が武器を作り出したことに驚いたのか、

 ウルフ達が俺に近づくのを止める。



 ふん、怯えているのか。ロボットの癖に。

 だが、もう遅いよ。俺の試し切りの相手となってもらう!




 宝剣を片手にウルフ達の群れに突っ込む。




 封神演義の小説はかなり昔に読んだきりだ。

 覚えている内容もかなりあやふやになってきているが、莫邪宝剣の戦闘シーンの2つの表現は割と記憶に残っている。



 そう、「剣が光った」と「相手の首が落ちた」だ。



 正しくその通りだった。俺が剣を一閃するだけでウルフの首が一つ飛ぶ。

 上手く合わせば2つだ。


 飛びかかってくるウルフ達に合わせて振るだけで、何の抵抗も感じず、ウルフ達のボディを切り裂いていく。


 また、ウルフ達の動きが精彩を欠いていたことも大きい。

 やはりボスを失った影響だろう。

 先ほどは憎たらしくなるくらい、俺が嫌がる攻撃をけん制と織り交ぜながら交互に行ってきたが、今は連携はしているものの、いささか攻撃が単調過ぎた。



 時間にして2分程でその作業は終わった。

 頭を真っ二つにしないよう気を付けてなければもう少し早かったかもしれない。








 俺の周りにウルフ達の残骸が20体分散らばっている。


 激戦の跡のようだが、俺にはまだ物足りない感じだった。

 先ほどまで絶体絶命の危機だったのに、宝貝を手に入れたという高揚感が俺を落ち着かなくさせていた。



 ようやく手に入れた宝貝。

 それも俺の一番お気に入りのヤツだ。



 宝貝とは仙人が作り出す『マジックアイテム』。

 中国の明の時代に成立した小説『封神演義』に登場した仙人の武器・防具・アイテム全般。

 最近、ゲームでも有名な『宝具』はこれを元に構想されたと考えられる。


 仙人は何年、何十年もかけて『宝貝』を作り上げ、

 己の秘密兵器として携える。


 封神演義では無数の宝貝が兵器として飛び交い、

 炎、雷、光を発生させ、時には空間や時間、

 因果すら操る凶悪な性能を見せつける。



 仙人と宝貝は切っても切り離せないモノ。

 こうしてこの手に生まれのは、仙術スキルの効果に違いない。



 ブンッ!



 チャンバラをするように軽く振るってみる。

 全く重さは感じない。

 逆に軽すぎて存在するのかどうか不安になってしまうくらいだ。



 いや、ここに確かに莫邪宝剣は存在する。

 それも圧倒的な力を持って!

 


 今までの仙術はどうにも破壊力という点においては、威力がショボいものばかりだった。


 仙術で生み出す火や風も手品レベルでしかないし、禁術は応用が効きそうだが、直接的な破壊力に乏しい。

 風吼陣は今の段階ならあくまで防御用だろう。



 しかし、この莫邪宝剣の破壊力は素晴らしい。

 機械種を紙にように切り裂いていく。

 

 俺はこの宝貝の威力に魅了されてしまった。

 先ほどまでの絶望的な状況から脱出できたということもあり、自分で分かる程テンションが上がってしまっている。




 これが力を手にするということか!




 自分では収めることのできない心の底から浮かび上がってくる熱量を消化する為、手に入れた力、莫邪宝剣を振り回し始める。




 剣道の真似をして、面、胴、小手。


 剣豪の真似をして、円月殺法、燕返し、十文字切、Vの字切り。


 漫画の真似をして、○○○ストラッシュ。懐かしいぞ、おい。


 さらに、一瞬で9回攻撃を繰り出す奥義。結構できたような気がする。




 パタパタッ!

『マスター! あんまり振り回したら危ないよ!』


「アハハハハハッ! 大丈夫、大丈夫!」



 あまりの俺の燥ぎっぷりを見かね、白兎が注意してくるが、

 新しい武器を手に入れ高揚している俺の耳には届かない。



「ソレッ! ソレッ! ソレッ!」



 やっているうちに楽しくなって、宝剣を振り回し続ける。


 右手から左手に持ち替えて切りつけてみる、

 手首のスナップを効かせてしなるように振るってみる、

 両手で剣身を地面に打ち付け、そのまま跳ね上げてみる。

 


 すげえ楽しい!

 アハハハハハ、童心に帰ったようだ!



 剣を振るうと光の残像が追尾してくる。これがまた非常に美しい。


 さらに調子に乗って飛び回りながら剣を振るい続ける。


 そして、ジャンプしながら回転切りを試したところで、着地に失敗。





「あ、ぎゃっ」




 なぜかバランスを崩して横に倒れ込む。


 少し調子に乗り過ぎだな。


 フルフルッ!

『マスター!!!』



 なぜか向こうから白兎が血相(?)を変えて駆けつけようとする。


 ちょっと転んだくらいで大げさだなあ……




 ヨッと体を起こそうとした所で………感じる違和感。





 あれ? 立てない。

 なぜか、右足に力が入らない……………んん?

 




 ふと、見ると、右足が3m程先に転がっていた。






 右の膝下辺りから何か噴き出している。


 


 

 あ、右足を切断してしまった……………





 そう認識した瞬間、激痛が走る。






「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」




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