ろっこめ
「あぁ、イライラする」
そう吐き捨てながら廊下を歩く、美術部所属の中学三年生がいた。
「ルウの絵は、すごく綺麗なのに!なんで褒めてあげられないの!どうしてあんなこと言わなきゃいけないの!もう、嫌よ……」
彼女は、足元から崩れ落ち、廊下の端に座り込んだ。そんな彼女の前に、一人の少女が立つ。
「何言ってるの。貴女には価値がない。これぐらいの事はしてもらわなくちゃいけないわ。ねぇ、セレス?」
少女は、廊下に頽れる彼女に言う。その目には光がなく、虚で、何も映さないし反射しない。
セレスと呼ばれた彼女は、大きく見開かれ恐怖を剥き出しにした目で自分より二つ年下の少女を見上げた。
「あ、あぁっあ、、あ……」
セレスは、恐怖を隠そうともしない。いや、隠せないのだ。
「……はぁ、二つも下の後輩を前にしただけでこんなになるなんて、情け無い」
少女はいじわるく笑い、セレスを見下ろす。
「貴女は、ほんっとうにダメな子」
「…っ!」
少女の言葉を聞き、セレスの表情が変わる。先程まで恐怖一色だった顔に、怒りが散った。
「おまえ!それはっ!その言葉を、言うなっ……」
その時。少女の手が高速で動いた。
「あ、くあっ、か…」
少女の手がセレスの首を捉え、体ごと宙に浮かせる。細く、白く、綺麗な指が少しずつセレスの首を絞めていく。
「あんまりうるさく吠えないで頂戴?」
「やめっ、ろ……」
少女は、セレスの苦しむ顔を無表情で見つめる。不意にふっと視線が外れ、それと同時に手も外れた。
セレスの体がだらりとその場にへたれこむ。その様子は、糸が切れた操り人形の様であった。
何度か咳き込んで呼吸を落ち着かせ始めたセレスを冷たく見下ろした少女は、くるりと踵を返してどこかへ去っていった。
足音は、響かなかった。




