よんこめ
先輩の足音が遠ざかり、聞こえなくなる。私は足元から崩れ落ちた。
……いま、わたし、だれに、なにを、いわれた?
情報の処理が追いつかない。
「…ルウ」
イリスが静かに声をかけてくる。
「だい、丈、夫。気に、してない。」
声を振り絞った。すぐ立ち上がって帰らねば、と気がはやる。しかし、私の足は、私の足でないかのように動かなかった。
「だい、じょう、夫、だいじょう、ぶ。」
私はうつむいてくり返す。
横にイリスがしゃがんできた。
「大丈夫なら、なんで」
泣いているの?
静かな声だった。
「ないてっ、なんか…」
「泣いてるよ」
責めるでもない、事実をただ言う静かな声。イリスは昔からそうだった。真っ直ぐで、違えることなく、物を見る。
……じゃあ、私は?
「ねぇ、イリス。想像って、受け入れられない、のかな」
床にまあるい何かが落ちた。何かが落ちたあとの床に、べちゃりと散った跡が残った。
「そんな、ことは」
「あるのかもしれないね。だって、私一人のものだもん。伝わら、ないんだよ。」
声が震える。
「そんなことないって。私、あの絵好きだよ」
「でも…」
セレス先輩、は、セレス先輩は。
昔、私の絵を褒めてくれた、セレスが___
一時期、セレス先輩を呼び捨てしていた時期があった。先輩なんて、つけなくっていいよ。名前で呼んで? そう言ってくれた。
友達だったはずの女の子は、どうしてだか私を嫌うようになった。
その理由は、きっと___
「先生も、空だけを描けって言ったわけじゃないし、これで提出しても大丈夫だよ、ね?」
イリスの声が優しい。その優しさに甘えて、何でも言えそうだった。
「ねぇ、ルウ、理想だとか、夢物語とか、言われてる物、あるでしょ?あれも一種の想像だよ。でもさ、そういう理想や夢って、綺麗だよね」
無意識にイリスを見ていた。
「ねぇ、ルウ。理想は、夢は、想像は」
イリスの顔が、一層綻んだ。




