さんじゅういっこめ
帰りの会終了後、私はイリスの背中を無意識に追おうとして、やめた。そうだった、今日は別々に帰るのだ。幼稚園、小学校時代、そして中学生の今日まで二人一緒だったせいで間違えそうになった。
「イリス、また明日」
遠いイリスの背中に向かって小さく言う。声は届かずともきっと意味は届いているだろうから、大丈夫だ。
さて、私はイリスに『また明日』と言った。ゆえに、私はイリスが明日も学校に来れるようにしなくてはならない。イリスが潰されないようにしなければならない。イリスが壊れないようにしなくてはならない。脆くて綺麗なガラスのイリスは私が守るのだ。
私は私を奮い立たせる。そうしなければ、思考が仄暗い方へと堕ちていってしまいそうだったから。
数々の違和感を感じてきて、私が出した答えがある。あまり認めたくは無いのだけれど。
イリスは、いじめを受けているかもしれない。
まだ『いじめ』だと決めつけられるほどでないが、確かにそういう動きがある。それを肌で感じる。このまま悪化していく可能性も十分にある。ありすぎる。
「容疑者の検討はついてる。まずは確信を持たなきゃ。そうしないと」
反撃ができない。
ぎゅっと手を握り込んだら、指が軋んだ音がした。体力測定で測った握力は平均より下だったのにな。不思議だ。
さぁ、鞄を背負って。忘れ物してたら家庭学習が面倒だからあんましないように確認して。今日は部活が無い日だからみんなすぐ帰る。教室の鍵を職員室に戻す係に抜擢されないようになるべく早く教室を出ようね。
中学生になってから何回も唱えた帰る前の確認事項。一人で唱えることになるとは思わなかった。
「よし、まず向かうのはあそこ」
穴ボコの思考しかできなくなっていた私はきっと壊れていたのに、ちゃんと歩けるから不思議だった。




