にじゅうななこめ
結局ティアちゃんは欠席した。給食時間になっても現れなかったのだ。少し残念な気はしたが、まあ良いかとあまり気にしなかった。
「今日の配膳当番は3班の皆さんでぇす」
学級長の声が響く。私は机の中から裏紙を取り出し、そこに絵を描いた。
と言っても、そんなに気合が入ったものではない。落書き程度だ。時々こうして気を抜くことも大切だと……セレス、先輩が、言っていた。
落書き。最初はそんな気持ちで始めていたのだが、こういうときに世界はバグるのだ。私は知っている。
「なんかめっちゃいい絵描けた!!」
落書きが、本気で描いた時よりもいい絵になってしまう。
これは、往々にしてよくあることである。
「よし、イリスに見せに行こっと」
私は勢いよく立ち上がった。そしてまず。
給食をお椀に入れている当番たちの元に向かうのだ。
なぜ真っ先にイリスの元へ行かないのか。それはもちろん、当番の邪魔をしてはいけないからだ。
私のクラスでは、給食を配膳する順番が決まっている。教室の奥の方から順番に配るのだ。配膳忘れを防ぐためである。
そしてそれを実現するために、当番はあるルートに沿って動いている。だから、このルート以外で動くとものすごい邪魔になるのだ。それは避けたい。私だって早く給食を食べたいのだ。あと叱られるのが純粋にやだ。学級長さん怖いです。
というわけで、私は給食を配膳し、そのルートを歩く『ついで』にイリスに絵を見せるのだ。ほら完璧。別にあと少し待って休み時間に絵を見せればいいじゃないかという文句の受付所はありません。
私は見事にこの計画を遂行した。
「イーリスっっ」
「…………」
「?」
イリスの返事が無い。どうかしたのだろうか。大丈夫だろうか。
もしかして、自分が先輩たちに避けられていることに気づいて落ち込んでいるのか?
もしかして、ずっと周りを警戒している猫であることが辛くなったのか?
もしかして、もしかして、もしかしたら。
一つ考えるたびに、どんどんと心臓の嫌な音は大きくなっていく。 あぁ、うるさい。
「イリス、絵を、描いたの。見て、くれる?」
あぁ、うるさい。
「……ん……、あっごめん寝てた」
私は見事に拍子抜けした。なんだかさっきまで緊張しまくっていたのが馬鹿みたいだ。
まあ、安心した。




