にじゅうよんこめ
翌日。
私はいつものようにイリスと一緒に登校していた。
「イリス、今日も髪綺麗だね」
「そう?特に大変な手入れはしてないけど……まぁ、ありがとう」
こういう、小さなお礼をきちんと言える人って、意外と少ないのではなかろうか。
礼というのは小さすぎると言う必要性も小さくなり、さらに言うのが気恥ずかしくなるものだ。
ほら、あの、お母さんに「いつもありがとう」って言いにくいのと同じような現象である。母の日とか、何かの節目でないと言おうとも思わないだろう。私もそうだ。
でも、私の親友は「ありがとう」を躊躇わない、いい子なのである。
すごいなぁ、と思う。
そう思っていることを伝えようとしたら、急に風が吹いた。
イリスは即座に反応してスカートをおさえる。ちなみに私のスカートは派手に捲れた。私の反応速度は遅い。悲しい。
下に体育着を着ていたのでことなきを得た。今日の時間割に感謝。
私は一瞬瞑った目を開ける。
すると、爆速で走り去って行くライアちゃんの背中が見えた。
「えぇ……」
なんとこの風はライアちゃんが起こしたものだったらしい。
恐るべし、50m走7秒台。
「なんであんな走ってんだろ……」
「私知らない」
クラスに急ぎの用事があるのか、もしくは教室に一番乗りで入るチャレンをしているか、だ。
このことをイリスに言ったら、「ルウって発想豊かだよね。おもしろくて好き」と言われた。
……微妙に褒め言葉に聞こえないのはなんなんですかね!?
もうライアちゃんの背中は見えない。速い。
ライアちゃんが私を見つけたのに話しかけてこなかったことなんて初めてだ。
もしかしたら急いでいて私に気が付かなかっただけかもしれない。
もしかしたら今まで私が知らなかっただけで、ライアちゃんが私を見つけても話しかけなかったことがあったかもしれない。
そんな「かもしれない」はいくらでも思いつく。
それなのに、私はこの気持ちが悪い違和感を拭えないでいた。




